03-05 霊獣・アファナトス登場!
第5話 霊獣・アファナトス登場!
それはかなり可愛い動物だった。
だがアルビスはそれどころではなかった。
『うひぃぃぃぃっ、これって、最近感じてた視線の主じゃんか!!』
それは間違い無く最近感じていた視線と同じ気配の存在で、しかも近くに来ると存在感が桁違いだった。
はっきり言って金縛りになるほどに圧倒的に強い。
つまりアルビスをびびらせる程の強者なのだ。
だがそんなことはお構い無しな人もいる。
「「きゃーーーーーーーっ、かわいいのーーーーーーーーっ」」
『きゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ』
双子がそれに抱きついた。
もふもふ。すりすり。
そしてそのなにかの嬉しそうな声。
一瞬で空気が弛緩したね。
「金縛りが解けたよ」
なので改めてそれを観察。
身長は1メートルぐらいだろうか。直立した小動物で全体としてはうさぎに似ている。
体毛は真っ白でかおは丸く、真っ赤な目がとっても円ら。
耳が長く大きく伸びているのでうさぎにシルエットが似るのだけれど、うさ耳というよりは蝶のような昆虫の触覚に近いかもしれない。
首の所に毛足の長いふわふわの襟巻があって、尻尾は体の半分もあるふわふわの毛玉のよう。とても軽そうにフリフリ揺れている。
手や足はちょこんとしていてぬいぐるみの様で、人間のように直立してトコトコ動いていた。
「改めてみると超かわいいな」
『きゅーーー』
照れているらしい。
「カナリア、これってなんだろ?」
「えっとすみません、私もわかりません」
アルビスはふむと考えた。
カナリアは忠誠心が振り切れててアルビスのためならえーんやこらな人なので魔物に関する勉強などもかなり時間をかけて取り組んでいる。
この魔境の魔物であれば種類や特性まで網羅しているといってもいいほど。
でもそのカナリアもこの魔物を知らないという。
となると可能性は…
「ひょっとしてアファナトス?」
『きゅっ!』
分からんがな。でも肯定と受け取った。
霊峰からの視線の主で、しかも想像を絶するつわものなのである。そう考えるのが普通だろう。
そのアファナトスはというとアルビスが築城で作ったテーブルの前に座ってお行儀よく、しかし待ちきれない様子でそわそわしている。
アルビスは思った。
まあ、動物がいたら餌付けだよな。と。
それにステーキにものすごく執着しているみたいだし、怒らせると自分では勝てない感じなので穏便にいかないと不味いというのもある。
急遽もう一人前ステーキセットを用意して、アファナトス用に背の高い椅子を用意して移動させ、自分も席に着く。
「それじゃみんな頂こう」
「「「いただきます」」」
『きゅきゅきゅっきゅ』
そして実食。
「「「んまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!」」」
「おいしいですアルさま」
「「兄さまおいしいーーっ」」
『きゅーーーーーーーーーーーーーーっ』
みんながみんな感嘆の叫びをあげた。
アルビスも夢中になって食べた。
柔らかく、噛めば噛むほど濃厚な肉汁があふれ出し、口の中が幸福になる。遠い記憶の中にあるとてもおいしいお肉の記憶、たぶんとってもお高いブランドお肉の記憶をすら、吹っ飛ばすような勢いであった。
美味が口の中を満たし、脳を直撃する。濃厚ですさまじい充足感。
しかもそれでいて後味がさっぱりしていて口にしつこさが残らないのだ。幸せな記憶だけが残る。
黙々と食べた。
他のみんなも。
アファナトスも一口食べてはおいしさに震え、ぺしぺしとテーブルを叩いて感動を表現し、潤んだ目で祈る様に震える。
ぶっちゃけた話をするとアファナトスはこの蛇がものすごくおいしいことを知っていた。
そして彼(彼女?)にはお肉を焼くような知能もあった。
だが残念ながら調味料の組み合わせや、ステーキを焼くコツとかの知識はなかったのだ。
本格的な料理、生まれて初めての感動だった。
アファナトスはいま、天地開闢をその目で見たのだ。(それほどか?)
しばし夢中で食事をする音だけが響き、その後全員が草原に転がって余韻に浸る幸せな時間が流れたのだった。
◇・◇・◇・◇
食休みをしていると双子がウゴウゴと動き出す。
(小さい子だからなあ…)
まあ、じっとしていられないのだ。
その双子が興味深そうにアファナトスを見ているとそのアファナトスも動き出して三人でじゃれ始める。
アファナトスはそりゃ無茶苦茶強い生き物のようだがどうやらそれなりに知能が高いらしく、しかも子供に悪意はないらしいと分かって一安心。
きゃっきゃうふふきゅきゅきゅと鬼ごっこをして楽しく遊ぶ三人。
だがすでに時間は夕方である。
夕焼けが山を染め、楽しい時間の終わりを告げる。
別れの時がやって来たのだ。
「これ持ってく?」
アルビスは蛇の一mほどのぶつ切りをアファナトスに渡した。
アファナトスはやはり喜んでいるのが分かった。
好物なのだろう。
そこで一瞬アファナトスの動きが止まった。なにを? と思っていたら姿が消えて、まず双子の後ろに。
そしてチビたちの延髄をズビシッと手で突いた。
「うぎょ」
「ふぎゃ」
頭を押さえてうずくまる二人。
「何を…」
と一瞬焦ったアルビスだったがクロノが。
《お礼。だそうであります》
アファナトスが出てきてからずっと引っ込んでいたクロノだったがそれが必要だと思ったのか出てきて通訳をしてくれた。
どうやら片言ぐらいで意思の伝達はできるらしい。
その言葉は正しいらしく双子もすぐに常態復帰。
アファナトスはそのままカナリアの後ろに回って同じように延髄にズビシッ! そして最後にアルビスの所に来て…首をひねった。
「えっと何かな?」
振り向いたアルビスの今度はおでこに手を伸ばして手の先をぐりぐりと押し付ける。
意味不明だった。
そしてその後、アファナトスは空に飛びあがり、ものすごい勢いで霊峰の方に飛んで行ったのだった。
「不思議な一日だった」
「うん、楽しかった」
「でも最後が痛かった」
「アルさま、これ、かなり痛いです」
「なんで僕だけ除外?」
納得はいかないがもう帰る時間だ。予定よりも遅くなっている。
三人は地上をいくのをあきらめて空をとんで城に戻っていった。
◇・◇・◇・◇
「なんでーーーーーっ」
なぜかアルビス以外の三人がそろって熱を出して倒れた。
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6月アルビス7さい9か月。双子5歳5か月




