03-03 十大王獣ってなに?
第3話 十大王獣ってなに?
その少女はケイト・セスタといった。
セスタ男爵家のお嬢さんで現在14歳。あとちょっとで成人である。
しゃべり方がやたら丁寧で変わった人という印象。お嬢様言葉というやつだ。でも喋り方に反して気さくなお姉さんだった。
おまけに子供好きらしくエドワードとディアーネに絡まれてにっこにこだったりする。
「あまり気にしない方がよくてよ。レムニア閣下が復帰なされたの。と言ってもあなたたちにはわからないかもしれないわね。
とても素敵な方なのよ。
一時期お身体を悪くしていたと聞いて本当に心を痛めておりましたの。
でも…」
と、ケイトは饒舌に語る。
レムニアはまあ、レジェンドだ。特にこの地方の女性にとっては女神のように崇拝されているらしいのが彼女の言葉からよくわかった。
そのレムニアが一線に復帰して精力的に仕事をしている。
しかも綱紀粛正のために身を切る改革をしている。
領内のまっとうな人たちからはまさに希望の星が帰ってきたような感覚で受け止められているらしい。
なので。
「ああ言った方たちが近ごろ自儘にしていたのは悲しい事ですわ。ですがレムニア閣下がそれではいけないと、わたくしたち貴族も努力をせねばならぬとお示しになられたの。
彼らもきっと心を入れ替えるでしょう、そうせねばならなくなるはず。
そうできなければ淘汰されるだけですもの…」
(ふーむ、これは現実をちゃんと見ているのか…もしくは夢見がちなだけか、ちょっと判断に困るな…)
アルビスは思うのだ。
なぜならしょうもないやつがいたらレムニアにチクるつもり満々だし、いいやつがいたらぜひ推薦するつもり満々だから。
ただ現状では判断は保留と。それよりも…
アルビスはちらりと遠くに見える山の頂を見た。
「さっきから霊峰が気になるようですわね」
ケイトが不思議そうにアルビスを見た。
そう、アルビスは霊峰というかどうかは知らないが、麓から見える一番峻厳で高い峰が気になっている。
もっと言うとそこから感じる視線が。
(前にも偶にあったけど、今回はずいぶんはっきりしているよね)
何かにじっと見られている感じがしているのだ。
でもそんなことはケイトにはわからないので。
「無理もありませんわ、あの霊峰はとても美しい峰ですもの。あそこにこの国の守護霊獣アファナトスが住まうという伝説があるのですわ」
「ふえ?」
「「ふえ?」」
「あら、御存じなかったの?
仕方ありませんわ、ではわたくしが説明してさしあげますわ。
この世界には十大王獣と呼ばれる強大な力を持った存在がいるのですわ。
人に優ししい存在も、恐ろしい存在も…」
ケイトはこちらもファンらしい。
だがファンに語らせると無駄に話が長くなるので代わって解説しよう。
十大王獣というのは精霊や神ではない魔獣のことだといわれている。特に有名なのが十体いるので十の大魔獣の王なんて言われているんだ。
人間に友好的なものを『霊獣』と呼び、人間に敵対的なものを『凶獣』と呼ぶことになっている。
まあ、中にはどちらかよくわからないものもいるんだけどね。
この国にいるのは霊獣で、名前をアファナトスという。霊獣アファナトス。
そう、この国『アファナシア王国』の名前の元になった存在だ。
伝説によるとアファナシア王国は昔は別の名前の国で、このスクード地方にある小さな国だったそうだ。
北からくる魔物と戦いながら、南にある農地を耕す小国だったという。
あるとき北の魔境が氾濫した。
唐突だけどそういうこともあるのである。
人間たちは力を合わせ、魔獣たちと戦った。この時人間たちが籠城したのが現在のスクード城だった。
お城が大きく、内部に生活スペースが作られているのはこの故事に由来するもので、城に立てこもり戦い続けられるようにという決意から来ているのである。
まあ、その氾濫の時に一人の英雄が現れた。
彼は仲間たちと魔境に突入し、数多の魔獣を倒していったそうだ。ただそんな無茶が続くはずもない。
戦って、戦って、戦って、もうこれ以上無理…となったときに天の助けが現れた。
それが霊獣アファナトス。
彼? 彼女? それ? は、その場にいた魔獣を蹴散らし、英雄たちを助け、一つの武術を伝授した。
それが【重合剣】という武術。剣に限らないので正確には【重合闘術】が正しいかもしれない。
英雄たちはその技をもって魔獣に対抗する術を得てついに氾濫を乗り切り国に安寧をもたらしたのだという。
彼はこの国の王子だったそうな。
それ以降、その王国は霊獣アファナトスを守護霊獣として大切にし、国名をアファナシア王国に改名した。
建国神話なのである。
だが霊獣とのかかわりはそれだけでは終わらなかった。何代か後にやっぱり弟子入りに成功した勇者が南のドラゴンを倒して豊かな国土を手に入れたり、外敵に追い詰められたときにやはり弟子入りした英雄が国を救ったりというのが何回かあったりするらしい。
なので守護霊獣。
そのアファナトスがもたらした重合闘術は今も王家の秘匿剣術として『重合剣』の名で継承され続けているとかなんとか。
その霊獣が住むというのがアルビスが視線を感じる霊峰だったりするのだ。
ちなみにどんな姿をしているのかは詳しいことは伝わっていない。
神々しいとか、恐ろしいとかいろいろ言われている。
「ではわたくしたちは参りますわ。わたくしも未熟者ですからね、修業の日々なのですわ」
そんな話をアルビスたちに教えた後、ケイトはアルビスたちを一回ずつぎゅっと抱きしめて自分の修業に向かって山を登っていった。
良いお姉さんであった。
しかしその後も視線は途絶えない。
(うーん、これはやっぱり僕を見ているよな…)
もと日本人だからね。
自意識過剰だったら恥ずかしいな、みたいなのがあるんだよ。
その意味でも警戒しています。
◇・◇・◇・◇
さて、アルビスたちの目的も実は修業であったりする。
主に魔法の。
魔法能力を伸ばすために自由に魔法を使うことが必要なのだ。
魔力修業はもちろんだが実戦も大事。
ちなみにみんな魔力修業は続けていて、それどころか徐々に広がりを見せていたりする。
アルビスがベアトリスやレムニアにそれを教えているからだ。
小神様の教えてくれた修練法ということになっている。そうなるとそれだけで結構な人気なのだ。
そして実際に効果を上げている。
誰もが魔力の伸びを感じていたりする。
レムニアの精霊もつい先日二属性になったし、ベアトリスもまだ次の属性は来ないが、使える魔力の量とか強度が確実に上がっていた。
そこらへんは日常的に回復魔法を使っているので目に見えて分かるのだ。
そうなるとそれをやりたいという人も増えてくる。
「これは健康法としても秀逸だからね」
アルビスはそんな認識も持っている。気功みたいなものだから健康にいいだろう。
まあ、実際魔力量が多いといろいろといいことが多いのだから、ほぼ正解である。
「うーん、やっぱり気になる」
「何がですか?」
やはりカナリアたちは視線に気が付いていなかった。だが…
(確認はしてみたいけど…またあとでだね)
アルビスは考える。
相手がいるのは山の頂上付近だろう。
この山はたぶんエベレストとかそういったレベルで高い。しかも山脈である。
空が飛べるのでそれほどではないかもしれないがいきなりの登山は危険が危ない。やめとけ。といった話なのだ。
「じゃあ今日の訓練を……」
そこまで言ってアルビスはぞわりとした怖気を感じた。
本能的な恐怖感に訴えるような何かだ。
「「兄さま?」」
「アルさま、どうかなさいましたか?」
「うん、これはたぶんよくないものだ。
ちょっとここで待ってて」
そういうとアルビスはひらりと飛び立った。
ちょっと注意力散漫なのだ。
双子は当然のように後をついてきたし、カナリアも追いかけてきた。
アルビスは気が付かなかった。
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6月アルビス7歳9か月。双子5歳5か月




