03-02 子豚が襲ってきた
第2話 子豚が襲ってきた
アルビスは振り返った。
顔がちょっと喜んでいたのは秘密である。
そして振り返ったアルビスの視線の先にいたのは…
「子豚?」
ぶふっと吹きだす声が周囲から聞こえた。周りの大人たちだ。
これがちょっと不幸だった。
最近は冒険者ギルドは『品性』なんかにもうるさいのである。何といっても改革の真っ最中なのだ。冒険者が冒険者に絡んでいたりしたら注意を受ける。
そんな環境なのだ。
だが今回はそうはならなかった。『子豚?』の一言で空気が緩んでしまったから。
そう、アルビスの前に立っていた少年は、なんというか立派な子豚だったのだ。
※ ※ ※ ※ ※
【名前】ゼント・ダッツ
【種族】人族(こぶた?)
【性別】男
【年齢】12歳
【評価】ぶったーぶったーこぶたー(笑)
【備考】太ってる。でぶ。悪ガキ。
※ ※ ※ ※ ※
鑑定結果である。
精霊たちに『子豚』がウケてしまったようで情報がそれ一色になってしまった。
あまり性格がよくないことぐらいしかわからない。
ただ見た目はインパクトがあった。
本当に丸々と太っている。
着ている服もちゃんとしたもので、ズボンにシャツに上着なんだけど、おまけに貴族家を示す紋章も入っているのだけど、胴回りが太くてシャツは腹だけボタンが閉まらずにへそが見えているのだ。しかもでべそなのだ。
12才とあったが背も高くなく、子豚と呼ばれるのもむべなるかなという気がする。
「あー、お腹パンパンだ」
「おもしろーい」
「ねえねえ兄さま、オーく? オーク?」
弟妹のウケも非常によろしい。
「ごめんな、兄ちゃんじつはオークってみたことなくってよく知らないんだ。これがオークに似ているかわかんないや」
ビキッ
あっ、青筋が浮いた。
こうなるとどちらが絡んでいるかわからない。
質の悪い貴族が子供に絡むのなら助けなければと思っていた職員もいたのだが、すでにどう判断すべきかわからなくなっている。
「きっ、きっ、きっちゃま、無礼なんだぞ! 吾輩はダッツ男爵家の嫡男、ゼント・ダッツなんだぞ。
貴族だから偉いんだぞ」
アルビスは彼の後ろを見る。
護衛の騎士が四人ほど。
あと荷物持ちが一人。これはおそらくだが壺中天を背負っている。
他にはなぜかメイドが三人。
ひょっとしてこれで魔境に行くんだろうか?
「当然なんだぞ! 魔境に挑むのは貴族の崇高な義務なんだぞ。
だからお前らみたいなガキが来ていいところじゃないんだぞ」
(はて? 言っていることは分かるけど、それなら何で僕たちにだけからむんだ?)
子供冒険者というのは他にもいる。
迷宮で薬草取りという草むしりしているのが結構いる。
なのになんで?
アルビスがそう思ったとき、同じような薬草取りの子供冒険者が通り過ぎる。
食い詰めた子供の最後の砦みたいなのが冒険者だ。
子豚ゼントはその子供を見て、そのみすぼらしい格好を見て優越感に満ちた顔になった。
フンとか言って。それでわかった。
(あー、なるほど、俺たちが割といい服着ているから敵認定されたのか)
アルビスたちは冒険者風なので貴族には見えない。
だがすべてアルビスが手を加えた装備なのでそれなりにいいものである。というか微妙にかっこいい。しかもほぼ新品である。
対してゼント君は、まあ、普通の服なのだが、おつきの騎士やメイドはちょっとくたびれて見える。
歴戦の~とか言うとそれなりに聞こえるが、平たくいうとちょっとみすぼらしい。
ゼント君もそれは気にしていなかった。そういう感性がなかったのだ。部下は自分じゃないんだからどんな格好でもよい。たぶんそんな感じで。
だが、アルビスが連れているカナリアは目立った。
高価そうな盾、よくわからないが高価そうな武器そしてスタイリッシュな戦闘服。
多分それが気に食わなかったのだ。
なんか面白くて笑ってしまった。
「わっ、笑ったんだな、しつれいなんだぞ、くそーーー、生意気な奴め。懲らしめるんだぞ!」
切れやすい子供だ。
しかしその子供の指示に諾として従う護衛騎士、四人が前に出てきて威圧してくるがそれを受けたのはカナリアだった。
アルビスたちの前に出て盾を置いて胸を張る。
カナリアもあれからずっと、アルビスの指導で魔力修業をしているのではっきり言って魔力が伸びている。
はっきり言うと精霊がやってくるぐらいには。
ドヴェルグらしく最初は地属性の精霊で、まだ一つ属性なのでアルビスたちは見たことはないのだが、蜘蛛であったりする。
精霊というのは大体SDなのでアルビスはどんなんだか期待しているのだ。
(たぶん可愛い、あれみたいに)
あれって何?
まあともかくカナリア一人の放つ圧力は四人と拮抗するレベルだった。
護衛のリーダー『カクタス』は驚愕していた。
(バカな、こんな小娘に俺たちがおされるだと…)
そんな様子を見て(うんうん、カナリアも成長しているよね)とかご満悦のアルビス。
だけどこのままというわけには行かない。
自分も威圧を…と思ったところで。
「何をやっているんですの? 子供相手にみっともない」
涼やかな女性の声が割って入った。
◇・◇・◇・◇
それはちょっとした美少女だった。
貴族の記章をつけているので男爵令嬢とわかる。
後ろに女性騎士を二名従えている。
年のころは15歳前後。
金色の髪を伸ばし縦ロールにして凛々しくたっている。スタイルはまだ発展途上である。
鑑定はしません。アルビスも敵対的でもない人をいきなり鑑定するのは失礼なことだと理解しているのだ。
まあ、独善的にケースバイケースなんだけど。
「何ですか、大の大人が子供たちにみっともない。恥を知りなさい」
「なっ、なんだと、僕は礼儀を知らない平民に礼儀を教えているだけなんだぞ、どこのどいつかしらないけど、女が余計な口を出すななんだぞ。
女なんて何の役にも立たない石潰しなんだぞ。
女なんて男のいうことを聞いていればいいんだぞ。
引っ込んでいろなんだぞ!」
その台詞を聞いて少女は眉をひそめた。
そして子豚の後ろをちらりと見る。
メイドたちはうつむいているが護衛の騎士たちは得意そうにしている。どうやら同じように思っているらしい。
「なかなか嘆かわしいセリフですわ。
ダッツ男爵家でしたかしら、レムニア閣下の治世に文句があるようですわね。
レムニア閣下こそが有能な女性の見本のような存在でしょうに。なんて時代遅れなんでしょう」
「誰なんだそれ、そんなやつ!」
そこまで言ったところで後ろから騎士のカブトが子豚の頭に振り下ろされた。
どうやら付き従っていた騎士の中に機転の利く奴がいたらしい。
「うごごごごごっ」
頭を抱えてうずくまるゼント・ダッツ。だが身勝手はまだ鳴りを潜めているわけではないようだ。
別の騎士が腕を極めて抑え込む。あくまでも介護する様子を貫きながら。
「うぎゃーーーーーっ」
「ゼント様、これはいけません、お具合が悪いようだ。
ご令嬢、申し訳ありません、若様は急にお具合が悪くなられたようです」
若様、苦痛に顔をゆがめて脂汗を流している。確かに具合が悪そうだ。
かなり思い切った暴挙だが、このまま若様を喋らせるとおそらく不敬罪で男爵家が消し飛んで、おまけにここにいる全員の首が物理的に飛んでしまうのが目に見えているので騎士たちも必死だったりする。
騎士たちもまさか自分たちの主君のことを知らない貴族がいるとは思っていなかったのだ。
少女はこれ以上事を荒立てる必要もないかとこの辺りで引くことにする。
「わかりましたわ。
ではこの子たちにも謝罪をするべきですわね」
「なっ、ぎょげぐががががっ」
なんと言おうとしたのかわからなかったが子豚の発した言葉は最初の一音だけで途切れた。
「きっ、君たち、私たちが悪かった。これはお詫びだ。許してほしい」
騎士はそういうと銀貨を数枚出してアルビスに握らせた。
そしてゼント少年に何も言わせないように取り囲んでそそくさと離れていってしまった。
それを見送り。
(主はバカだったけど部下の方は…機転《《だけ》》はきく奴だったな)
なんて思う。
そして…
(このお嬢さんはこれで治めるつもりみたいだけど、まあ、ちゃんと諫めたからそれでいいんだけど、僕はレーン様にチクっちゃうもんね)
てなことも思っている。
でも一応助けてもらったからお礼は言わないとね。
「ありがとう、お姉さん」
アルビスはにっこりと笑いかけた。
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6月アルビス7さい9か月。双子5歳5か月




