03-01 あったらしい春が来た
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第3章 (ながれで)弟子入りする魔法使い
第1話 あったらしい春が来た
春が来た。
迷宮のお披露目とか、新しい子爵家つまりアルビスの家のお披露目も済んで、新年のあいさつに集まってきていた貴族たちもみな帰路についた。
春になるといろいろなものが蠢き出すため忙しいのである。
魔境の魔物とかいろいろ。
それに対する春の狩猟大会も行われた。
辺境伯家の騎士は軍事力としての第一騎士団から第四騎士団までの四騎士団と、治安維持にあたる治安騎士団。辺境伯直属の近衛騎士団がある。
第一騎士団~第四騎士団までは戦闘部隊、輜重隊、救護隊、斥候・連絡部隊、魔法部隊などの一通りの人員でくみ上げられた一軍のような編成になっている。
そこから各々中隊が一個出撃し、さらに治安騎士の半数が導入されて大規模な山狩りが行われたのだ。
春はゴブリンが大量発生して、しかもゴブリンは食用にも素材にもならないので人気がない魔物である。そのため冒険者も積極的に狩ろうとはせず、放置すると大変なことになるのだ。
一応魔角が取れるので一匹いくらで買取している。というか辺境伯家が賞金のようなものをかけているのだが、予算も際限なくあるわけではないし、いい訓練にもなるのでこの時期に大々的な領軍による軍事行動が行われるわけだ。
これがアイゼン周辺の狩猟大会の内情である。
で、これも無事終了。
通常騎士の方は少しなまったぐらいで問題小さかったが、治安騎士の方はゴブリンに蹴散らされたりして大変だった。
本当に組織の危機だったようだ。治安部隊がそれでは困るのだ。
「危なかった、このままではスクードが滅びるところだった」
とかレムニアがしみじみこぼしたほど。
そんな感じなのでけが人が大量に発生して、辺境伯家の回復魔法士だけでは足りなくてベアトリスはもちろんアルビスまで駆り出される始末だった。
「まあ、来年からもやるって言ってあるし、これで心を入れ替えるでしょう」
「そうなるといいわね」
そんな会話がそこかしこであったらしい。
そのアルビスだが冬から春にかけてはなかなかに多忙だった。
アルビスは現在お城に住んでいる。
スクード城だ。
この城。別名を白兎城という。
かつてアファナシア王国がこの地方の小国でしかなかったころ、この城はここで暮らす人たちの唯一の拠点だった。
頑丈な城壁に守られた巨大な敷地を持った城、人々はこの城にこもって北の魔境に挑み、南の農地を耕した。
今は国土が広がり王都も南に遷都したがこの城は当時の名残として貴族や民が立てこもって戦える構造をのこしている。
貴族とその配下が暮らせる区画がいくつもあり、この地方の上位の貴族はその区画の一つを与えられている。
つまり城は小さな町なのだ。
アルビスたちはレムニアからその区画のうち、一番いいものを一つ与えられた。
武骨ながら白くて四角くて、でも精緻な彫刻が施された一つの館と言っていいものだった。
他の区画が一言で言うと蜂の巣のような実用性最優先の構造であることに比べると庭付きのお屋敷のようなここは確かに格が違う区画と言える。
事実上、現在エレウテリア家はスクード家に続くナンバーツーといった立ち位置なのだ。権威的に。
しかしそれは逆に言うととっても不便と言い換えることもできる。なぜならかなり初期からある区画で、近代化とは縁のない構造をしているからだ。
双子は穴が開いただけの暗黒のトイレに恐怖し、アルビスは湯船のないお風呂に悄然とした。
ならどうするか。
「改造するでしょ」
まあ、当然の流れである。
上階の一室を水をくみ上げ、溜めておくタンクに改造し、アルビスの改良した魔道具のポンプをつけ、それから屋敷の各所に配管を通し、蛇口をひねると水が出るようにした。
トイレも当然水洗にする。和式だけど。
さらに一階の一室を改造し、お風呂を作った。湯船を作ったのだ。
アルビスはもちろん、双子ちゃんもお湯なしの御風呂など考えられないぐらい日本式になれてしまったのだから仕方ない。
だが、ここでレムニアの悲鳴が上がった。
つまりセンスの問題である。
アルビスは現代日本のデザインの中で人格を形成したわけで、無機質なまでにノペッとしたシンプルなデザインに全く抵抗がない。むしろSF的でかっこいいまである。
なのでアルビスの作ったそれらは当然近未来風のデザインになる。
だがここは歴史と伝統のある建物なのだ。
美しい重要文化財の中にコンクリートで部屋を作るような物というと分かるだろう。違和感バリバリ。
でもレムニアだってアルビスの作るアイテムの機能性は理解している。できれば自分のところにもほしいと思っているし、その計画も立てている。
解決策として彼女が選択したのはフリーマを呼ぶことだった。
領内においてホテルなどを経営しているドヴェルグの女性、レムニアの先輩格。彼女の本職は建築で、建築ギルドの偉いさんだったりするのだ。
結果、アルビスの改造に芸術的な装飾が加わることになった。
見た目が問題ならそこを何とかすればいいのだ。
おかげでお風呂やトイレがなんかローマ的なロマン建築になってしまった。
「まあ、いいけどさ」
どんなに芸術的だろうとトイレはトイレだ。うん。
慣れれば気にならないのである。
だがこれがアルビス以外の人たちに刺さった。
極めて機能的で利便性が高く、それでいて芸術的。
刺さらないはずがない。
さらにアルビスはシーリングライトなども作った。勿論芸術的になった。アルビスくん家はとても住みやすくなりましたとさ。
さて、そうなるとやり手の女性はどうするであろうか。『やあ、いい仕事したなあ』で終わるであろうか。答えはNOである。
フリーマはアルビスに頼み込んで特許契約のような物をして自分の工房(会社ではないのだ)でそれを作れるように交渉した。
これがアルビスの事業になる。
建築されれば当然に特許料のようなものが入るのだ。
そしてまずレムニアの居住区画の改装が決定したのだ。
レムニアとフリーマの熱い要望で。
レムニアはやはり一番に自分の生活環境を改善したかったのだ。そしてフリーマは実験としてとりあえずどこかをやってみたかったのだ。
友情って素晴らしい。
もうこうなるとアルビスの出番は……以外にあった。
もちろん作り方などは、一緒に作っていく過程で詳しく教えたわけだが、高性能の魔道具はアルビスの謹製のようなもので、結局アルビスが作ることになったし、壁の中に穴を通して水を配る管を構築するのは、アルビスなしではかなりの大掛かりになってしまう。他の人間にはできないのだ。
というわけでアルビスはこの春まで、お城の中の工事に追われることになってしまったのだった。
勿論報酬はいただいた。かなりの額だった。
その後、春の挨拶があって、やって来た貴族たちがペチカや水洗トイレにびっくり仰天して、欲しい欲しいとフリーマの所に詰め掛けてフリーマはウハウハで、特許料みたいな形でアルビスにもお金が入ってアルビスもホクホクなのだった。
◇・◇・◇・◇
そして今日、アルビスは冒険者ギルドにやってきていた。
「あら、アルくん、いらっしゃい」
クロエさんは受付のフロアチーフになりました。
ここ冒険者ギルドでも改革は進められている。
まず真面目に働く人が出世した。
「忙しすぎるー、まじめにやって来たのになんで俺がこんな目にー」とか叫ぶ人もいた。
まじめにやってきたせいである。
ご褒美だか罰だかわからんのである。
ただ、一番問題のありそうなギルドマスターは慰留された。
「仕事の鬼になるか地獄で亡者になるかどっちがいい?」
みたいな?
これって慰留なんだろうか。
当然ギルドマスターは仕事の鬼を選んだ。
仕事の内容が違いすぎるからレムニアの部下にギルマスをやらせるわけには行かなかったのだ。
ただし監視はついている。秘書の形で。サブマスにまじめな職員を起用して、ミスすればギルマスの命運は風前の…みたいな感じにもしてある。
彼はいま、後進が育って自分が懲戒免職されるその時を夢に見て頑張っているのだった。
まあ、一部のご愁傷様を除いてだんだん住みやすくなっているということだ。
それはさておき。
「これをお願いします。あとこれ」
アルビスはまず一枚の書類を出した。
それは薬草の採取依頼書だった。
「いつもありがとうございます」
長年のいい加減な仕事のせいで冒険者ギルドははっきり言って評判があまり芳しくない。
特に薬草の採取などは、あまりよくない薬草類を平気で納品する冒険者と、扱いのいい加減な職員のせいで、薬づくりの人たちからの信頼がとても低かったりするのだ。
ただ薬草類の採取は低ランクの冒険者の重要な収入源なので、無くすわけにもいかない。
もちろんこれもてこ入れが入って半端な薬草は弾かれるようになってきたし、職員や冒険者に対して正しい薬草採取の仕方や取り扱いなども教育され立て直しが図られている。
それでも一度失った信用は簡単に戻らないし、有用な人材も簡単には育たない。
なのでベアトリスはあえて冒険者ギルドに薬草採取依頼を出すようにした。
人材の育成のためという側面が大きい。えらくなるとなかなか大変なのだ。
もちろんそれではいい薬草が足りないのでその分はアルビスたちが集めてきて直接使っている。
アルビスが出した依頼書は採取を依頼する依頼書だ。
アルビスが受けるわけではない。
自分で依頼を出して、自分で採取して、自分で報酬を出して、自分で報酬を受け取るとかどんなマッチポンプだ?
あくまでも依頼は依頼、使う分は使う分だ。
そしてもう一枚の依頼書を出す。
これは狩猟依頼書だ。つまりお肉を取ってきてねというやつ。
これはアルビスが所属する冒険者パーティー(名前はまだない)が依頼を受ける。
こういう仕事をしていかないとカナリアとアルビスのポイントがたまらないのだ。
つまりランクが上がらないのだ。
なのでアルビスも冒険者をしないといけなかったりする。
でも双子が付いて来ている段階で、サラリーマンではないが気楽な稼業と言えるかもしれない。
「ではアルさま行きましょうか?」
「うん、行こう」
「「わーい、いこう」」
もちろんここにいるのはいつものメンバーである。
だからだろうか。
「はっ、全く、ここはガキの遊び場ではないんだな!」
そんな声がかけられてアルビスは小さな声で叫んだ。
『ぬおおっ、てんぷれきたー』
「「てんぷら?」」
双子ヨ、それは違う。
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6月アルビス7歳9か月。双子5歳5か月
暫くは一日一話の更新予定です。




