02-48 一件落着と~その後
048 一件落着と~その後
このようにして一件落着したわけだけど、物語のようにめでたしめでたしでカタが付くわけではない。『やるべきことは多々あろう』という感じになるのだ。
まずアーマデウスの攻撃で倒れた敵二人のうち一人はまだ息があったのでナンナの治療で癒されて捕縛された。これにナンナは『精霊武器』を使ったが、回復術師らしく彼女の精霊武器は回復系だったようだ。
そこでアルビスは気が付いた。
ひょっとしたらナンナの弟子の人が助けられないかな? と。
心臓一突きだったし、まだそんなに時間がたっていない。
親切心というよりも実験したい感じがあったのは否定しない。
『けりゅけいおんーーーん』
こういう時にだみ声になったりファンファーレが欲しくなる人はいろいろ手遅れな人です。
さて、結果から言うと蘇生には成功しました。
魔法的な力で無理矢理の蘇生と生命維持。
脳が破壊されていなければ血液さえ十分に循環していれば人間は死《《ね》》ないのだ。
そして周辺には回復魔法の使い手がいっぱい。
無理矢理死んでない状態で周りのみんなが回復魔法を駆けまくって何とか生きていられる状態に持ってくることに成功した。
アルビスがびっくりしたのはナンナが心臓の修復を行ったこと。
自分でやるつもりだったがどうやらナンナは解剖学の知識もあったらしい。あと血液の補充にも気を配っていた。
これはナンナが長い間回復術師としてかつどうし、その過程でいろいろな、本当にいろいろな経験を積んで身につけた知識が元だったりする。
体系的な知識ではなく経験則としての知識だ。だから弟子たちに正確に伝授できていたりしないのが残念。
もちろんアルビスの精霊武器の力とか、その他もろもろはナンナたちをものすごくびっくりさせた。当然である。
『これもすべて大精霊様(ハム神様)のご指導の賜物です』
『ああ、本当に小神様(ワンワン王様)には感謝の言葉がないわね』
誤解って実は素晴らしいことかもしれない。
ここからは二手に分かれてベアトリスはアルビスたちと先行してお城に向かい、けが人は近くの宿場に置かれて治療を行う。といった感じだ。
ナンナはけが人組である。やはり回復の経過を見守らないといけないというのもあるのだが、魔法の効果を検証したいという思いが勝ったみたい。
こういうのを類は友を呼ぶというのだ。
そんでコーマ女子が水神流の代表代理としてベアトリスたちに同行してお城に向かった。
可愛そうに。
そしてレムニアはナンナが来なかったことに内心胸をなでおろした。『やった。怒られなくて済むわ』ということだ。やっぱりちょっとポンコツな辺境伯様。
後日遅れて到着したナンナにちゃんとゲンコツをもらってました。
その後は今回の事件の処理が進んでいって一段落といった感じだろうか。
すぐ終わるような物ではないので現在進行形だけどね。
まずは綱紀粛正。主に治安騎士隊のテコ入れだ。官憲が賄賂とかもらって罪を見逃すようになったら終わりなのだ。
と言っても細々したところまでやると数が半端ないし、人員が減りすぎて帰って治安が悪くなる。
なので質の悪いものが見せしめのために処刑されてそれをもって綱紀粛正とした。
今までやった細かいのは見逃すけどこれからやったらただじゃおかないぞ。という感じだ。
それに加えて内部通報制度が導入される。内部通報制度と密告制度の違いって何だろう? 多分賞金が出るかどうかだと思うな。
匿名で素行の悪い上司や同僚が報告され、それに基づいて近衛騎士団が調査、処罰を行うわけだ。
一度には無理だから順繰り処罰していけばかなりまともになると思う。
この場合の処罰っていうのは処刑だからね。
しばらくの間は汚職役人などは戦々恐々。犯罪にどうこうというような余裕はないだろう。
そしてレムニアの妹のコリ子爵のところにも査察が入った。
うん、まあ、こいつも自分に甘いタイプだった。ただアグニア卿のように明確な犯罪はしていなかったようだ。税金を多くとって贅沢をしていたような感じ。
私腹を肥やした分の返還と、同額を自腹を切って領内に還元することを命じられて涙目だったようだ。
もちろん両名とも辺境伯家の親族としての権限ははく奪された。うん。
こうして役人と貴族に対する締め付けが始まり、当然反発があるわけだ。
直談判に来たろくでなし貴族が何人かいたわけだよ。
怪我がひどくて引退するはずだったのに当主など務まるのか? みたいな文句を言いつつ。
レムニアはこいつらを『回復したことを証明する』と称して訓練場で立会形式でぼっこぼこにしてしまった。 そりゃもうおつきの騎士も含めて数十人を完膚なきまでに。
レムニアさんは三大剣術ではないがアファナシアの王家闘術といわれる【重合剣】という剣術の剣聖なんだそうな。かなり強かった。
そのうえでこれらの貴族家にも査察を入れて、問題のある家をいくつか取り潰す。
そうなるともう誰も文句を言うものはいなくなった。
まあ、水面下ではわからないけどね。
強権発動の形だがこうしてスクード領の綱紀粛正は一気に進んだりしたのだった。
そうして春がやって来た。
◇・◇・◇・◇
「ベアトリス・エレウテリアーに、レムニア・ティフォス・スクード辺境伯の名において子爵位を授けるものとする。これと併せて城内の第二領域をその専属領域として与え、法位爵位に対する年金として100金貨を与えることとする」
「謹んでお受けいたします」
この地方は雪が深いので貴族が集まれるのは春になってからだ。
まあ、春とはいってもまだかなりの早春。
本格的に春が来ると魔物が元気になって魔境が騒がしくなるので、その直前の魔物の動きが鈍い短い期間に領内の貴族は領主たる辺境伯に対する挨拶のためにここに集まるのだ。
その機会に塩の鉱脈が発見されたこと。それが鉱脈と呼んでいいレベルであること、さらに迷宮化していて際限なく再生が見込めることなどが報告され、さらに塩の採掘事業が辺境伯家の主導で行われることなどが合わせて発表された。
もともとあの場所は開拓と防人のために下級貴族に与えられていたもので、今回のことでエレウテリアはその職責を全うするのが難しくなってしまったのだ。
であれば普通は別の貴族が領地を治めるために派遣されるのが定石なのだけど、塩の事業を下手なやつに預けるわけには行かない。
なのであの場所を辺境伯家の直轄地として管理することにしたわけだ。
ただ事業と領地は別なので塩の採掘事業の権利はエレウテリアにあって、これに関してはエレウテリアがスクード家に管理を委託して、利益の一部をもらうような形にしたのだった。
なのでまず子爵位に対する年金として100金貨、日本円で2000万ぐらいが支払われて、それとは別に塩の事業の利益のいくばくかがエレウテリアに支払われることになる。
そして前述の第二領域というのは褒賞の一つだね。
前にも出たけどこの城はかなり大きくて、領内の貴族が部下と共に起居できるスペースが割り当てられている。
第二領域というのは本来であれば辺境伯家の上位の親戚筋の貴族が領有するような上位の領域で、もし先代の辺境伯が隠居でもしていたなら住んでいたかもしれないような立派な領域になる。
かなりの大出世であった。
それによって増える貴族的なあれこれを考えるとちょっと気が重たいベアトリスだったが、彼女にとってこれはコンラートの形見と言えるものだ。
おまけに彼女には三人の子供がいる。
子供たちのためにも頑張らねばと気合が入るベアトリスだった。
まあ。
『まったく、たまたま塩を見つけただけの成り上がりが子爵様か!』
『亭主の命の代金と見れば妥当なのではないか?』
『領地を売って爵位を買ったようなものだ!』
なんて心無いやつらもいるにはいる。
だがまあ、それが人間というものだろう。
敵もいるが味方もいるのでよしとする。
さてそのころ我らがアルビスは。
「うーん、やるべきことが沢山だな…今までお金がなかったから何もできなかったけど、年金も入ったし、事業も動き出したし!」
なんてなことを言っている。
ここで言う事業というのは『トイレ』や『水道システム』さらには『ペチカ』などの発明品の販売のことだ。
依然ホテルであったドヴェルグのフリーマはレムニアの親友だけあって結構なやり手で、ぶっちゃけこの辺りの建築関係のボスだったりする。
建築ギルドのギルド長。
彼女と提携して発明品を広めてアイデア料をもらう契約を交わしていたりするのだ。
なので…
「とりあえず孤児院だな。子供を放置なんてできるわけないし、それに子供ってのは人材だよ。幼いころから教育と訓練をすればそこらの大人なんかよりずっと使えるようになるさ」
この世界で貴族や金持ちがどうしても優位になるのは子供にかけられるリソースが大きいからというのがある。
小さいころから教育、訓練を受けていればそりゃ能力が高くなるさ。
平民はそこまでの余裕がないというのが真実だ。
つまり貧すれば鈍す。というやつだね。
だからアルビスは孤児院を作ろうと考えた。
十全にというレベルまではいけないかもしれないが子供たちに教育と訓練を与えてあげよう。そうすれば人材がガッポガッポである。
善意なのか打算なのかわからん感じではあるが、それでいいのだ。
偽善も善である。それで助かる者がいるならそれは為すべきなのだ。
(リソース的に万全とはいかないだろうけど、そこらへんは現代知識でおぎなって~)
やればいい線まで行くかな?
なんて思っている。
相変わらずの勘違い野郎であった。
「まあ、何とかなるさ」
一度自重をやめたのだからどんどん行く気満々のアルビス。これからあれもやろうこれもやろうと夢が膨らみまくる七歳の春だったりするのだ。
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3月、アルビス7歳6か月/双子5歳2か月
メリークリスマス。
今回で二章が終わりです。
ひとまずお付き合いくださいましてありがとうございます。
当然三章に続くんですが、年明けから再開したいと思います。
では皆様、よいお年を。
来年こそ、切実に良い年になりますように。




