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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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02-45 救援~ベアトリス~邪剣聖

第45話 救援~ベアトリス~邪剣聖



 ダフニア・アポビータ元男爵に下された苛烈な処罰は男爵の側近たちおも震え上がらせた。


 加担した以上は同罪なのだ。

 このままでは自分たちも…


 ビルコンをはじめとする男爵の側近たちは、男爵に殉ずるのではなく、できる限りの情報提供と引き換えに自己の減刑を願った。

 減刑してもらうために聞かれてもいないことまで話しまくったのだ。


 その中に男爵がベアトリスの居場所を、正確には見つけたわけではないのだが、彼女が水神流の高弟であったことを突き止め、生きているのなら必ずそこにいると推測(思い込みとも言う)して刺客を放ったのだった。

 あてずっぽうでもたまには当たりを引くときはある。


 取調に当たっていた騎士はその話を聞いてすぐにレーンの元に報告を行った。グッジョブである。

 そしてその報告を聞いたレーンは…


「ああ、なるほど、ナンナ師匠のところか、うん、考えてみればベアトリスが無事ならそこに行くよね…まあ、師匠が一緒だから問題ないでしょう」


 なんて思ったりしている。自分の師でもあるし実力は分かっている。回復魔法士の偉い人なのにナンナは武闘派なのだ。

 だがそんなことアルビスにはわからない。そんな情報はもっていないのだ。


 物陰で話を聞いた時アルビスは一目散に駆けだした。

 もちろん双子に声をかけることも忘れない。


 それは双子に対する心配と信頼だったろう。


「「かあさまたすける」」


 うむ、勇ましいことだ。


 アルビスは窓から飛び出すと空に舞い上がった。

 今回はカゼコマではなく重力制御飛行。それと同時にクロノを聖獣召喚する。


 双子はクロノに飛び乗った。カナリアも続く。

 属性が増えているのでさらに大きくなっている。楽勝である。

 見事な連携だった。


 空に舞い上がる子供三人。と美少女カナリア一人。


「ちょっ、ちょっとちょっと…まって、大丈夫だから~…っていっちゃった」


 開いたドアからアルビスたちが飛び立つのが見えたレーンはとどめる暇もあらばこそ。結局子供達を見送ることになってしまった。


「あーあ、師匠が付いているから絶対に大丈夫だと思うんだけど…でも放っておくわけにはいかないから、アーマデウス…も…いないわねえ」


「はっ、子供たちを追って飛び出していきました」


 窓の外に見えたのはアーマデウスが高速で走り去る姿だった。まるで弾丸のようにかっとんでいく。

 その横を大きな猫が付いていった。


「あっ、おじちゃん来た」

「おじちゃん来た」

「すごいです、とんでいるクロノさんに負けてないです」


 追いかけられているアルビスたちはびっくりだった。彼の走行速度はそれほど早い。早すぎる。


 一方、みんなを見送った後。


「まあ、問題ないかな?」


「いいえ、大問題ですぞ」


 レーンは本気で問題ないと思っていたのだが、それに水を差したのはブラホス将軍だった。


「アポビータ男爵が送った刺客はどうも狂剣フォネフスらしいのですわ」


「「「ええ!?」」」


 その場にいた人の多くが驚愕に目を見開いた。

 誰それ?


◇・◇・◇・◇


「ずいぶん舐めた真似をしてくれるねえ…あたしゃそれなりに強いつもりなんだがね? たった三人であたしらを迎え撃とうってのかい?」


 その少し前、ベアトリスたちはレムニア・ティフォス・スクード辺境伯からナンナに当てられた手紙を見て即座に出発。現在はズンドコ、スクードの領都アイゼンに向けて驀進している所だった。


 編成は6人。


 結構な人数だが、用心のためと護衛を多く用意したのだ。みんなナンナの高弟たちで腕の立つものばかり。

 ベアトリス、フェリカ、ナンナ、コーマ、そのほか2人だ。


『あのミジンコにとっちゃ、ベアトリスは何があっても始末しないといけない目標だからね。用心に越したことはないさ』


 というわけで6人はそれぞれに『ドーリー』を駆って北上を続けていた。


 ドーリーは山岳や寒冷地に強い鳥型の騎獣で、この国では最も広く利用される魔獣だった。

 特に冬場は羽毛がもこもこで大変によろしいのだ。

 ナンナの指揮する水神流の本拠地では医療師が素早く患者の所に駆けつける手段としてちょっとした数が飼育されている。


 ナンナとしては出来ればもっと護衛を増やしたかったのだが、地域の活動にもかかわることなので六騎しか使えなかった。


 ちなみに旅程は一〇日ほどを予定していた。

 歩くと普通に一か月はかかる道のりなのだが、騎獣がいれば短縮ができる。

 ちなみに騎獣はお金がかかるので保持するのは結構大変だったりする。


 その貴重な騎獣を使ってでも素早くレムニアと合流してこの一件にケリをつけたい。みんながそう思っていた。


 そしてそれはかなうはずだったのだ。

 邪魔がはいらなければ。


 フェルマコウ伯爵領とスクード辺境伯領の間には高レベルの魔境があって、ルートとしてはベアトリスたちが来た道を戻る南回り。魔境の北側の山岳地帯を進む北回りしかない。


 そしてスクードの領都は北東より、水神流から向かうとなるとルートは北回りになる。

 山岳地帯の峠道を通るルートだ。


 細かいルートはいろいろあれど、この峠道だけは必ず通らないといけない。特に雪の時期はここしかルートがないと言って過言ではなかった。

 そこで彼らの前に一人の男が立ちふさがったのだ。


 いや、おまけが二人いるから三人の男だな。


 先頭に立つ男は痩せぎすで背が高く、しかし背中を丸めた不健康そうな男だった。背に自分の身長ほどもある巨大な剣を背負っている。

 その後ろに離れて立つのは筋骨隆々とした男たちで、あまりもうかってない冒険者風の地味な皮鎧を着た、しかし剣だけは不釣り合いに立派な大剣を担いだ戦士だった。

 先頭の男ほどではないが結構大きい剣だ。


 こうして見ると後ろの二人に比べて前の男は全然強そうに見えない。

 だがそうであるならかついでいる剣が異常だった。なまはんかな剣士ではあのような大剣、持ち歩くことさえ困難だろう。

 そしてその男は言った。


「エレウテリアさんの御一行ですよね?

 依頼ですんで悪いんだけど死んでいただけませんか?」


 と。


 そして最初のセリフに戻るのだ。見くびるなというナンナに。


「いやいや、この二人が何かの役に立つなんて思ってないんです、皆さんのお相手は私一人。でも後片付けとか必要じゃないですか? 普通はそんなことしないんですけど、今回はそこまで依頼に入ってますから。だから依頼主から片付け要員を出してもらったんですよ。

 困ったもんですよね、ものを知らない雇い主って…」


 そう言うと男はくふくふ笑いながら背中に背負っていた剣を、やる気がなさそうな感じで抜き放った。

 剣をつかむと鞘が〝バキャッ〟と開いて剣が外れるのだ。

 …普通に抜ける大きさじゃないからね。技術力高し。


「師匠、下がってください、あの程度私が…」


 弟子の一人が進み出るのをナンナが止める。裏拳で。バキって音がした。かなり武闘派。


「おバカだねえ、あんな化け物にそんな心構えで勝てるわけないだろ?

 ありゃ只者じゃないよ」


「いやー、うれしいなあ…気づいた時には死んでいたというのもなかなかいいシチュだと思うんですけど、やっぱり戦いはバチバチやり合うのが楽しいから…うん、楽しいから…」


 男が一歩進み出た時にはナンナの魔法の詠唱が終わっていた。

 ナンナの気合の声とともに男の周囲に数本の石の柱が屹立する。


 土属性の魔法、土ボコとか築城とか石棘とかの発展形で『メイクピラー』という魔法だ。


 戦闘において大事なのは間合いを有利に設定すること。

 魔法使いならばなおさらである。

 魔法使いは潤沢な魔力のおかげで何かにつけて有利なのだけど、魔法の行使を考えると距離をとった方が圧倒的に有利だ。


 この何本も地面から伸びてきた石柱は10センチほどの太さ、二メートルほどの高さを持っていて、剣士の剣の軌道を疎外し、間合いをとりやすくするためのものだ。

 特に大剣使いには効果的なはずだった。


 続けて後ろにいたメンバーが魔法の詠唱を始める。


 ここに連れてきているのはみんな2属性持ちなので、結構ハードな攻撃魔法が飛んでいく。

 しかも四人同時攻撃なので圧がすごい。


「おや?」


 だがその魔法は外れた。石柱に閉じ込められていたはずの剣士は、いつの間にか石柱群の横に移動していて魔法はむなしく誰もいなくなった空間に殺到したのだ。


「ちっ」


 さらにナンナが石柱を発生させる。


「運のいいことだな、だがこれはどうだ!」


 さらに弟子の一人が続けて風の魔法を放つ。ウインドウストームというやつだ。ピンポイントの魔法が外されたから今度は範囲攻撃である。

 局所的な竜巻で砂塵を捲き上げるので目つぶしの効果があり、かまいたちを発生させて内部を攻撃するというもの。

 防御が高いと効果が薄れるが、攻撃回数が多いので結構なダメージを相手に与える。傷だらけみたいな意味で。


 使用者から目標に向かって飛翔する魔法を『投射型魔法』、こうしていきなり目標地点に発生する魔法を『放射型魔法』とかいう。

 さらにもう一人がその竜巻のような風に火を放つ。

 協力魔法である。こうなると内部はかなりの高温になって火傷ダメージも入る。普通だったらたまったもんじゃない。


「「よし!」」


 魔法を放った二人が歓声を上げるがその竜巻は標的を斬りきざむことも焼くこともなく霧散した。


「何だって! 魔法を斬ったのかい」


 ナンナがつい声に出してしまった。


 そう、その炎の竜巻は男の剣で切り裂かれてしまったのだ。

 それと同時に周囲にあった石の柱が『バゴン』とくだけて落ちた。

 つまり石柱も切り倒されたのだ。


「こいついったい何者だい!」


「ああ、すいません、名乗りわすれました、私はフォネフスといいます。短い間だと思うけど覚えておいてください」


「! 狂剣フォネフスか! 金剛剣の邪剣聖じゃないか」


 ナンナがちょっとたじろいだ。

 相手がかなりの有名人だったからだ。しかも悪い意味で。


 金剛剣というのはこの国で三大剣術とよばれる流派の一つだ。そして剣聖というのは剣の名人に与えられる称号だ。

 まあ、免許皆伝プラス超一流みたいなものだろうか。

 結構強いんだよ。

 フォネフスはその金剛剣の剣聖まで行った男で、しかし素行が悪く破門になった男だった。人斬りで有名な男でついたあだ名が邪剣聖。


 ナンナだって腕に覚えはある。魔物が相手でもそれなりに戦えるのだ。冒険者として結構活躍したのだから。だが相手は対人特化の危ないやつだった。


「みんな相互に援護しつつ撤退だよ!」


 ナンナは即座に撤退の決断を下した。

 撤退といっても戻るわけではなく騎獣に乗って走って逃げれば追いつかれることはないという判断だ。今峠はうっすらと雪が積もっていて動きづらい。人間にはこの上のない悪路だ。


「それはつれないなあ」


 ゲフッ…


 男の声とともに嫌な声が響いた。

 ナンナが視線を戻すとそこにはフォネフスの大剣で貫かれた弟子の一人が、まるで糸の切れた人形のように串刺しでぶら下がっていた。


 ナンナはフォネフスの足元を見る。

 ナンナの足は足首まで雪に埋まっているのにフォネフスは雪の上に立っているのだ。


「こりゃ参ったね…」


 魔法使いの優位性というのは確かにある。精霊がいるということは魔力が多いということだからだ。


 魔力が体をめぐっていると身体能力は高くなるし、肉体強度も上がってくる。それは魔力が多いほど高効率になる。

 つまり実のところ精霊を持つ魔法使いというのは肉弾戦にも強いのだ。

 スペック的には。


 だが魔法使いの真骨頂は攻撃魔法による大火力。肉弾戦を鍛える魔法使いはあまりいなかったりする。

 魔法使いの修業も大変なのだ。


 なので結局のところ、魔法使いと魔戦士の戦力差というのはそれほど大きくはない。魔戦士だって魔力を伸ばす修業はするわけだし、長年流派ごとに研究もされているのだから。


 なのでレベルⅠの精霊持ちと普通の魔戦士なら互角といった感じになるだろう。

 一流の魔戦士ならレベルⅡの精霊持ちと互角に戦えるだろう。


 ただレベルⅢ、つまり属性を三つもっているような魔法使いだとその優位性がはっきり出てくる。魔力がそれだけ多いということであり、同時に魔力との親和性が高くなるということになるからだ。

 つまりシンクロ率が高いからものすごく力が出るわけね。


 このレベルの魔法使いと渡り合えるのは本当に一握りの達人だけになるだろう。

 そしていまナンナの前にいるのは間違いなくその一握りだった。

 つまりナンナとも十分に戦えるレベルの魔剣士。


「じゃあもう少し遊んでおくれよ」


 ナンナは困った。どうやってここを切り抜けていいのか、イメージがわかない。ナンナ自身が対応できたとしてもベアトリスを守れなければ負けなのだ。


「ベアトリス、アンタは先に行きな、ほかのもんは何としてもこいつの足止めだ」


 ナンナは腹をくくった。

 そしてさすがというかナンナの弟子たちも即座に腹をくくって各々の武器を抜き放つ。

 魔法使いだって剣ぐらいもつし、まあ、当然魔導武器なのだ。性能に拘ったりはあまりしないけど。


 魔力を目いっぱい使って身体強化して、武器と魔法と人数で飽和攻撃。この場合の作戦はこれしかないだろう。


 魔法使いの真骨頂というのは潤沢な魔力を使って大火力で押し切るのが基本。接近戦をするなら相手の実力次第。


(それでもベアトリスが逃げる時間を稼げればいい方だよね…)


 ナンナは不利と判断した。


「話、終わった? じゃあ、こちらも始めましょうか。ああ、皆んなでかかってきてくれていいよ、そのほうが楽しいから」


 フォネフスはうっそりと笑って見せた。

 その時。


 ズダダダとフォネフスの足元の地面が爆ぜた。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


まだ12月/アルビス7歳3か月/双子4歳11か月



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