02-42 レムニアの御宅訪問~治療~男爵の悪だくみ
第42話 レムニアの御宅訪問~治療~男爵の悪だくみ
「うそ~っ、なんなの…これ…」
レーン様ことレムニア・ティフォス・スクード辺境伯爵はそれを見て唖然とした。
辺境伯をしていると威厳があるのだがプライベートだとちょっとポンコツのおばちゃんになるのがこの人のいいところだ。
レーンは現在アルビスたちの秘密基地にきている。
事の起こりはアルビスとアーマデウスが城に帰り、子供たちをあのまま隠れ家に置いておいた方がよい。と報告したことに始まる。
レーンは当然これに難色を示した。
アルビスたちが秘密基地を作ったのは比較的安全なエリアだった。だがそこが魔境であることに変わりはない。そして魔境というのはどんなところだって危険はあるところなのだ。
というか大自然というのはいつだって脅威であって、人間にとって安全な環境ではない。だから人間は安全を確保した場所、つまり都市を作るのだ。
まあ、そこには別の危険があったりなかったりするのだが、それでも大自然の中で野宿するよりはまし。のはずだ。
アルビスたちみたいに魔境を遊び場と考えるのがおかしいのだよ。マジで。
それにレーンは幼い子供に対して過保護だ。
それはレーンが自身の子供を失った経験に起因している。
もう15年ほども前の話で、その後入り婿だった夫を亡くしたこともあってレーンは子供を持つことはかなわなかった。子供は男の子で、当時2歳だったらしい。
日本の感覚では子供は高い確率で無事に生まれてくるように感じられるが、実は出産は地球でも命がけの難事業で、高度な医療技術がなければ子供の生存率はかなり低くなる。
その時のことを引きずっているのか普段レーンは子供とかかわろうとはしないのだが、いったんかかわると極端にかまい倒す傾向があった。
ましてアルビスたちは自分の妹分であるベアトリスの子供達だ。
そしてベアトリスが初めての子供を亡くしたときに打ちひしがれ、一時は本人の命さえ危ぶまれたことも知っている。自身の経験から何とかしてやりたいとじたばたしたりしたものだった。
であればアルビスたちを何としても保護したい。できれば自分で。しかも近くで、はっきり言うと四六時中かまい倒せる距離で。と思うのは…まあ、ちょっと異常かな?
なのにアーマデウスが現状を維持するべきである。という。しかも理由はその方が安全安心だから。というのだ。
「ここってお城よ! ここより安全なの? ならどんなに安全か直接確認しないとだめだもん!!」
ちょっとポンコツが出ている。
そして勢いで反対を踏み倒して視察に来たのだ。秘密基地に。そして…
「うううっ、確かに城にいるよりははるかに快適…」
想像を絶する快適さだった。
まあ、21世紀の日本の生活水準を目指して作られた家なのだから当然である。
護衛もモップと呼ばれる太陽の冠ネコがいればまず問題はない。
こいつは普通に強いのだ。
となると考えざるを得ない。
無理矢理城に引き取っても不自由な思いをさせるだけだ。
まあ、貴族のお城というのは文化的な最先端なので、この状況が変なのだけど…
それに現在いろいろ作戦が進んでいる所だったりする。領内の膿を出すための大手術が行われる。
子供たちをそんな場所に連れていって安心安全が確保できるのか。
「ででで、でも子供たちがちゃんと暮らしているのか確認しないわけにはいかないわ」
しかしレーンの往生際は悪かった。
少しでも一緒にいたいという下心が見え隠れする。
ちなみに運ばれてきたのはレーンたちだけではなくアルビスが癒した二歳ぐらいの子供も一緒だ。
男の子だったがすっかり元気になって興味深そうにちょろちょろしている。
心の傷はあるのかもしれない。まったく喋る気配がない。だが今のところは落ち着いている。
ディアーネが母性本能に目覚めてかまいまくっている。
「きゃーーーーっ、ちっちゃい子がちっちゃい子抱っこしてるーーーーーーーーっ」
レーンのテンションも上がりまくっている。
何でこの子がここにいるかというと、アルビスが治療の経過観察がどうしても必要だと主張したからだ。
直前にモップの進化の一件があったので、確認せずにいられなかった。
人間が変な風に進化したら怖いのである。
まあ、精霊たちの話(鑑定)では問題ないように見受けられた。ただ情報源が精霊なので心配がぬぐい切れない。困ったものである。
さて、そのレーンだが、アルビスの作った秘密基地を案内されて、一番驚いたのは〝ペチカ〟だったりする。
この国は暖炉が主流でペチカは発明されていなかった。
この換気が必要なく、壁を利用して部屋全体を温め続けるシステムは寒いこの地方では夢のような設備だったのだ。
当然室内は春のように温かい。
その温かい部屋で弟妹二人と二歳児とじゃれ合ってご満悦のレーン。
何しに来たんだお前? てなもんだ。
敷物も本来は高価なもので、居心地もいい。アルビスにとっては自給自足でロハだが実はかなりの贅沢品なのだ。
他にもトイレに案内されて驚き、お風呂を見て驚き、入りたがった。
子供と女の子しかいないので無理言って入りましたよ。お風呂。この世界湯船がないわけではないので初体験ではなかったようだ。
さらにウォーターベッドにも驚いていた。
極上の寝心地と極上の肌触り。
しばらくするとアーマデウスがやって来た。遅れてきたのは彼が自分でやって来たから。
レーンたちはアルビスが魔法で連れてきたが、アーマデウスまでは手が回らなかったので彼は騎獣に乗ってきた。護衛の女騎士も同行している。
当然アルビスが迎え入れる。
騎獣であるドーリーをつなぐ場所がないのでアルビスが湖の上に足場を作った。魔法で。これにはものすごくみんなおどろいていた。
大人たちは誰もがアルビスのことを尋常な子供ではないと理解しつつあった。
まあ、それとは関係なく
「私今日ここに泊まるね。明日帰るから、今日の所は三人で帰ってね」
レーンがそんなことを言い出した。
何言ってんだこいつ。とみんな(アーマデウスと護衛の女騎士二人)が思った。
何とか説得を試みるも子供たちに抱き付いて動かないレーン。彼らにはあきらめる以外の道がなかった。
偶にこうなるともうどうしようもないのを知っているのだ。
普段はストイックなレーンだったがたまに権力を乱用します。
◇・◇・◇・◇
そして夜。アルビスは気づく。レーンの足に。
怪我をしているのは知っていたが、かなり状態は良くないように見えた。生活スペースで一緒に行動してみるとそのひどさが見て取れるのだ。かなり不自由といっていい。
「おばちゃんいたい?」
弟妹も心配げ。
「あら、大丈夫よ。もうずいぶん古い怪我なの。だから痛くないわ」
これは嘘である。古傷はかなり痛むのだ。
これは今から6年ほど前。王都に出張したときにテロがあってその際に国王をかばっておった怪我だった。
膝が破壊され、回復魔法でも思うように治らず現在のような状況になっている。
動き回ると神経を削るような痛みがあってかなり疲弊する。
この怪我が原因でレーンは後継を必要とするようになり、弟を引き立てて領主の仕事の一部を任せるようになったらこのざまだったと。
泣くに泣けない。笑い話だ。
「「おにいちゃま…」」
はい、双子のおねだり出ました。双子はアルビスなら治せると信じている。
そして事実治せたりする。
説明するのも面倒くさいし、時間も短縮できるからアルビスは命の繭を発動した。
モップの件で心配はあったが、そんなのは双子のおねだりの前ではどうでもいいことのように思われた。
まあ、二歳児の検査で問題ないということで自信はあったからね。
こうしてレーンは子供達とのキャッキャウフフの睡眠時間と引き換えに健康な足を取り戻したのだった。
レーンが繭から出てきたのは翌日の昼過ぎ、アーマデウスたちが迎えに来る少し前だった。
自分の足が元に戻ったことに驚くレーンだったが…
「あああああっ、子供たちと遊ぶはずの時間が…」
と打ちひしがれていた。どんだけだ。
そしてアルビスは命の繭の性能をクロノと話し合った。
(部位欠損と違って体がそろっていれば素材があるせいで回復が速いみたいだね)
《いや、それだけでもないようでありますぞ、今回は集中的に治療をコントロールできていたであります》
何度か使ったことで分かったことだがないものを作るのには時間がかかる。
だが素材になる骨やたんぱく質があれば治療は早くなる。それが適合率の高いものであればさらに早くなる。つまり自前である方がいいというわけだ。
それに今回は治療に意識を集中させた。
そばにいてモニターしつつ治療することが必要なところに力を集めるようにして治療をした。それが時間の大幅な短縮につながったようだ。
なので今回は膝の修復と、今まで不自由であったことで出てしまった歪みの修復。あと回復した足の調整。
を集中的にやった。
おまけにちょっとした副次効果も。
そして昼頃再び迎えに来たアーマデウスは元気に動き回り(走り回る子供たちを追いかけまわしてました)少しというか結構若返った感じの主君を見て頭痛を覚えたりした。
そしてレーンは散々駄々をこねて、しかし今度は勝てずにその後護衛を引き連れて帰っていった。
アルビスは送っていくつもりだったのだが、ドーリーで走って帰った。
この大きな鳥型の騎獣だが、積もった雪をものともしないらしい。
事態は急速に動き出したのだ。
◇・◇・◇・◇
「まったく、この雪の中呼び出しとは…」
「まあ仕方ないのではないですか、それだけ塩鉱脈というのは一大事ということです」
側近の言葉にダフニア男爵はにやりと顔をゆがめた。
この国は塩の存在に常に苦しめられてきた。
隣国から塩を輸入しなくてはならないということはその国に対して立場が弱いということでもある。
独占されればこれほど怖い戦略物資もないのだ。
そしてそれはいま解消されようとしている。その国益はいかばかりか。
そしてそれをもたらしたとなれば…
「単に褒美などにとどまるはずもないな。王国から伯爵、いや、侯爵の位を与えられるかもしれん。
上級貴族だ。
しかも押しも押されもせぬ大貴族になれる」
「はい、さようです」
「ふふふ、無能のくせに威張ることしかできない〝弟子爵〟などすでに目ではない。
あいつはこれからも甘い汁を吸えると思っているようだが、立場が逆転するということに気が付いておらん。本当に無能だよ…
だからこそ…」
ダフニア男爵は一転して厳しい顔で側近を見た。
「お任せください。
すでにエレウテリア夫人の所在はつかんでおります。
都合のいいことにこちらに向かっているとのこと。
おそらく辺境伯への直訴でも狙っているのだと思われます。
であれば話は簡単。
ルートさえ特定できれば始末は簡単かと…」
「うむ、それでいい、エレウテリアだけが懸案事項だ。
なんとしてもやつらを始末するのだ」
「他にも、閣下の部下の方たちもおりますが…」
「心配はいらん。同僚の騎士を後ろから襲ったとなれば極刑はまぬかれない。
一蓮托生だ。
真実など話せるはずもない。
話せば自分も、自分の家族もただでは済まないのだからな…
どいつもこいつも低能ばかりだ」
「ふっ、ふははははははは」
ダフニア男爵は我が世の春を謳歌していた。思い込みってすごい。
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12月/アルビス7歳3か月/双子4歳11か月




