02-41 スクード家の事情~アルビス帰宅~モップの進化
第41話 スクード家の事情~アルビス帰宅~モップの進化
いろいろ質問された。
どこに住んでいるの?
とか。
魔境の中だといったらまた『何言ってんの?』みたいな顔をされた。
まあ、普通はそう思うよね。
そうこうしているうちにスラムのならず者たちの取り調べ第一弾が終わって彼らが人さらい、さらに人身売買組織のメンバーであることが判明した。
こちらはこちらでえらいことだった。
この国では奴隷という制度はある。借金奴隷と犯罪奴隷だ。
犯罪奴隷というのは懲役+強制労働みたいなもので、担当は行政なので奴隷商にいたりはしない。すべて公的機関の管轄になる。
借金奴隷というのは借金を労働によって返すというようなもので、仕事の内容や労働期間は借金額や返済期間で変わってくる。だがこちらは任意。ということになっている。
本人の同意なく奴隷売買は違法奴隷として厳しく取り締まられるものなのだ。
のはずなのだ。
だが法の目をくぐるように犯罪者は増えて、しかも検挙率は落ちている。
レーンは頭を抱えた。
事ここに至ってマイア女史が説明をしてくれた。
さすがにこのまま知らん顔をしては不信感が募ると考えたのだ。
その話によると事の発端は数年前のレーンの怪我。
彼女は足が不自由になり、長時間の行動も厳しくなってしまった。
そしてここは魔境に対する最前線。そして辺境伯は武門の頭領。
武という側面において万全でないというのはまずいのだ。
まして血筋的にレムニアは先代国王の孫にあたり、王都の方でも仕事を持っている。しかしあちらとこちらを行き来して両方をこなすのは難しい。
とりあえず代官を立てて辺境伯領の統治を任せ、レムニアは治療と王都での職務に重点を置く形になった。
この時代官に選ばれたのがレーンの異母弟の『アグニア・タフォス子爵』だったのだ。
レーンには子供がいなかったので代替わりのテストみたいな形で領の仕事を任されることになったのだ。
『特に才長けたということはなかったのですが、最初は無難に領地をまわしていたんですよねえ』
とマイアはこぼす。
だがたるむということはあるし、子爵はもともと自分に甘い人間だった。
特に悪事を働くわけではなかったが、まあこれくらいはいいかと自分を甘やかしてしまうタイプの人間。
軍事的な部分は堅物が多かったので影響は少なかったが、政治的な部分は時間経過とともに歪みが大きくなっていった。
政治的に最大の重石であるレムニアとマイアが王都に行っているのが悪かったのか。
それが現状だった。
アルビスはなるほどと思う。
どの程度のやばさなのかわからないが、とにかく状況が把握されてそれを何とかしようと彼らは動き出したわけだ。
だけどアルビスにはとりあえず関係ない。
なので早く帰りたいのだが。
「うーん、君の魔法のこととか、収納魔法の取り扱いとか、しなくてはいけない話がいっぱいあるんだけどなあ」
「それに子供が一人で魔境に行くなんてダメよ」
「でももっと小さい子供が魔境で帰りを待っているんですけど?」
「「う゛っ」」
騎士を迎えに出すにしても場所がわからない。アルビスが案内をしないと話にならない。
となるとどうしてもアルビスは魔境に行かないといけないのだ。
「よし、わかった。私が同行しよう」
アーマデウスがそう申し出た。
「えー、急ぐのにー」
でも不評。
「あっはっはっ、私は早いぞ」
とか言っているが、彼はアルビスが空を飛べるのを知らない。
アルビスはカゼコマを発動するとアーマデウスを隠者の手でひっつかんで空に飛びあがった。
「あひゃーーーーーーっ」
「うえええっっっっ」
変な悲鳴がいくつも響き渡った。
◇・◇・◇・◇
「あそこまですごい魔法の使い手は…初めて見ました」
「ご自分で天才だ。とおっしゃっていましたけど…それで説明つくものでしょうか?」
アルビスが飛び去った後、残された三人は話し合った。
「そういえば、その犯罪者と戦っている時も変わった魔法を使ったと聞いたけど?」
「はい、魔法で数名死んでいます。それがどんな魔法だったのか、はっきりしません。見ていてもわからなかったそうです。
他にもやつらのボスが腕を切り落とされています。
見事な切り口でもし武器でやったのならかなりの達人。という報告が来ています。
あとそのボスの傷を治したのもあの少年ですね。
それどころか瀕死の子供を回復魔法で助けています。こちらは現在進行形で、どういうことなのかわかっていません。治れば出てくるという話でしたが…
うちの魔法士たちも首をひねるばかりです。
一体どれだけ引き出しがあるのか。という感じですね。
少なくとも二属性、ひょっとすると三属性、持っているかもしれません」
「あの年齢ですごいわねえ…
何とか友好的な関係を築きたいわね」
「それで済む問題ですかのう?
あの年で殺すべき者をちゅうちょなく殺していますぞ…
危険ではないですかの」
「七歳なのだからそれはこれからの教育でしょう。
父親を殺され、しかも自分も男爵軍に襲われているんですから、生き残るために容赦がなくなるのは…ありうる事よ。まして守るべき弟妹がいるのだから。
前にあったときは弟妹の面倒をよく見るいいお兄ちゃんだったわね。
容赦はなくても知性も良識もあるみたいだから正しく育てばひとかどの人物になるでしょう。
それにあれほどの才能を持った子だもの。ぜひ味方にしたいわね」
「そうですね、敵になったときを想定すると恐ろしいです」
「子供をちゃんと教え導くのが大人の仕事よ」
アルビスの知らないところでそんな会話が交わされていた。
アルビスの教育よりも自分の兄弟の教育はどうだったのか、私気になります。
◇・◇・◇・◇
「ついたよー」
「えらい体験をさせられたよ」
洒落者のアーマデウスさんもさすがにヘロヘロ…かと思ったらマッハでしゃっきりした。
さすが洒落者だ。
アルビスはのんびり歩いていると時間が足りないというので空を飛んで帰ってきた。アーマデウスもカゼコマに搭載してきた。
お城からここまでわずか15分。ちょっと加減しました。
「ただいまーーーーっ」
「「おかえりなさーーーい」」
入り口の前に作られた高い位置の桟橋、アルビス曰く離着陸デッキを通り、入り口を開けるとすぐに双子が飛びついてきた。
後ろにはカナリアもいる。
アーマデウスは手をついてぜーはーしている。
目を離すと崩れるらしい。
シャキ!
さすが剣聖というべきか。
「ほう、よくできているね、というかよくこんな場所を見つけたもんだ。
外からでは木々が邪魔で入り口も窓も見えない。
湖が邪魔して近づく者もいない。これは確かに秘密基地だよ。
やあ!」
周囲を見て感心していたアーマデウスだったが、双子を見たら顔を笑顔の形に崩して陽気に挨拶をした。
すましているとそうは見えないが面白いおっちゃんである。いや、兄ちゃんか?
そして次の瞬間双子に飛びつかれてもみくちゃ。
子供に一回面白い人だと認識されればあとはただの子守役である。
「なーおぉぉぉっ」
そしたら奥からでっかい猫が出てきた。
「アルさま、さっき突然繭が割れてモップちゃんが」
「てことはこれがモップか…」
すごい変わり様だった。なんか繭に収納して置いてきた二歳児が心配になる変わりようだ。
具体的に言うとすごく大きくなっていた。
はっきり言って虎よりでかい。
「げっ、太陽の冠猫か!」
そのモップを見てアーマデウスが声を上げた。
確かにその呼び名がしっくりくる感じに姿も変わっている。
まず大きさは2.5メートルもある。尻尾の先まで入れると優に4m越え。大人が背中に乗れる大きさだ。
色は純白で毛足は長く繊細でまるでビロードのよう。頭の上に魔角が生えていて、それが透き通った金色で冠のように見える。
そしてなんと尻尾が七本。猫又どころの話じゃない。
シッポももちろん白だが、その先っちょの方に虹の七色の円環が付いている。そういう模様がね。
この魔物を太陽の冠ネコというらしい。
「おにいちゃま、モップが大きくなったの」
「つおいのねー」
そう言うと双子はモップにしがみつく、モップはしゃがんで双子を迎え、双子はそのままモップの背中に乗って落ち着く。
大喜びだ。
モップも楽しそうに双子を乗せて歩いている。
『マスター殿、どうやらモップの怪我は既に治っていたようでありますな』
クロノの推測ではあるが、モップは大怪我をして繭に収容されたとき、けがを治すとともに進化したらしい。
もちろんその段階で外に出てきてもよかったようなのだが、繭の中にいるとさらなる成長が見込めるということでそのまま繭にとどまって成長と調整を続けていたようだ。
先ほど、アルビスが子供を助けるのに繭を必要とし、それを感じ取ったモップが繭を開放した。
どうもそういうことのようだ。
(ひょっとしてスライムを閉じ込めるとスライムも進化したりするのだろうか…)
あっ、また変なこと考えている。
まあ、アルビスが双方に状況を説明して紹介を終え、人心地。
「うおおおっ、うまいーーーーーっ!」
「うあぁぁぁぁぁぁっすごすぎるぜーっっ」
「ぬあぁぁぁぁっ、なんじゃこりゃーーー」
そしてアーマデウス登場早々のキャラ崩壊。
用意された食事に驚き、案内されたトイレに驚き、最後に使った風呂に驚愕した。
(まあ、おとなしく双子のおもちゃをやってくれたからこのぐらいの礼はいいだろう)
そして翌日、みんなでそろってお城へ行くことに。
状況が状況なのでしばらくはお城に隠れていることになる。予定だったのだが。
「おしろ、不便だぞ。暮らせるか?」
アーマデウスが爆弾を投下した。
考えてみたら御風呂には蛇口をひねるだけの水道もないし、ゆったりつかれる湯船もない。
何より水洗トイレもない。
「それにここの方が見つからなくて安全というのがある。坊主たちは知らないだろうが太陽の冠ネコというのは位の高い魔獣だ。
こいつが守っているならそうそう心配はないぞ」
「むむ、確かにここ以外の生活に…」
耐えられる自信はなかった。
「そこいらへんを踏まえて閣下と話をしてみるか…」
予定変更なのであった。
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12月/アルビス7歳3か月/双子4歳11か月
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カナリアは終始アルビスの後ろに隠れてました。




