02-39 治安騎士~裏切り者~レーンの正体
第39話 治安騎士~裏切り者~レーンの正体
なだれ込んできたのは洒落者のおっちゃんと鎧兜の騎士たちだった。
「あー、治安騎士だっけ」
町に来てから勉強したのだがここには騎士団という組織がある。上級騎士とか従騎士とか色々いるのだが、ついている職務によっても呼び方が変わる。
近衛騎士とか守護騎士とか言った具合だ。
治安騎士というのは言ってみれば警察のような仕事をする騎士たちのことだ。
「ヒ、ヒコル、た、助かった」
暴れていた下っ端がつい漏らした言葉をアルビスは聞き洩らさなかった。
そいつは縋り付くような眼で飛び込んで来た騎士の一人を見ていた。
「たっ、助けてください、いきなりこいつが襲ってきて…」
ならず者たちが声をそろえて助けを乞う。
先頭にいたアーマデウスはその光景を見てあんぐりと口を開けた。本当にカクーンと顎が落ちた。
だって大の男数人が7歳ぐらいの子供を前に助けを求めているのだから。
後ろにいた治安騎士は6名いて、彼らも唖然としている。
「うん、なかなかいいリアクションだ」
アルビスはなかなかにオーバーアクションでどこか笑えるリアクションのアーマデウスをそう評した。
もちろん鑑定も併用しているのですごい人なのもわかる。
※ ※ ※ ※
【名前】アーマデウス=ルーヴェ
【種族】人族
【性別】男
【年齢】37歳
【評価】面白いおっちゃん。ドジっ子。剣聖。
【備考】ちょっと好き。ものすごく強い。
※ ※ ※ ※
(うわーっ、剣聖とか出てる。なんだべ)
アルビス君剣聖というのはきいたことありませんでした。
精霊がちょっと好き。というのはまともな人。普通にいい人。ぐらいの意味だ。
そのアーマデウスは即座に立ち直った。
「全員そのまま、とりあえず動かぬように」
お澄ましモードらしい
それでもなかなかに圧力のある声だった。でもアルビスは無視。
「ちょっと急ぐのでこいつら捕まえてくれません?
こいつらすっごく悪いやつです」
「ち、違います。このガキが魔法で、俺も腕を斬られたんだ。床のやつらは殺された。
こいつは化け物だ」
ボスは騎士たちを味方に引き入れることにしたようだ。
それに反応する騎士が一人。
(こいつがヒコルかな?)
「とりあえず小僧、おとなしくしろ。詳しく取り調べを」
「え? 普通に嫌だけど?」
ヒコル本人的にはかなり威圧感を出したつもりだったが全く気にする風もないアルビスにちょっと唖然。
そこに畳みかける。
「こいつらは人さらいみたいだよ、証拠は僕の後ろのドアの中だね、ああ、ドアは壊しちゃったっけ。ちょっと見てみればすぐにわかるよ。
それにおじさん、こいつらの仲間だよね、さっきそこのヘタレがあなたに助けを求めていたよ、知り合いみたいだし」
「だ、だまれだまれだまれ」
ヒコルがわめいているうちにアーマデウスはアルビスの脇を通り過ぎて部屋の中をのぞく。
「ああ、これはひどいね…」
「ね? 本当に時間がないんだよ、治療しないといけないから。
だからおじさんたち。邪魔しないでほしい」
アーマデウスは部屋を覗き込んでとらわれた子供達を確認すると駆け寄って様子を見ている。
騎士が二人よばれて一緒に入って治療を始めている。
回復ポーションは常備しているらしい。
そして騎士二人が出入り口を押さえ男たちを威嚇している。こちらは抜刀済みで、寄らば斬るという風情だ。いや刀じゃないから抜剣か。
そしてアルビスの前で剣呑な雰囲気を醸し出す騎士が二人。
「うぬぬ、だからと言って状況を確認する前に貴様の自由を許すわけにはいかん、貴様もおとなしくつかまるのだ」
ヒコルはまだ余裕があった。
治安騎士隊は自分の巣だ。内部のこともよくわかっているし融通も効く。
なので男たちが捕まったところで、無罪放免は無理でも多少のごまかしは利くと考える。
まずいのはアルビスだ。つまり生き証人だ。
(このガキさえ始末できればまだやり様はある)
ここがこいつらの拠点で、後ろにさらわれたと思しき子供たちがいるのだからそんなのが通用すると考える時点で治安騎士の程度が知れる。
だからアルビスがアーマデウスにあることあること吹き込むととってもまずいのだ。
そしてヒコルには自信があった。こいつは絶対に俺のいうことはきかない。
何の自信だかなあという気はする。
案の定アルビスはヒコルの主張を一蹴した。
「ならば実力行使」
ヒコルは腕に覚えがあった。
抵抗を封じるために攻撃し、しかし運悪く致命傷になる。そういうきわどいところを狙って攻撃を…
だがアーマデウスはさすが剣聖というか、ヒコルの動きを当然のように把握して常に携行している手裏剣を、ためらいなく打ち放とうとした。
ここら辺のためらいなく状況に対応できるのが一流というものか。
だが手裏剣は放たれることはなかった。
アルビスの左手に、いつの間にか盾が装備されていたからだ。
アーマデウスの意識を一瞬とは言えくぎ付けにする盾。
それはアルビスの指先から肘までをカバーする円形の銀色の盾だ。
表面には精巧な文様が浮かび上がり、その中に不思議な文字と、図形が描かれている。
その文様が浮かび上がらせるのはまるで顔のようで、人が目を閉じてお澄まししているように見える文様だった。
不思議なのはアルビスが動いて盾の角度が変わっても必ずその文様が同じように見えるということ。
人の目が正位置で配置されているように見えるのだ。
剣はその盾に阻まれあっさりと跳ね返された。
「んなっ!」
勢いよくはじかれた剣にバランスを崩すヒコル。次の瞬間ヒコルの脇にはアーマデウスが立っていて、ヒコルは勢いよく回って地面に倒され、抑え込まれていた。
「なっ、動け…ない」
アーマデウスは軽くねじり上げた手を足の先で押さえているだけ。自然体で力をかけているようには見えなかった。なのにヒコルは全く動く事ができなくなってしまった。
もう一人、変な動きをしていた騎士はアーマデウスの威圧で震え上がっている。
(うわー、この人強いわ~、父ちゃん以上だよ)
父よあなたは強かった。と本気で思っているアルビスだが、目の前のイケオジはそれよりもはるかに強く見える。
「何をしている」
アーマデウスの声に残りの騎士たちが反応した。
ヒコルとその仲間のような動きをしていたもう一人の騎士をふくむ全員が取り押さえられた。
といってもこちらはアーマデウスも含めて五人しかいない。となるとどうしても人手不足。
逃げようとした男がいた。
だが走り出した時には足の腱、ぶっちゃけアキレスけんが切れて血を吹きだしていた、そしてアーマデウスの手元で鞘に収まる剣。
ただ一太刀ですべての男たちが逃走をあきらめる一撃だった。
でもアルビスはそんなことそっちのけで子供たちの治療を始める。
とはいっても怪我がひどくない子供はアルビスが飛ばしたヒールと騎士たちのポーションでほぼ回復している。問題は二歳ぐらいの小さな子供。
「ろっ骨が折れてるわ。たぶん内臓もやられてる」
そばで膝をついていた騎士がそう告げる。
この騎士は女性だった。しかも水の回復魔法が使えるようだ。
献身的に治療にあたっていた。
だが及ばない。
「ぼくが代わります」
アルビスは騎士さんの反対側に座り込むと子供に触れて回復魔法を行使する。
ハイ・ヒーリングの魔法だ。
サードアイで子供の様子を観測しながら、治療が必要な部分に、健康な状態のイメージを重ねながら魔力を送り込む。
生命属性のそれに特化した魔力だ。
折れた骨を正位置に戻し、再構築し、破裂した内臓を修復し、内いっ血などを取り除いて生命力を付与する。
本来であればここで【生命の繭】の出番なのだが、あれは一度に一個しか起動できない権能で、実はまだモップが入っていたりする。
けがをしてからかなり経つはずなのだが、モップは繭から出てこない。
モップは猫だが、やはり家族だ。
しかも治療の途中で放り出すなんてできるはずもない。
だがその時、ふっと何かが解放された。
生命の繭が使えるという確信が持てたのだ。
「おおー、ナイスタイミング。天の配剤か!」
実は裏があるのだが、アルビス君はしらないからね、知らぬが仏というやつだ。
アルビスは即座に子供を権能に取り込んだ。
キラキラと輝く魔力に包まれて繭になっていく二歳児。
それはあっという間に光の繭になって、とんと落ち着いた。
これは生命維持機能も持っているのでこれで包んでしまえば死ぬことはない。あとはじっくり治せばいい。権能だけあってこれは放っておいても治るのだ。
気が付けばじっとアルビスの目を見るアーマデウス。
そしておもむろに息をつくと。わかった、任せよう。と言ってくれた。
女騎士さんたちが唖然としているが、まあ、置き去りにするしかないのだ。
「ふいーっ、この繭は怪我が完全に治れば開くから。それまで安全なところの、ベッドの上にでも置いておいて」
「うむ、任せなさい。
あー、君がアルビス君か?」
そう言われて初めてアルビスの頭に〝?〟が浮かぶ。
「…そうですよ」
ちょっと首を傾げてからアルビスは応えた。不用心なような気もするが今は〝釣り〟をしているので名乗らないというわけにもいかない。
そしてあたりはあった。
「あー、私はアーマデウス・ルーヴェというんだ。しがない騎士だね」
「剣聖様なのに?」
「あはは、知っていたか。
うん、まあ、実は腕に覚えはある」
そう言うとアーマデウスは尖った顎髭を指先で整えた。
なかなか様になっている。
「いくつか聞きたいのだが、君はギルドに依頼を出しているよね、ベアトリスというのは?」
「ぼくの母ですよ」
「名前を聞いても?」
「ベアトリス・エレウテリアーですね。
父はコンラートです」
とうとう釣れたという確信があった。
「わたしはこの領地の辺境伯殿に仕えているんだ。
辺境伯閣下はレムニア・ティフォス・スクード様とおっしゃって…レーン様というのは彼女のニックネームなんだ。ごく親しい、まあ、御婦人方がそう呼んでいるね。
じつをいうと閣下の指示で君たちの行方を捜していたんだ。できれば話を聞きたい」
「なんと!」
塩関連の手紙のやり取りをしていた形跡から行政側の誰かだろうとは思っていたが、まさかトップが出てくるとはおもわなかった。
ここは話に乗るべきだろう。
「弟妹達が心配するのであまり長い時間は無理ですよ。
時間がかかるなら明日改めてという感じですが?」
「あー、弟さんたちがいるんだったね、どこかに宿泊しているのなら向かえをやるということもできるが?」
「残念ながらそこまで皆さんを信用できません。
弟妹の安全に関しては僕が責任を負わなくてはいけませんから」
ふむ、とアーマデウスは考えた。
「例えばですね、アーマデウスさんは立派な人のように見受けられます。
でも、その部下にああいったろくでなしが混じっているわけでしょ?」
「まだそう決まったわけではありません」
口を挟んだのは居残っていた騎士の一人だ。
ヒコルと仲がいいのかもしれない。
犯罪者に人づきあいができないなんてことはないのだから。
「つまりはこういうことです」
アーマデウスは苦笑するしかないのだった。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
12月/アルビス7歳3か月/双子4歳11か月




