02-38 アルビス無双~ついでに非情~おっさん登場
第38話 アルビス無双~ついでに非情~おっさん登場
アルビスはサードアイを使って周辺の環境を観測する。脳裏にこの建物の構造、周辺の様子、そしていろいろな人間の配置がCGのように構築されていく。
連れてこられる間にも見てきたがここはどうもダウンタウンのようだ。
ならず者もいるが普通の人も暮らしている。
まあ、環境のいい街には暮らせない人たちだろう。
そんな街の奥まったところにある古い建物がここで、同じような建物が周辺にあって人が暮らしている。
二階建て、三階建てぐらいの集合住宅の集まりだ。
なのでその中に見える人の反応に第三の目を向けて確認をしていく。
「うん、他にこちらに来ようとしている者はいないな…」
ただここに来るまでの男たちの挙動と、あと連れ込まれた後の男たちの話から他にも仲間がいることは確実のようだ。
「まあ、いいか、ボクがこの町の治安に責任を持たないといけない理由はないし、見つけたら始末していけばいいんだよ」
クロノに問い合わせてもらって、すでにこいつらは『犯罪者』で討伐対象と考えて問題はないらしい。それは鑑定でもわかるのだが一人一人は面倒だし、犯罪歴がない相手は『敵性体』であるかどうかが問題になる。これはクロノに確認してもらうのが一番早い。
結果は『鏖』で問題なし。
敵として対峙した以上命のやり取りは必然なのだ。
アルビスは男たちに笑いかけた。
「さて、じゃあ、死のうか?」
「ふっ、ふざけるな? 舐めたこと抜かすんじゃねえ」
番号を振りなおして下っ端①とする。
アルビスに向けてナイフを抜いた下っ端①は次の瞬間喉を押さえて苦しみだした。
「とりあえずバリアでラッピングしてみました」
ラッピングというのは言い得て妙だ。
全身をラップで包まれたようにバリアで包まれ、呼吸ができなくなった。
呼吸ができなくなると酸素の供給が断たれ、人間は死んでいく。
即座にパニックを起こし、すぐに痙攣が始まる。
のたうち回り、暴れ回る。場合によってはいろいろ垂れ流しになってしまうこともある。
そこには純粋な〝死の恐怖〟があった。
下っ端①はただ助かることを渇望しやみくもに動き回り、ついで死に絶望する。
銃器や刃物など足元にも及ばない、立ち向かうこともできない死の恐怖。
5分もすれば呼吸が停止して意識を失い、さらに心肺停止。15分が過ぎると脳死状態、脳に致命的なダメージを受けて、もし助かったとしても障害が残るようになる。
しかし完全に死亡するのはさらに30分以上先の話だ。
アルビスはもちろん、ここにいるすべてのならず者が死にゆく男をただ黙って見ていた。
「こっ、こんなことしてタダで済むと思っているのか! 俺たちの仲間には役人もいるんだぞ。お前が捕まるんだぞ?」
そんなことを言うやつも出てきた。
アルビスは鼻で笑う。理として殺していいなら役人などなんの意味もない。仲間なら役人も殺してしまえばいい。神殿に行けば証明できる。
「でもお前はいいことを言ったよ。おかげでお前は助かるだろう。
その役人のことをしゃべってもらわないといけないからな。
そのためにお前は殺さずにおいてやろう」
それは幸せなことなのかどうなのか。
「さてじゃあ隣だ」
アルビスが顔を向けた男は剣を抜いて走り寄ってくる。下っ端➁である。
勿論恐怖に震えていたが、その恐怖が限界を突破したのだ。破れかぶれ。あるいは死の恐怖に耐えられずに死に向かって突進するのか。
だが下っ端➁も唐突に倒れた。
そして死んだ。
いきなり死んだ。
「なっ、なにが…」
動き出そうとしていた➂、④はたたらを踏んだ。
「うーん、これが不思議だよな…以前何かの本で読んだ話なんだけど…息をできなくすると死ぬまで長いと1時間もかかるのに、低酸素空気を呼吸させると一呼吸で即死するって…」
不思議な話だが本当のことなのだ。
呼吸の停止と違い、極端に酸素濃度の低い空気を吸うと即死、もっても二、三回呼吸するとデッドエンドになる。
これは人間の呼吸がガス交換によるものだから起こる現象だった。
人間が普通呼吸する空気の酸素濃度は20.95%と言われている。人間はこの約20~21%の酸素濃度の中でしか生きていくことができない生き物なのだ。
そしていったん吸い込んで酸素を使った後の体内の空気の酸素濃度は約16%。
もしここで10%の空気を吸ったらどうなるのか。
ガス交換の仕組みとして、10%の酸素が補給されるのではなく、6%の酸素が体から奪い去られることになる。一気に体内の酸素濃度が下がるのだ。
さらに人間は酸素が不足すると大急ぎでそれを補給しようと反射的に呼吸を繰り返す。
なので人間は低酸素空気を一回呼吸しただけで死に向かって全力疾走する。場合によっては即死することすらある。
低酸素空気は人間を即死させる猛毒なのだ。
アルビスは知識欲が旺盛なタイプの人間なのでこういう知識も持っている。そしてできれば自分で確認したいなあ、なんて思っている人間だ。
もちろん良識というものがあるのでそんなことはしない。しないはず。そうして地球で生きていたはず。
でもせっかく実践できるんだからやらなきゃ損だなあなんてことも思う。
どうせ鏖殺するんだからいいかな? みたいな。
そしてその男の周りの空気から酸素を取り除いてみたのだ。ほほ酸素の存在しない空気。
そして実験結果に満足してふむふむと頷く。
男たちはやっと正気を取り戻しアルビスが桁外れにヤバイ相手だと気が付いた。
「たすけてくれー」
「あかねえ、どこも開かねえ」
「ひいぃぃぃぃっ」
「死にたかねえ!」
かと思うと。
「くそう、こいつを殺さなきゃ全滅だ!」
「殺るぞ、なんとしても!」
「ぶっ殺してやる」
じつに興味深い反応だ。
そして切りかかった何人かが、まるで巨人につかまれたように動きを止める。
「ひぃぃ、なんなんにゃーーーー」
事ここに至って男たちは目の前にいる子供が、自分たちの想像を絶する化け物なのだと理解した。したがもう手遅れだ。
その時に響く音、それは誰にとっての福音だったか。
ドンドンドン!
「ここを開やがれ、開けねえとただじゃ済まさねえぞ! こんちくしょう!」
ドアが強くたたかれた。
男たちはこれで助かるかも、相手が誰かも知らずに希望を抱いたが…
「たすけ!」
キーン!
と音がしてドアが(今はドアの見た目をした壁だけど)ズンバラリンとばらけて落ちた。
「あ、なんか過激な人が来た」
次の瞬間、ドア…だった壁が豆腐みたいに切り刻まれて、景気よく男たちが、人がなだれ込んできた。
「おお、なんかかっこいいおっちゃんが来た」
洒落者のおっちゃんが乗り込んで来た。
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12月/アルビス7歳3か月/双子4歳11か月




