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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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02-36 冒険者ギルド~ベアトリスの現状~アーマデウスの怒り

第36話 冒険者ギルド~ベアトリスの現状~アーマデウスの怒り



「やあ、また寄らせてもらったよ」


「まあ、ルーヴェ閣下、ようこそいらっしゃいました。また見回りですか?」


 アーマデウス=ルーヴェに声を掛けられた受付嬢はほほを染めて対応した。他の席の受付嬢もうらやましそうに見ていたりして。

 

「何かよい情報は入っていないかな?」


 アーマデウス・ルーヴェは気さくな笑みと丁寧な言葉遣いを心掛けながら受付嬢に微笑みかける。彼は決して美男子ではなかったが、顔に不自由しているわけでもない。

 そして何より彼は洒落者だった。


 鉄色の髪の毛をオールバックにして、寝かせるのではなくそのまま後ろにに流して固めている。まるでたなびいているみたいだ。

 あごには山羊のような髭があり、こちらも手入れが行き届いていて見事にとがっている。

 白いシャツは清潔でスリムなズボンと金糸で飾られた裾の短いスーツがスマートさを演出している。


 単に作りがいい顔よりも実力を感じさせる自信に満ちた容姿をしている。


 この世界はなかなかハードなので見た目だけしか取り柄のない男はあまりモテない。やはり実力と甲斐性がものをいう。


 そう言う意味でアーマデウスはかなりのいい男、優良物件である。

 彼はこのクストーデ辺境伯家の剣術指南役であり、同時に近衛騎士隊長でもあるのだ。


 受付嬢は…


「うーん、これと言って、問題はきいてないですね~」


 とか言いながら、その目は資料ではなくアーマデウスにくぎ付けだったりする。


「そう?」


 あごひげを撫でつけながらちらりと流し目。奥で黄色い悲鳴が上がりばたりと人の倒れる音がする。

 受付嬢は考えた。『このままではすぐに会話が終わってしまうわ、なにか、なにか興味を引く話題を!』と。

 お花畑と化した脳みそをフル稼働して、なんとか話題を引きずり出す。

 それは…


「収納魔法? あの伝説の?」


「はい、でも本当なんですよ、獲物を何もないところから取り出して、しかも仕留めたばかりの獲物はまだ温かいままだったとか。

 獲物の納品窓口のほうから流れてきた噂なんですけどね。

 あそこの親父さんはおしゃべりですけど嘘をつく人じゃないので…」


「ほほう」


 アーマデウスは狙い道理興味をひかれたらしい。


 収納魔法というのはかなり珍しい。伝説と言われる程度には珍しい。珍しすぎて逆に普通の人はその価値に気が付かないぐらいに珍しい。


 だがアーマデウスは三人ほど、実在例を知っていた。うち一人には直接あったこともある。

 だからその価値の本当の意味もよく把握していた。


「ふーむ、その話をもう少し聞かせてくれないかな?

 本当だったらスクード家でも雇いたいという話にもなると思うんだ」


 アーマデウスは表情豊かに受付嬢と会話をする。ここら辺も彼の美学であり、魅力でもある。

 だが。


「こら、閣下に何を吹き込んでいるの!」


 後ろから飛んできた叱責に受付嬢は肩をすくめた。


振り向くとクロエが立っていた。


「あっ、先輩、吃驚させないでくださいよー」


「何がびっくりですか、冒険者の人の秘密を勝手に話すのは規約違反でしょ?」


「えー、そんな硬いこと言うのは先輩ぐらいですよ、部長なんかもっとおしゃべりですよー」


 後輩の言葉にクロエは頭を抱えた。

 アルビスのことを気にかけているクロエにしてみれば、アルビスのことが変に噂になるのは避けたかったのだ。もちろんまじめに規約を守ろうという気もある。


 それを見てアーマデウスは心の中でエールを送った。彼も冒険者ギルドのたるみっぷりというか最近のいい加減さにはちょっとあきれていたのだ。


「クロエさん。申し訳ないが相手が私ということで大目に見てほしい。それとその冒険者の情報が欲しいのだ。その冒険者殿、かなり危ない位置にいると思う。

 その魔法は目ざとい者なら目の色を変えるものだ。

 善良な人なら保護したい」


 そう言われるとクロエも無碍には出来なかった。


 この話が真実と分かればギルドの中でも変な動きが出るのは目に見えていた。現在ギルドが動いていないのはギルドマスターが頭が固くて話を信じていないからにすぎないのだ。

 ここで規約を振り回しても、たぶんいい結果は出ないだろう。

 それに相手は閣下と呼ばれる人間。つまりこの辺境伯領の幹部の一人なのだ。辺境伯の信頼も厚い。


「えっと…ここでは話せないことですから…」


 クロエの言葉にアーマデウスは頷く。よい判断だと思ったのだ。


 かくして結局場所を変えて話をすることになる。

 そしてアーマデウスが聞いたのは衝撃の事実だった。


 その冒険者が7歳の男の子ということ。


 アーマデウスはめまいがする思いだった。


「たっ、たるみすぎてんじゃねえか…」


「申し訳ありません」


 たるんでいない数少ない人に言われても意味がないのである。

 アーマデウスは考える。


『なんてこったい。なんとしてもその子供を保護しなくちゃなんねえじゃねえか…』


 普段気どった喋り方をしているが緊急事態だと口調が崩れるらしい。


なんとしてもその冒険者の子供を、早急に保護しなくては。

 だが住所は分からないという。

 いつもふらっと来て納品して帰っていくらしい。

 食堂のおっちゃんが仲がいいという話で確認したが彼も詳しいことは知らないという。

 これも現在のギルドの風潮で事なかれ主義が全体に押し付けられているのだ。


「ほかに何かわかることはないかな?」


「えっと、来た時に尋ね人の依頼を出してました」


「ほう、尋ね人」


 それは手掛かりになりそうだ。


「何でもレーン様という方を探しているとか…」


「なぬ?」


 レーン様? と頭で疑問符が渦巻く。

 それは自分の主君レムニア・ティフォス・スクード辺境伯爵の愛称だからだ。

 親しい者の中で、特に女性の友人知人がそう呼ぶことをアーマデウスは知っていた。


「あっ、でも依頼者の名前は別の人の名前で出してました。確か…ベアトリスさん…でしたね」


「なーーーんてこったい!」


 天を仰いで頭を押さえる。今日は眩暈の連続だった。


◇・◇・◇・◇


 そのころベアトリスはというと。


「いそがしすぎるーーーーーーっ」


「まあ、仕方ないさね、この町は医療が充実してるってんでヤローどもが怪我も気にせずに動き回るからね」


 毎日毎日押し掛ける患者に悲鳴を上げていたりする。


 場所はもちろん水神流の本拠地。態勢の立て直しのために寄ったはずのここで、なぜかナンナの手伝いに駆り出されてそれ以降全くの暇なしであった。


 ベアトリス自身、ダフニア男爵の不正義を暴くために活動したいと思っていたのだが、それはナンナ老師に止められてしまった。

 ベアトリスは現在ただ一人の生き証人なのだ。

 ベアトリスになにかあればすべては闇から闇。ダフニア男爵の思い通りになってしまう。


 なのでベアトリスはどうしても安全な位置に置かなくてはならない。


 ただごまかすだけなら簡単だ。

 ここは隣のフェルマコウ伯爵の領地。

 領主が違えばそれは国が違うのに等しい。身分相当の敬意は払われるが他領の下級貴族などほかの領では何の権限もない。何かしようとしても墓穴を掘るだけに終わる公算が大きい。


 自分の支配地では威張っていても地方男爵などその程度でしかない。


 なのでナンナの指示の下、各地の、同門の医療魔法士たちが情報収集にあたり、その情報を送ってくるようになった今。ベアトリスにはそれをまとめるぐらいしかやることがないのだ。

 なので結果としてこき使われている。


 まあ、たぶん忙しければ余計なことを考える時間もあるまいというナンナ老師の気遣いという面もある…に違いない…たぶん。知らんけど。


 で、その打ち合わせ。


「最新の情報だと塩の鉱脈を発見したと喧伝しているみたいだね…

 ただどういうわけかこちらに公式な話が流れてこない。

 塩の鉱脈など大発見だ。これが公式に発表されないというのは…」


 報告を読み唸るナンナとベアトリスは情報をすり合わせる。


「塩の鉱脈に関しては既にレーン様に報告してあったんですけど、ものがものですから本来なら今年の春からレーン様の主導で詳しい調査をという話になってました」


「ほほう、そりゃおもしろい。

 こりゃミジンコ男爵はその事実を知らないのかもしれないね。

 そのうえで辺境伯家も不信感を持っているんだろう。

 こりゃ思ったよりも簡単に行くかもしれないよ、すでに墓穴を掘っている」


 午後の会議でお茶を飲みながら話をする。

 ここにいるのはベアトリスの他はフェリカだけだ。

 カフカは情報収集のためにもともとの領地に潜入しているし、エミルはここでメイドとして働いている。

 みんなそれぞれに自分のできることをしているのだ。


「にしても、レーン嬢ちゃんも困ったもんだね。

 贈賄に収賄。税もきついみたいだし領内の統治が全くなってない」


「そんなにですか?」


「ん? まあ、それほどじゃない」


 ありゃ?


「まだたるみ始めて数年だ。水面下で腐っていたのがそろそろ表面にって時期だね、だからそれ程ひどくない。

 だが今手を入れないとひどいことになるって状況だ。あんたにゃ悪いがレーン嬢ちゃんの尻を蹴飛ばすにはいいタイミングだったよ」


 ナンナもベアトリスの事情はかわいそうだと思う。

 だがこの機会に少し手を突っ込みたい、チャンスは逃がさない。というドライさがある。

 ナンナにとって、他領のことではあるがレーンも弟子の一人なのだ。


「今回のことでもわかるようにあの弟はダメさ。

 生まれがどうこうという話は言いたくはないがね、母親の身分が低くて上級貴族の厳しさを教えようという気概がなかった。

 だから先代の第二夫人の子供達は二人ともろくでなしだ。

 それでもレーンが足にけがをしなけりゃもう少し余裕があったんさ。あのろくでなしをどっかの軍にでも放り込んで性根を叩きなおすとかね」


「それがレーン様のけがで予定が狂ったんですね」


「辺境伯家の当主が先陣に立てないってのは…まあ、慣例的にありえないからね、バカ弟を直接仕事をさせながら鍛えるって方向に行かざるを得なかった。

 来年には霊峰魔境に対する大規模な討伐遠征が予定されているからね」


 現在辺境伯であるレムニアには子供がなく、異母妹、異母弟がいるだけだ。

 レーンが戦えなくなった今、辺境伯家をしょってたつのはこの二人のうちどちらかになる。まあ、ぶっちゃけ弟になる。


 なので数年前から弟に職務のいくばくかを委譲して仕事にならす。という試みをしていたのだが、まあ、いろいろとぼろが出始めたということになる。


「最初はまじめにやっていたようだがね、根が根性なしだ。慣れてきてだんだんたるみが出てきた。最近は賄賂だの忖度だのが横行し始めてきた。

 でもまあ、この段階で明るみに出たのはよかったよ。

 あと数年放置されてたら治療が大変になるところだ」


 まして辺境伯家という守りのかなめがそんなろくでなしに継承されたらという話だ。


「はい、とってもいいところでしたね」


 ナンナの熱弁に合いの手を入れたのはナンナの助手を務める高弟の一人コーマーだった。

 コーマーはそのままナンナに手紙を渡す。

 ナンナはその手紙を開いて読んで。


「こりゃ本当に絶妙なタイミングだったよ。

 レーン嬢ちゃんからの手紙だ。

 ベアトリスの行方が分からないので連絡をくれってさ。

 すでに帰ってきているみたいだね。

 こりゃすぐに会いに行くような話さ


 出かけるよ、4分で支度しな!」


 いや、無理だろ。


◇・◇・◇・◇


「こいつはどういうこった? 冒険者ギルドはいつからこれほどたるんでやがったんだ? ああ?」


 再び冒険者ギルド。

 珍しく声を荒げるアーマデウスの前でひたすら頭を下げているのは冒険者ギルドのギルドマスターだった。


「もっ、申し訳ありません閣下、しかし冒険者は自己責任、我々が干渉していい話では…」


「黙りやがれ!」


 アーマデウスの一括にギルドマスターは震え上がった。

 彼から向けられる覇気というか剣気はその場にいるものを金縛りにして、それにとどまらず周囲の構造物すらきしませている。


 このアーマデウス・ルーヴェこそは、天位流剣術という剣術の一大流派で剣聖の称号をあたえられた剣士なのだ。つまりとっても強いわけ。

 剣聖っていうのはまあ、免許皆伝みたいなものだ。


 しかもなかなかに実践派で、彼に戦いを挑んで生きて帰ってきたものはいない…なんて言われるちょっとおっかない伝承のある人だ。

 ただ普段の物腰が柔らかいから周りの人はそういうことを感じ取れないでいるが、本気になると威圧感はすごい。

 しかも今はいつものスマートさが影を潜めてちょっと斜に構えてぐいぐい押してくる。

 その威圧にギルドの面々は青ざめていた。


 気分的にはおっかない人達の事務所に連れ込まれたような感覚だろう。


「冒険者ギルドの存在意義は冒険者の支援と管理だろうが。

 冒険者の行動が自己責任だ? そりゃそうだろうよ。だがそいつはあくまでも法を順守したうえでのことだぜ。

 冒険者なんぞというならず者を法に、そうとは気づかせずに従わせるのがてめえらの仕事だろうが?

 それができねえってんならてめえらの存在意義なんぞどこにあるんだ? ええ?」


 指先で時折テーブルがたたかれる。そのトントンという音がする度にギルドマスターは切り殺されたような、そんな冷たい感覚に身を震わせた。


(ああ、なんということだ、ギルマスになればいい暮らしができると思って子爵様にお願いして引き立ててもらったのに…こんなことになるなんて…)


「遅せえ!」


「はひ、申し訳ありません、すぐに見てまいり…」


「てめえは動くな!」


「ひいっ」


 アーマデウスの前で冒険者ギルドの職員は右往左往、てんやわんやだった。

 このギルマスも最近流れてきた緩い空気に乗って、金に物を言わせて登ってきた男だったが、そういうやつがトップをしていると自然と全体にゆるみがでる。


 小銭をもらってルールを無視する者。なにを言っても無駄だからと仕事に手を抜く者。

 良くないうわさが聞こえてくるようになって見回りを強化しようと足を運んできたのだ。そしたらいきなりこれだ。


 アーマデウスが怒っているのはもちろんアルビスのことである。


 子供の冒険者がベアトリスの名前でレムニアを探している。

 そしてベアトリスというのはいま、自分たちが調べている西部の不審な動きの中心人物。

 しかもその子供冒険者は収納魔法の使い手。

 もっとギルドが目を光らせていれば早くに事態が動いたかもしれない。


 だがここまではいい。誤差の内といえなくもない。


 だが調べているうちにレーンの名をかたってその子供冒険者を呼び出したやつらがいるという。


 これをきな臭く感じないとしたらそいつの頭はかなりお花畑だ。


 アーマデウスが資料を持ってこいと命じたが、何が何やらわからずに話が進まない。

 いっこうにすすまない。


「あの…自分はその…管理職でして…詳しいことは、その知らずに…」


 何とか弁明しようとするギルマス。

 これは逆効果だよ。


「辺境伯閣下の名を騙る犯罪者だ出たんだ。その犯罪にギルドが利用されたんだ。

 責任者ってのは責任を取る為にいるんだぜ」


 その声はその場にいるギルド職員にはまるで地獄からの呼び声のように響いた。

 何とか状況を明らかにしようとしている職員たちだったが全体を把握して職員をコントロールできる人間がいないのだから話が進むはずもない。

 みんな自分の人生がかかっているので必死ではあるのだが、関係書類や証人を集めるのは遅々として進まず、アーマデウスが状況を把握するのはもう少し先になりそうであった。


 ギルド職員の地獄はまだ続くのだ。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


12月/アルビス7歳3か月/双子4歳11か月



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