02-30 神殿~法~そして買い物
第30話 神殿~法~そして買い物
そこからの話は早かった。
奥のちゃんとした椅子のある部屋に通され、事情を説明。
説明したのが子供のアルビスだからみんなめん食らっていたが、状況は理解してもらえた。
生首もちゃんと鑑定されて犯罪者、しかも討伐相当と判定されたためにアルビスの正当性は認められたことになる。
まあ、正当防衛の段階でクリアなんだけどね。
そのあとはテトたちの事情聴取。
これがなかったらそもそも神殿に来る必要もなかったのだが…
「えっと、テトです。13歳です」
「あれ? まえ14って言ってなかった?」
前回そう聞いたのを覚えていたがサバを読んでいたらしい。
「だって14歳じゃないと仕事が制限されるから…」
この世界の成人は15歳だが、14歳になると冒険者は成人とほぼ同じ仕事が受けられる。
その手があったかー…とか思うアルビスだが、7歳児だからね、サバを読んでもたかが知れているよ。
そんなわけでサバを読んで冒険者になったテト君は孤児院出身。以前は孤児院でそれなりに面倒を見てもらっていたのだが、ここ数年孤児院の環境が悪くなり、自分でお金を稼ごうと冒険者の道に進んだ。
サバを読んでの旅立ちだったが孤児院の大人たちも気にするものはいなかったらしい。
そのテト君に親切ごかしに近づいてきたのがあのならず者たち、まあ、見た目はワイルドだったがいかにも実力者風に(テト君には)見えたし、最初はいろいろと助言をくれたので親切な先輩だと思って頼りにしたらある日突然殴られて殴られて、気が付けば反抗できずにコソ泥や恐喝などでお金を稼いで上納させられる毎日、中には今回のように犯罪に付き合わされることもあったらしい。
それを聞いたビクトリカは深いため息をついた。
そしてもう一人。少女の名前は『カナリア』と言った。今年15歳。成人だ。
身分としては契約奴隷ということになる。経済奴隷ともいう。
借金のカタに身売りして、借金分働いて返すまで年季奉公というやつだそうだ。
仕事の内容としては普通の仕事、という契約が多いのだ。カナリア自身もそのつもりだった。なのにいつの間にか契約内容が性的な奉仕もありの何でもありになっていた。
仕事についてそのことを知って、当然抵抗したが殴る蹴るの暴行を受けて無理やり犯され、しかも抵抗しなくなるまで犯され続けた。
いつしか気力も涸れ果て、あの二人の犯罪の手伝いと性玩具としての日々。
痴女みたいな格好もあいつらがカナリアを嬲るためのお遊びだった。
さすが高位の聖職者というべきか、ビクトリカになだめられ、堰を切ったように涙を流しながら窮状を訴えた。
ならずもの二人は『窃盗』『強姦』『詐欺』『殺人』『人さらい』『人身売買』と犯罪のオンパレード。
「神殿に来るのはこういった困窮した人もいるんですよ、どんな人であれ、思い込みで対応するなんてしてはいけないんです。これでは神罰も下されようというもの」
ビクトリカの愚痴に後ろに控えていた神官たちは悄然とうつむいた。
「ごめんなさいね坊やたち、神官様神官様と持ち上げられているうちに多くの神官が、『自分が神の僕、神のために働く小間使いでしかない』ことを忘れてしまうのよ…
偉いのは神様であって私たちじゃないのにね…」
「教育のし直しが必要ですな」
副神殿長と呼ばれる初老の男性はこぼした。
「たまにある事よ、人間はおろかなんですもの。
神官たちが思い上がるとその中で神罰を受ける者が出て、それでみんな目を覚ますの。
でもそれもまた少しずつ忘れられてみんな思い上がるのだわ。
それでも、次の咎人が生まれるわずかな間だけでも、神殿が正しく機能するというのは大きいことなのよ」
ビクトリカはそう語る。
なかなか達観しているといえよう。
結局生首は一つ5銀貨で引き取ってもらえることになる。賞金首でなければこんなものだ。もちろん賞金を出すのは国というか行政である。
冒険者の身分証があるので神殿から冒険者ギルドの方に知らせが行って、ポイントにもなるそうな。
さて、問題の二人の処分だが、テトは脅されてではあるけれど犯罪にかかわったので奴隷落ちになる。
とはいっても被害者の側面があるので犯罪奴隷の一種というやつで、一番軽いものになる。三年ぐらいの期限付きで神殿の下働き、つまり社会奉仕活動に従事するということになるのだ。
問題はカナリアで、奴隷身分はもともとのものだ。被害者だからと言って解放されたりはしないのだ。
契約内容も修正されたりはしない。
話を聞いているうちに神殿の方で調べたらしいのだが、カナリアの奴隷契約の内容は何でもありになっていた。おまけに借金の額も膨れ上がっていた。
これはカナリアの話と食い違うのだが、書類は正式なもので、偽造のような証拠もない。
「これは何とかしないといけない事なのですけどね、行政の尻を叩いて調べさせて、きっと何とかしますけど、少し時間はかかるかもしれないわね。
その間のカナリアさんの扱いですが、法律上はアルビス君がマスターということになるわね」
これは犯罪者の討伐が成った場合、犯罪者の資産は討伐者に帰属すると定められているからだ。
なのでカナリアの所有権は当然にアルビスに移る。
「じゃあ調査が終わるまで僕が預かります」
「本当にしっかりした子ね。それで大丈夫?」
「はい」
カナリアはアルビスをちらりと見て頷いた。
大人は基本的に怖くなってしまったカナリアだけど、アルビスみたいな子供は怖くない。
なので少し安心できるのだ。
それに助けてもらったのは間違いようのない事実だ。
「でも、盗賊の持ちものは何でも討伐者のものになるんですか?」
アルビスはこの点が非常に気になった。
かなり危ない法律のような気がしたのだ。
「あらあら、賢いわね、その通り、そのルールを無制限に認めるとやはり社会が成り立たなくなるでしょう。なので、討伐を成した場合は、討伐対象を神殿に持ち込むということになっているの。
アルビス君もちゃんとここに来たからそれは知っていたんでしょ?」
はい、知ってました。
で、話を聞くと、盗賊の討伐なんかの場合のこのルール。討伐されたのが犯罪者であると証明されないと適応されないことになっていた。
つまり盗賊の首は神殿で鑑定というか判定を受けないといけないのだ。受けないとこのルールは適応されない。その状態で財産を持ち去れば窃盗になる。
「なるほど」
そこまで厳格にやれば通りすがりに旅人を襲って討伐だとほざくようなことは出来ないことになる。
その程度の安全策は必要だろう。
かくしてアルビスはカナリアの主人となり、奴隷を使う上での注意事項を教わった。
奴隷は主人の命令に従わなくてはならない。
奴隷の職務の範囲は契約の範囲内に制限される。
主人は奴隷の衣食住を保証しなくてはならない。
大体メインはこんなもの。体罰の禁止とか、誠意条項とか、基本的人権とかはどこにも書いてない。
アルビスとしてはため息が出るね。
その日は遅くなってしまったので神殿に泊めてもらった。
遠方から来た神官のための宿泊施設みたいなものもあるらしいのでそこの一室を貸してもらえたのだ。ご飯も出た。
結構おいしかった。
贅沢ではないのだが、料理した人の腕がいいのだろう。
これは後日の話になるのだが、神殿内部で、神罰があったことが公表されて綱紀粛正が図られた。
あの神罰を受けた神官は贖罪のために1000日行とか言うものすごく厳しい修業に出されることになる。
1000日間の精進潔斎。さらにその間の聖句の詠唱。エンドレス。
3年後、この行を終えた神官は多くの治癒魔法を身につけ、立派な神官として復帰したとか。ナムナム。
◇・◇・◇・◇
翌日。
「「じゃーまたねーーーーっ」」
そう言うあいさつでいいのだろうか? というあいさつを残してアルビスたちは神殿を辞去した。
「にいちゃま、こえからどするの?」
「うー、そうだね、せっかく日の高いうちに町に来たんだから…買い物しようか。
カナリア…カナちゃんの服も必要だし」
「はい、あの、すみません」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
カナリアは現在母ベアトリスの服を着ている。アルビスが持ち出したものの一つだ。
ただサイズは合わない。子供が大人の服を着ているのだから当然だ。しかもベアトリスはスタイルが良かった。
完全に服に着られている。
さて、この世界の服は基本的に手縫いが多い。
生地を買ってきて自分で縫うのだ。
他に服を手に入れようとすると古着かオーダーメイドになる。
当然まず古着屋に寄ったがアルビスたちが着るような服はなかった。
子供用の古着はめったに出ないらしい。
「普通はお古で最後まで使い回すからねえ。坊ちゃんたちの服となるとオーダーメイドになっちまうねえ」
服屋のおっちゃんはそう言った。
ただカナリアの服はあった。着れそうなのがあった。
三着ぐらい買った。
「あの…よろしいんですか?」
「うん、いいよ、というか清潔には気を付けて、これ大事」
あと下着だ。
カナリアは下着を持ってない。
もっと正確に言うとスケベ下着が一枚だけ。
「いやー、坊ちゃん、下着はさすがにねえ~、構造が単純だからみんな自分で縫うんだよ」
まあ、布に紐をつけただけみたいなやつだしそんなに難しくもないからね。
そして小さい子供はパンツなんかはかないのだ。
ただこれに関して、アルビスは非常に不満があった。実はアルビスもふんどしを穿かされているのだ。
まあ、あれはあれでいいものだが。
アルビスは古着の生地を指でこすりながら…
(はっ、これってもしかして!)
「よし、生地を買いに行くよ」
そう言うと飛び出していく。
また何か思いついたらしい。
◇・◇・◇・◇
「何かわかった?」
「いやー、なかなか、とりあえずギルドに登録する前のことはほとんど出てこなかったよ」
ビクトリカは副神殿長の報告を受けながらフムと首をひねった。
二人でお茶を飲みながらお話しタイムだ。
幼い子供が三人で、まあ、さらに一人加わったわけだが、そんなメンバーで生活している。
これが気にならない人はたぶん人でなしだと思われます。
なので諸々の処理が終わった後アルビスたちのことを調べさせた。
報告をしているのは副神殿長だが調べたのは下っ端だ。
これはおごりとかではなく自然な流れで、むしろそうでないと困るのだ、あっちこっちのあれやこれやが。
ギルドに神官がおもむきいろいろ聞いてきたのだが、ほとんど何も出なかった。
アルビスは賢い子という印象だったが、それでもあの年で保護者がいないというのはおかしい。
親とはぐれたか、捨てられたか。
どちらにせよ訳ありに見えるのだ。
身分証は冒険者ギルドの見習いタグ。
照会してもほとんど何も出てこない。アルビスという名前と年齢ぐらいだ。
「冒険者ギルドももう少し身元の確認ぐらいはしてほしいものですよ」
「まあ、無理ね、身元がよくわからない人たちの最後の砦みたいなものですもの。身元を確認していたら餓死者が大量発生するわよ」
「そうですな」
「七歳で、ごく最近この町にわたってきて、ちょっとした資産はもっている感じ。
もともとはいいところの子なのかしら…
随分教育も行き届いているみたいだし…」
「どうするね、もう少し調べてみるかね?」
「いいわ、これ以上はなにも出ないでしょう、気にかけておくぐらいにしましょう。
困ったことがあれば訪ねてくるようにとは言ってありますしね。
子供が心配というのであれば私たちにはやらないといけないことが多いから」
「そうですな、もう少し行政のほうで子供や働けない者の保護に力を注いでくれるといいんですが…
我々の炊き出しだけでは、せめて飢え死にしないように…
その程度のことしかできませんから」
「ほんとね、若い神官たちも神殿で聖書を読んでいる時間があったらたきだしでもしてほしいわよね」
「これこれ、曲がりなりにも神殿の長がそういうことを言ってはいかんよ」
「あら、失礼」
「ふふふっ」
「はははっ」
神殿長と副長は気の置けない友人だったりする。
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9月/アルビス7歳/双子4歳8か月




