02-19 アイゼンの町~物取り~誓約魔法
第19話 アイゼンの町~物取り~誓約魔法
「ふえー、おにいしゃま、おっきいねえー」
「にちゃま、しゅごいのー」
双子がアイゼンの正門を見上げて感嘆の声を漏らした。
それは石造りの見事な彫刻の施されたトンネルのような大きな門で、トンネルの中で何人かの兵士というかちょっとかっこいいから衛士といった感じの人間が何人か配置されていた。
そんな構造なのでとてつもなく大きい。見上げるほどだ。
アルビスの実家が玩具に見えるほど。
そこでは出入りに検問のようなものはなく、手荷物だけの人はスルーして勝手に町に入っていく。身分証を確認されているのは武器を持っている人たちだ。
ただこれも身分証を見せるとそのまま通っている。
他には馬車や、何かを隠せるぐらいの大荷物は一応チェックを受けていた。
人の往来が多すぎでいちいち調べていられないのだろう。
アルビスたちは本当に手荷物しか持っていないのでスルーして中に入ったのだった。
中に入るとそこは大きな広場で、階段があってそこを登っていくと大きな噴水があって水を吹きだしている。
これもいろいろな魔獣が彫刻されたなんかすごい噴水だった。
「おにしゃま、すごいよ、あれどにゃごんだよ」
「見たことないのもいっぱいいるよ」
物語で見たような有名な幻獣、ドラゴンやグリフォン。大怪魚や怪鳥などの彫像は見事で今にも動きだしそうな躍動感に満ちていた。
その広場の外周にはたくさんの屋台が並んでいてたくさんの人が思い思いに過ごしている。
双子も興奮して走り回ってさあ大変。
アルビスもこの景色にはびっくりなんだがはっきり言ってみている暇がない。
近くにいたエドワードをクロノに任せ全力で走り回っているディアーネを追いかけざるを得ない。
本当にチョロチョロするのだ。
探検よろしくディアーネが細い路地に入り込み、そして…
「まったくアーネは少し落ち着きなさい」
やっと捕まえた。とばかりにディアーネを抱き上げるとアルビスの上を影が覆う。
振り向くとそこには少し年上の少年が経っていた。
「何の御用?」
少年の歳のころは十二、三才といったところか。簡素な鎧のようなものを身につけ、腰には短剣を刺している。
そして少し震えている。何かにおびえるように。
(なぜいきなりおびえられているのかな?)
「坊主たち、いい服着ているよな。きっと金持ちだよな。お…お兄ちちゃん、ちょっと困ってて、持っているものをわてけくれないか…」
「ああ、なんだ物取りか」
アルビスは納得した。
(あまり慣れてないな。かんでるし、ひょっとして初犯かな? 自らの罪におびえているとか?)
取り合えずあまり性根が腐ったという印象は受けない。だがもちろん容赦をするつもりもない。
でもちょっとだけ。
「お兄さん、犯罪は割に合わないよ、今なら間に合うから改心しなさい」
「うっ、うるさい、俺は金が要るんだ」
まあ、金なんか必要ないと思っているのに金を求めるやつはいない。大概のやつは必要だとおもっているけど。
少年はついに腰の短剣を抜いてアルビスたちに向ける。
最初追い払うだけにしようと思っていたアルビスだったがこの時点で方針変更。
少年のうでがボキッと折れた。
「うわあぁぁぁぁぁぁなんでーーーーーーっ」
でっかい声だなあ。なんて思いながら表を確認。
すぐそこを歩いていく人もその声には気づかない。これはディアーネの権能【風歌】の力だ。
周囲の大気を制御できるなら音だって遮断できる。振動を押さえればいいのだから。
これでここでのことが外に漏れる心配はない。
けっこう奥まっているので覗き込まないと中は見えないだろう。
だがいきなり即死魔法をかますほどアルビスも無慈悲ではない。
腕を押さえ、うずくまっている少年が転んだ。まるで引き倒されたように。
そして今度は左手がねじれていく。
ゆっくりゆっくり。でも確実によどみなく。まるでぞうきんを絞るように。
ミシ、ミシ、メキ、ベキ…
かすかな音が暗い路地に響き。少年が絶叫を上げる。
ディアーネはアルビスの後ろで丸くなって見ざる聞かざる状態だ。
悪い人が来たらそうやって隠れなさいと教えてあるから。
もちろんバリアを張ってガッチリ守っている。
一応周辺は警戒しているが人通りが多くて全部排除とかは難しい。
ぶっちゃけてしまえば壁の向こうにも人影はあって、それが敵かわからないから。
少年は自分のうでがねじ切られそうになるのを半狂乱で見つめていた。
「わひー、たすけて、たすけて、なんなんだ、なにが…助けて、神様! 化け物が! だれかー」
「うーんうるさい、あと足をつぶして放置でいいか、長々と続けているとアーネの教育にも良くないし」
「ひぃぃぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁ。たすけでたすけて…なんでもします、なんでも言う通りにします。だからたすけてー」
よくまあこれだけ大声を続けられるなあと感心する。
しかも体の各所からあるとあらゆる体液を垂れ流しながらだから壮絶の一語。
だが少年の救いの手は意外なところからやってきた。
『お待ちくださいであります、マスターどの。ここは【誓約魔法】を試す絶好の機会であります』
迎えに来てくれたエドワードとクロノだった。
◇・◇・◇・◇
誓約魔法というのは属性が四つになったときに解放された権能の一つだ。
契約魔法というのがあって、それは契約をするときにその契約内容に強制力を待たせる魔法だ。
商人に限らず絶対に破られては困る契約などを躱す際に、神殿に赴いて、この魔法が使える神官立会いの下に契約を交わす。それで双方に約束を守らなくてはならないという強制力が働くようになるというもの。
破ると呪のような効果が発生してひどい目に合う。どんな目かは知らない。
この魔法には神殿の用意した契約書が必要になる。
誓約魔法というのはこの誓いバージョンだ。
契約魔法と違うのはアルビスが上位者。ということ。これはアルビスに対して為した誓いを守らせるものだ。
クロノはそれを試してみては? と言っているのだった。
アルビスはふむと考える。
(別に何かやらせたいようなことはないけど…うーん、そうだなあ…)
「僕たちのことは決した他者に話さないこと。
僕たちに敵対的な行動をとらないこと。
あとは…冒険者ギルドまで案内すること。
代わりに見逃してやろう。どう?」
少年は首振り人形ぶっちぎりでまるで削岩機のように首を縦に振った。
「じゃあ今言ったことを自分で誓いな」
言われたとおりに少年は誓いを立てる。
「あなたたちのことは決して誰にも喋りません。二度と敵対しません。冒険者ギルドまで案内します。だから助けて!」
ものすごい早口だったが誓いは為された。
これによって誓約はなされ、少年は約束を破ることができなくなった。
「よし、じゃあ、治してやろう。それじゃ何もできない」
そういうとアルビスは少年の手を取り、ハイ・ヒーリングの魔法を流す。魔識覚で少年の身体を探査しながら必要な回復を施していく。
隠者の手で細かく相手の身体を、主に腕の構造物をあるべき位置に戻し、そこに生命属性の魔力を流して修復していく。
10分ほどかかったが、少年のうでは元通りになった。
感覚としては。
(材料があれば魔力の節約になる感じかな)
破損した肉体を再建するのに必要な材料がそこにあるというのはとてもいい感じだ。もし何もなかったら時間も魔力も数倍どころではなくかかるだろう。
そんな印象があった。
「はい、おしまい、みんないいよ」
ディアーネが立ち上がる。そしてアルビスにしがみつく、エドワードはここにきてすぐにしがみつき体勢だから同じ状況。
そのディアーネが。
「あっ、わるいひとの手が治ってる」
「うん、悪い人をやめるって約束したからね」
「えへへ、良かったね、わるいひと」
ディアーネの気遣いが微妙にどすどす刺さる感じだ。
「よし、ではまず名乗れ、そして僕たちを冒険者ギルドまで案内するんだ」
「はっ、はい」
完全におびえてます。
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9月/アルビス7歳/双子4歳8か月




