02-18 辺境の子供~ゴブリン歓喜の舞~地獄のファイアーダンス
第18話 辺境の子供~ゴブリン歓喜の舞~地獄のファイアーダンス
「ぐぎゃぎゃぐぎゃぐぎゃ」
「ぎゃるそん」
「ごじゃぺー」
「またゴブリンだ」
この辺りはゴブリンが多いのかな?
アルビスはふとそんな疑問を覚えた。
クマさんの所を旅立ってさらに東に。
魔境の中を進むのは…大した苦にならない。
浮けるし双子はクジラに乗るし。
日課として体力強化のための歩きは取り入れているが無理はしない程度だ。
目いっぱい動いて、おいしいご飯を食べて、ぐっすり眠って、おいしいご飯を食べて、朝のお勉強をして、さあ、出発だ。とボールハウスの扉を開けて外に出たらゴブリンがいた。
「さて、殲滅は簡単だけど…」
ゴブリンは残さずに平らげるのが肝要である。
一匹でも残っているとそこからまた増えてしまうのだ。
ほんとかどうか知らんけどそのぐらい増えるのだ。
今目の前にいるのは3匹ほど。
「こんなに少ないというのは想定しづらいから他にもいるとみるべきだな」
アルビスは室内に戻ってしっかりとドアを閉めた。
するとゴブリンはボールハウスに飛びついてひっかいたり齧ったり。
ただアルビスが結構な魔力を注いで作ったボールハウスはその程度じゃかすり傷もつかない。
らちが明かないと思ったのかゴブリンは、『ぐぎゃーーー』とか『ほぎゃーーーっ』とか叫びをあげて仲間を呼んだ。
そしてわらわらと集まるゴブリンたち。
アルビスは室内からそれを除いて『うまくいった』とほくそ笑んだ。
「あとはこれを殲滅すればこの群は全滅だろう」
つまりまんまとアルビスの手に乗っておびき出されたということだ。
「よし、じゃあそろそろ…」
そういったところで足をつんつんと引っ張られた。
「あのね、アーネもね、悪いやつやっつけるの」
「エドも、やっつけるよ」
「あら」
〝ふんす〟といった感じで息を吐く双子がいた。
アルビスは『この子たちも辺境の子だなあ』と思う。
日本にいたときは『命は大事なものなんだよ』と教わり、無為に命を奪ってはいけないと教育される。だがここではそれは通用しない。
村の子供達も遊び感覚で弱い魔物や昆虫を捕まえて殺し、戦うという感覚を養っていく。
命を大事にしよう、ではなく、倒すべき命と守るべき命をきちんとわきまえようがここの常識なのだ。
それは逆説的だが命を大事にしようということにつながる。
守るべき命のために、脅威となる命を狩るのだ。
ちょっと殺伐としてはいるが。
どうしてもそういうことがいやなら宗教組織にでも入って生涯を祈りの中で過ごすしかないだろう。
ちなみにこの世界は多神教で、戦いの神様とか言うのも信仰されている。生きるということは戦いである。というのが教義だね。
意味があるのか祈りの日々。
まあ、そんなわけで戦う力を持ったものは敵と戦わなくてはいけないのだ。たぶん。
アルビスはもう一度外を見た。
ゴブリンたちが変な踊りを踊っていた。
「やたら嬉しそうだな。獲物を追い詰めたので歓喜の踊りとか踊っているのかな?」
まあ、そんな感じだろう。
ただ倒すのはいいとして、その姿がなあ、とアルビスは思う。
一mぐらいの緑色の肌の猿に似た生き物。
頭に魔角が生えていて、魔物であることを主張している。
それはいい、それはいいのだ。問題は股間のぶーらぶら。
狸なら許されるそれもゴブリンでは許されない。
ちなみにゴブリンの生態はよくわからない。村の周辺にはいなかったので勉強は後回しになったのだろうとアルビスは思った。
本当は下ネタ満載なので子供に教えるのはいかがなものか。という理由だったのをアルビスは知らない。
知らなくともサーチ&デストロイだけ教えておけばいいのでかんたんなのだ。
アルビスは方針を決した。
「まずディアーネ」
「はい」
ビシッとお返事。
「まず風を家の周りでぐるぐる回すんだ。その時に地面の草とか枯葉とかいっぱい持ってくる感じでね。そしたら次はエドだ。家の周りにいっぱいの火を作ってあげなさい。
二人の協力技で悪いゴブリンをやっつけるんだ」
「「わかったー」」
ふたりは窓から外を除き、言われたとおりに準備を進める。
もちろんそれだけでは弱いかもしれないというので内緒で援護をする。
集まる風の中にたくさんの酸素を集めて混ぜ込むアルビス。
さらにぐるぐる回る風を整えてやる。他に漏れないように。
そしてエドワードが火を放った。
ゴブリンたちは見た。
最初は風が強くなり、細かく木の葉や落ち葉が舞い上がるのだ。
それは限られた範囲の中で舞い踊り、ゴブリンたちは楽しくなった。
人間風に言えばすべてが自分に都合よく行っているような高揚感ということだろう。
ゴブリンたちはさらに機嫌よく舞い踊った。
獲物は狭い穴倉に引きこもって出てこない。
その変な形をした穴倉は小さく、そして生き物はずっと閉じこもっていることは出来ないのだ。
いつか出てくる。
そして出てきたら獲物を狩り、そして穴倉も自分たちがもらい受けよう。
ゴブリンたちは知能は低かったが全くの考えなしではない。欲深いという意味では頭を使う。
ここにはいろいろいいものがあるような気がしたのだ。
そしてそれはもうすぐ手に入るはず、そう思えた。
だから楽し気に舞った。
喜びの舞いだった。
だが次の瞬間それは地獄のファイアーダンスに変わった。
最初は舞い踊る緑と枯葉色の中に明るいオレンジの光が混じっただけだった。それはとても美しい光景で、ゴブリンさえも魅了した。
でもそれはエドワードが放った火の魔法だった。
火は枯葉に燃え移る。
上がった火は緑の葉にも燃え移り、視界は一瞬で赤に塗り替えられた。
その赤はゴブリンに激しい痛みを与える。
痛みからのがれるために外に逃げようとしても風に邪魔されて果たせない。ましてそこは一番火が強い場所だ。
外から流れ込む風は範囲内の空気の密度を上げ、さらに酸素のみを選択的に増やされた空気は火力を一気に上昇させる。
それは人為的に偶然作られた火災旋風だった。
荒れ狂う炎の中でゴブリンは踊る。
痛みから逃れるために、何も考えずに踊り狂う。
その舞が止まるのは舞い手が焼死体に変わったときだ。まさに地獄のダンス。
十数匹のゴブリンが灰になるまで、大した時間はかからなかった。
◇・◇・◇・◇
「いやー、思いがけず大魔法になってしまったねえ」
アルビスもまあ、ここまでとは予想していなかった。あんまり火力がすごいのでバリアを全面展開してボールハウスを守らないといけなくなったほどだ。
子供たちは怖いもの知らずに喜んでいたけど…
おかげでアルビスはお勉強の時間にこの魔法の危険性を切々と説く羽目になった。
自分がいないところでこれを使われたら怖すぎる。
さらにフレスベルグとフェンリルにもしこいつらが使おうとしたら止めるように。と止められなかったら無属性でガッチリ防御するように申し付けた。
もちろん二人が魔法の制御に慣れていけばそんなことを気にせずとも自爆ダメージなんて受けなくなるのだろうけど、子供の内はね。
保険はかけておかないといけないのだ。
まあ、こんな感じで旅をつづけながら三人はとうとう目的地にたどり着いた。
スクード辺境伯領の領都アイゼンに。
それは後ろに美しく白い峰を背負った、水の都だった。
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9月/アルビス7歳 双子4歳8か月。




