02-16 ゴブリン襲来~ククマ乱戦
第16話 ゴブリン襲来~ククマ乱戦
それは今日も楽しいお料理教室の日だった。
村のおばちゃんたちが集まってアルビスに料理を教わり(逆じゃね?)和気あいあいと過ごしていたころ。
「てーへんだー。ゴブリンが出た、でたぞー」
村の若者が走りこんできた。
アルビスの目がキラーンと光った。
ゴブリンというのがいるのは知っていた。だがアルビスの村の近くでは見たことがなかったのだ。
主にカエルのせい、あいつらなんでも食うから。
あと百足。
ともにゴブリンの天敵のような魔物だったのだ。
だがそういうものがいないところではゴブリンは危ない魔物だ。
「どの程度だ」
「20ぐらいいた。大きいのもいた」
「なんてこった危ないだな」
「ああ、すぐに駆除しねえとなんねえ。村の男衆を集めろや、クマさんはどうしただ」
「あとをつけている。目印もあるからわかるはずだ」
「よし、すぐに支度をするだよ。女衆は村の防御だ」
みんな一斉に動き出した。
それこそ今まで使っていた料理代を蹴倒す勢いで走りまわり、バリケードが組まれていく。
こういった村なので一応柵などは組まれているし魔物が嫌う臭いなんかもつけられている。
そっち側から見るとちょっと危ない村に見えないこともないぐらいだ。
だがゴブリンにはそういうのが利きづらい。
一応知能があるからだと考えられている。
獣なら臭いを嫌がって逃げるところを、ゴブリンは乗り越えてきたりするのだ。特に上位種がいて命令されたときなど。
そして戦闘力も決して侮れない。
ゴブリンは小さい。人間の子供ぐらいだ。だが野生動物だ。
例えば、怒れるニホンザルとガチ勝負して勝てますか? という話だ。
一般人では無理だろう。
しかもゴブリンはニホンザルよりはずいぶん大きいし、しかも知恵もある。
まあ、辺境で暮らす人もたくましいので村人で互角という感じだろうか。
もちろん訓練をした人間が武器を持てば圧倒できるぐらい。
あとは数を考えた戦力評価だ。
上位種込みで20匹。
村では結構厳しい数といえよう。
というような話をアルビスはイレミアから聞いた。
うん、知らなかったんだよね。
イレミアは真っ青だ。
そして彼女はここ数日で魔法の腕を上げていた。
ウインドウカッターとかできるようになっていたのだ。
こういう時子供は無謀だ。
「お父さんを助けに行かなくちゃ」
それって必要? とか思うのはアルビスの感覚で、双子はイレミアに共感しているらしかった。
ひょっとしたらベアトリスを助けに行けなかったことを悔いているのかもしれない。
そして双子もあのときよりはずいぶん強くなった。
なんかおもらししそうな勢いで自分に取りすがる双子と、父親を助けに行くつもりで装備を身につけているイレミア。
(止めるのは簡単だろうけど…)
それでは解決にならない。
それに一宿一飯の恩義というものがある。数日世話になっているけど。
アルビスはふむと頷いて、自分も出撃することにした。
「いいかい、二人とも、ここでクマ小父さんを助けたらもう村には戻れないよ。そのまま出発だ」
「どこ行くの?」
「かあしゃま?」
「そうだ、かあしゃま」
「そうだね、そろそろ次の目的地に行ってレーン様を探さないといけないよね」
「「うん、かあしゃま迷子だからお迎え行かないとね」」
あわただしい出発になりそうだけど…
「ふっ、所詮は仮初の客だ」
なんかかっこよさげなセリフをつぶやいたりして。
「かりこめのきゃく?」
「かりしょめのかく?」
微妙に間違っている。
そしてポーズが…この二人は中二病に罹患しそうな気がするなあ。
◇・◇・◇・◇
「まったく、意外と数が多いだな、スミ、無理するな、離れたところから矢を使え」
「はっ、はい」
ククマは見習いの戦士スミに指示を飛ばす。
今日はいつもの見回りに新人の教育も兼ねてスミと村に知らせに走ったセタの二人を連れてきていたのだ。
出会いはククマ有利だった。まとまった魔物の気配に忍び寄るとゴブリンの集団が移動していた。
魔境にはエリアがあって、そこで生息する魔物が別のエリアに移動することはあまりない。
エリアが違えば生態系がガラッと変わってしまうことがあるからだ。
ここは哺乳類型が多いが、隣のアルビスの村は爬虫類、昆虫天国だった。
そのぐらい違いがあるのだ。
だがそういったものを無視して移動をする魔物もいる。
例えば飛行型の広域魔物とか、オークとか、このゴブリンとかだ。
こいつらは魔境で数を増やすとすわかれのように一部が移動することがあるのだ。
ひょっとしたらあちこちの村でつまはじきにあった流れ者の集団かもしれない。
ククマは目の前のゴブリンがそういう類いだろうとあたりをつけた。
このまま別のエリアに行ってくれれば御の字なのだがそれは難しいこともわかっている。
このククマの村があるエリアはゴブリンにとって過ごしやすいエリアなのだ。
アルミラージは苦手かもしれないけど。
一人を知らせに走らせ、状況を確認するために後ろをついていく。
数は当初の見込みより多い30匹ほど。体格のいい上位種が3体。
二体が大人並み、一体はさらに大きい。
(ふーむ、あの大きいのは俺と同等位だべか…あれにかかりきりになるともう少し戦力がないと難しいだな)
ククマは隣をおっかなびっくり歩くスミをちらりと見た。
戦闘訓練を始めて半年ほどだ。武装もしているし普通のゴブリンに後れを取るような事はないだろう。
だが上位種(中)が出てくると厳しい。
(まあ、村の連中が来れば問題なくやれるだな)
村には見習いでない戦士もいるのだ。
だが安全を期すならばもう少し敵を分散させたい。
ククマは慎重にゴブリンたちの後をつけていった。
それがまずかった。
見習いのスミは悪くない戦士だ。
アルミラージや猪や鹿などを狩ることもできる。もちろんチームで。
子供のころから訓練はしてきたし、半年ほど前から森に入って狩りもしている。
だが経験が足りていなかった。
狩りと戦闘は別のものだ。
今やっているのは『狩猟』ではなく『殺し合い』だった。
緊張が高まる。
こういうときに敵になるのは何も敵だけではない。
小さな昆虫やあるいは木々が蓄えた水。
とん、と木に手をついた時に葉に溜まった水滴が放たれた。パタパタと。それ自体はままあることだ。
ただ今回は 木を揺らした張本人、スミの首筋に落ちた。
極限の緊張状態にある彼の首に。
「ひゃーーーーっ」
まあ、気持ちは分かるかな。
だが当然見つかるのだ。
「ちっ、スミ、お前は弓をもって木に登れ、木の上から射るんだ。儂の弓を使え。儂のはd‐ossだからな」
そういうとククマはスミに弓を預け、腰から鉈を引き抜いた。鉈といっても刃渡り120センチもある剣鉈だ。
これも当然魔導武装である。
ぐいと力を込めて握るとd‐ossが目を覚ます。刀身に魔力紋が浮き、ほんのりと光始めるのだ。
基本この手の武器は攻撃力upとか、耐久力upとか、あと取り回しの補助とかの魔法が込められている。
木に登ると同時にスミは矢を引き絞って放つ。
これも矢に属性を付与する魔導武器で矢が刺さるとそこから内部を焼かれたりする。
ぐきゃーーーーっ
ぎゃぴーっ
悲鳴が上がってゴブリンたちが怯んだところにククマが切り込み、軽々と一般ゴブリンを切り裂いていく。
ゴブリンはあっという間に数を減らしていく。
『こごげーーーーーっ』
だが圧倒的だったのはここまでだった。
ゴブリンの上位種は一声泣くと剣鉈よりもずっと大きい剣を引き抜き、ずいと前に出てくる。
そして上位種(中)はその援護。
さらに残った一般ゴブリンは木に隠れて投石でスミを威嚇してくる。
「やーれ、頭のいい奴らだ。これはちとこまったのう」
ククマは額に汗が流れるのを禁じえなかった。
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8月/アルビス6歳11か月 双子4歳7か月




