02-15 イレミアの修業~お料理アップグレード
第15話 イレミアの修業~お料理アップグレード
「さあ、今日も元気に魔力修業だ」
アルビスはそう宣言すると双子を抱っこして魔力修業を始めた。
双子もすでに一人で形になっているが、アルビスにしてもらうのも好きなので必ず最初はこれになる。
三人のやることを興味深げに見守るイレミア。
双子を抱っこしての修業が終わった段階でアルビスはイレミアにおいでおいでと手を振った。
「ふえ?」
アルビスのいい考えはこれだ。
魔法というのは精霊がなくても使える。もちろん一定水準を超えるには精霊が必要だが生活に使う魔法は使えるし、攻撃に仕えるような魔法も訓練しだいではできるのだ。
ただそれでも精霊を持つという水準は高いものであるので、人間の精霊持ちはかなり少ないし、アールヴも三割ほどにとどまるらしい。それでも人間の一割強に比べれば格段に多い。
じつのところククマも精霊はもっていなかった。
母親は精霊持ちであったらしい。
イレミアも精霊はいない。これは才能があったとしても年齢的に不思議はない。
ただ生活に使う魔法は使えるらしい。
ならばと魔力修業に誘ったのだ。
最初、イレミアはもじもじしていてなかなか乗ってこない。
(うーん、やっぱり魔力の修業とは言っても見ず知らずの人のいうことは難しいか…)
なんて思ったアルビスだったが、イレミアがアルビスの胡坐の中に、背中を預ける形で座ることを恥ずかしがっていることには気が付かない。
アルビスは中身があれだからね、小さい子を膝に抱く程度の感覚しかないのよ。
だけど女の子は何歳であっても女の子。
父親でも兄弟でもない男の子の上に座るって抵抗があるんだよね。つまりアルビスがずれてるの。
しかし結局イレミアはアルビスの上に乗ることを選んだ。
幼いころに母が連れていた精霊を見せてもらったことがあったのだ。エルフの定番、風と水の属性を持った精霊だった。
その時からイレミアは精霊につよい、とても強いあこがれを抱いていたのだ。
そしてアルビスたちは母と同じように精霊を連れている。
魔力修業に誘う際に信ぴょう性を上げるためにアルビスは精獣召喚を、アルビスだけでなく双子も使って見せた。
特に小鳥のフレスベルグは幼いころに見た母の精霊をほうふつとさせた。
それらに背を押されたのだろう。
そして実際アルビスの魔力の動き、魔力のカプセルに入って魔力を感じ、それにこうして自分の中の魔力が動くのを感じてなるほどと納得した。
さらに魔力の循環方法。そして七つの魔力点の意識の仕方、そういったものを教わって目が覚めるような思いをした。
イレミアが基本を覚えるのにかかったのはわずか三日ほどだった。
◇・◇・◇・◇
アルビスがやっていたのはそれだけではない。
「ほへー、これがマヨネーズかね」
「いやー、うまいものだな」
「いやそれよりも胡椒の葉というのがいい」
「油が搾れるのもいいねえ、揚げ物最高だよ」
そう、お料理の布教活動。
幸いなことにこの村では鶏を飼う習慣があった。
「ニワトリ?」
アルビスは首をひねった。
まあ、鶏というにはまん丸でボールみたいな体系だから違う鳥なんだろうけど、位置づけは鶏だ。
大きさは50センチぐらいで残飯や庭の草を食って成長し、畑に放せば虫も取って食べる。
毎日ではないが週に一回ぐらい卵を産む。
そして一年ぐらいで成長し、お肉になる(涙)。大変に良い家畜である。ニワトリではなく庭鳥というらしい。ひょっとして語源は同じか?
あとビネガーはある。油はユノの実を絞れば取れる。この実のなる木はククマが場所を知っていた。
なのでまずはタマゴを分けてもらい、自分で作ってからふるまった。
大好評だった。
なぜ自分で作ってからふるまったかというと作るのに手間がかかりすぎるからだ。
混ぜるの大変なんだよ。
卵黄、塩、酢を入れてこれをかき混ぜる。
それがもったりしたら油を少しずつ入れてよくかき混ぜる。白くクリーム状になったら出来上がりなんだけどこの混ぜるのがね、かなりの重労働。
このマヨネーズの現物を見せずにこうやればと教えたところで誰もやろうなどとはしないだろう。
あっ、もちろんアルビスは魔法でやってます。無属性魔法でミキサーの様な力場を作ってグオングオンやればいいのだ。
そしてできたマヨネーズを教えてくれと言われればミッションコンプリート。この段階であれば混ぜるのが大変でもなんとか根気よくやってくれるだろう。
卵の雑菌(たぶんサルモネラ菌)の心配があるのでできたものは一晩おくように指導した。
(自分でやる分には鑑定で分かるんだけどね)
できれは醤油も教えたかったのだがこれは死滅属性魔法ありきの品なので無理だった。
なので代わりに鑑定で分かった食べられる野草とか、香辛料、ハーブ類をいくつか教えた。
これだけでもこの村の食生活は格段にグレードアップしたと言えるだろう。
アルビスの人気はうなぎのぼりだった。
しかもアルビス側にも得るものがあった。
乳製品が手に入ったのだ。
この村ではメウメウという山羊だか羊だかという魔獣が買われていて、そのお乳が食用に供されていたのだ。
「この村はなんか豊かな村ですね。以前いたところにはこんなものはなかったですよ」
「おう、うちの男爵様はいい人でなあ。あれらを紹介してくれたのも男爵様だ」
その後希望がある村にはお安く分けてくれたんだとか。
(うちのみじんことは大違いだ)
アルビスは内心大いに憤慨した。
といっても導入されてまだそんなに立っていないのでチーズ作りなどは本格的に始まっていない。今男爵様が調べているのだそうな。
だがアルビスにはカッテージチーズとバターぐらいは作れるのだ。
そして作ったのだ。
ただ乳を飲むだけだといまいち不人気だったらしく、欲しいと言ったら乳はたくさん分けてもらえた。
あとはひたすらシェイクである。
頑張れアルビス。
そして数日。
村では…
「いや、あの坊主は物知りだな」
「んだな、あの坊主らを町に送るのは…どうだべ、もったいない気がするんだがなあ」
「だな、ワシもそんな気がしてるだ」
「それにあの年で読み書きもできるようでないか。うちのばあさまはアーネちゃんとエド坊に手紙を読んでもらったと言っとっただぞ」
「うーむ、そうなると、たんに捨てられたというのも変な話だ、ふるまいなどから見てもおそらく貴族の出だろう」
「いっそのことイレミアの婿さんにどうだか? そうすればずっと村にいてくれるし、あの三人なら村の一員として、全くそんにならんじゃろ」
「んだな、いい考えだ」
「もう少し様子を見て話をしてみるか…」
そんな流れになったりしている。
町で売るものをそろえ、準備ができたら売りに行く流れなんだが、今回はアルビスの教えたハーブ類も商品に加えようとなって少し準備に時間がかかる状況だ。
それで町への出発が二、三日伸びることになったりしている。
なので少しゆっくりできたのだが、双子もかまってくれる人がいっぱいでうれしそうなのだが…
それでも。
(うん、そろそろ、お暇するかな)
アルビスがそんなことを考え始めたころに事件が起こった。
森の中でちょっと強めの魔物と出くわしてしまったのだ。
ゴブリンのグループだった。
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8月/アルビス6歳11か月 双子4歳7か月




