02-12 キャンプ?~新しい土地~新しい魔物
第12話 キャンプ?~新しい土地~新しい魔物
「よし、今日はここでキャンプだ」
「「わーいわーい」」
やはり人間というのは贅沢には早くなれるもので、秘密基地の快適な暮らしはなかなか捨てがたいものだった。双子にとって。
なのでキャンプ生活にちょっと不安げな二人だったがそこは兄バカのアルビス。抜かりはない。
インベントリが起動すると空中の魔法陣からゆっくりとそれがおろされてくる。
直径6mほどの球形の物体。
それは周囲の木を、めきめき、ばきばきとへし折りながら降りてきて、はまり込むようにして固定された。
まあ、森の中で6mもあればね。
ただそれだけでもなく下側には棘も生えていて地面に刺さったりもしている。
これはアルビスが秘密基地にいる間に少しずつ作り上げたキャンプ用の持ち運びハウスだ。
入り口は高いところにあるのでそこまで【築城】で階段を作る。
登っていって中に入れば床面積は優に8畳ほどはある。
構造が球形なので部屋はドーム状だ。
そこに洗面所、バス、トイレ、炊事場があって、中二階のようなロフトがあってそこは布団が敷き詰められたおねんねスペースだ。
もちろん双子のおもちゃたちも配置されている。
秘密基地の快適さにかなり近いといえよう。
素材は木をベースにしていて外壁は石をコーティングに使ったものだったりする。
これは土属性の権能変成と土魔法の築城の合わせ技だったりする。
築城は土や砂を自由に動かし魔力で固めて造形する魔法だ。
そして変成は物質を分解して別の形に再構築する者。
築城は本来、木材には作用しないのだが、変成と合わせると一度分解した後繊維をくみ上げるように再構築できたりする。
やたら利便性が上がるのだ。
『すげー、土魔法使いスゲー』
と感動しきりだったが、まあ、他の土魔法使いはねえ…
というわけで誕生したボールハウス。まあ双子のためとは言いながらアルビスも不自由な生活に甘んじるのは、少しならともかくずっとはなかったりするのだ。
食事はパンを節約するために粉ものが多い。
朝はうどんや、すいとんが定番だし、夜は主食になるのがお好み焼きだ。
野菜や山芋がたっぷりのお好み焼きに肉料理か卵利用理が一品つく感じ。
ちなみにお昼はフライドポテトにミックスジュースが多いかな。
このキャンプハウスというかボールハウスは築城に魔力をふんだんに使って作ったもので、かなり頑丈にできている。
少なくとも今まで戦った魔物の攻撃では破壊は不可能だろう。とアルビスは思っている。
そして今日も今日とておいしいご飯を食べて、お風呂でピカピカになってぐっすり眠るのだ。
夜間の見張りは精霊たちが担当してくれているので問題ない。
モップは室内にいるが強めの魔物とかが出てくると反応するのでこいつも魔物センサーだな。
アルビスの魔識覚探査も寝ているといまいち役に立たないのでここら辺は協力していきます。
あとちょっとおまけだが、朝も安心安全にご飯を食べ、水洗トイレでちゃんとしてから出発なのだがこのトイレ、というか排水関係はタンク式になっている。
地球で見た仮設トイレがヒントだね。
排水がタンクに溜まっていて、朝、出発前にタンクをパージするのだ。
そして築城で作られた新しいタンクを設置する。
タンクは魔力を抜いてあるので二、三日で崩れて自然に帰るので環境にやさしいのだ。
そして屋根の水タンクに新しい水を補充したらインベントリにこれを丸ごと収納して出発準備が完了である。
◇・◇・◇・◇
旅路だから基本的に双子もあるく。まあ、多少は。
それは体を鍛える意味で重要なのだ。
でも山道だし、さすがにずっととはいかない。
そういう時は聖獣召喚。
クロノは3mぐらいで顕現されるのでその背中に乗ることができる。
精霊の時は30センチくらいで、かなりデフォルメされた直立してウゴウゴ動く漫画のクジラみたいなやつなのに聖獣召喚すると3メートルぐらいのリアルな、鰭が翼のように大きいクジラだったりする。
騎乗して全く問題ない。
アルビスは自由度と機動性を考えてカゼコマで移動する。こうなるとかなり移動速度は速い。
そんなことをしているうちに魔物の様相が変わってきた。
「うわっ、ウサギだ。超でかい」
「「おっきいー」」
冗談じゃ無くでかい。
「鑑定」
〇 アルミラージ。兎型の魔物。縄張り意識が強く極めて好戦的。
戦闘力はそれなりに高い。脂がのっていて美味。毛皮が美しく高値で売れる。
全長(角から尻尾まで)92cm。
「一メートル弱はでかいな」
数字で見るとよくわかる。
しかもすでににらみ合いが始まっている。
アルビスを警戒しつつジリッ、ジリッと横に移動するアルミラージ。
アルビスもなぜか両手を横に広げ、拳銃で抜き打ちでもするかのようなポーズでジリッ、ジリッと横に動く。
映画だったら緊張感を盛り上げるところだろうか。あるいはギャグっぽく珍妙なBGMでもかかる場面だろうか。
それはこの後の両者の行動で決まるのだ。
アルミラージが飛んだ。
その自慢の脚力で弾丸のように。その突進は大型の魔物でも仕留めるほどの威力がある。この角に刺されたらアルビスと言えども!
しかしアルビスの反応は早かった。
魔識覚は情報量が多い。
普通ににらみ合いながらも周辺の動きも監視しつつ、同時にアルミラージを観察もしていた。
その筋肉の動き、魔力の流れなどまで。
これはアルビスが第四段階まで進み、知識の円環を手に入れたからできることだ。これがなかったら脳がオーバーヒートしてしまうだろう。
だからアルビスにはアルミラージが飛び出すタイミングが分かった。
そしてその動きに合わせて、なぜかケラウノスを抜き放った。
抜き打ちのポーズは何だったんだ?
ケラウノスは白く輝く金色の槍としてアルビスの手に顕現した。
アルビスの身長に合わせて少し小さ目。
はっきり言ってアルミラージの方がアルビスより大きい。こんな槍で果たして、とみているものがいたら思うかもしれない。
だが弟妹の信頼は揺るがない。
その信頼にこたえるかのようにアルビスは〝すいっ〟と横にずれ、下から槍を振り上げた。
槍の先には平たい穂先、それがアルミラージの首をとらえる。
次の瞬間アルミラージの首がコロンと落ちた。
「おおー、すごい。何の抵抗もないじゃん」
ケラウノスは雷霆の名の通り高密度の電気の塊だ。それは高圧電流を通り越して荷電粒子といっていい密度だった。
精霊武器なのでそれが外に漏れることはない。それが解放されているのは攻撃に使われる部位のみ。
槍の穂先の温度は数十万度に到達している。
普通に使えば触れた瞬間に動物など蒸発してしまう。
だがその暴力的なエネルギーは薄く長くのばされ、周囲に影響しないようにフィールドに包まれている。
それがアルビスのイメージだから。
それが通過するとき、その影響範囲にあるものは、焼き切られるのではなくあまりの熱に瞬時に素粒子にまで分解されて消滅する。
結果、まるで二次元の刃で切断されたかのようになめらかで揺らぎのない切断が現れる。
そして焼きつぶされたようなこともなくどくどくと流れ出る血。
「よし、【血抜き】!」
アルビスは血抜きのための魔法を発動させる。
血は液体だから思いつけば簡単だ。アルビスは水=液体と考えている。
水魔法でズゴゴゴッと血がぶっこ抜かれて血抜き完了。
双子が隠者の手で掘った穴にその血を放り込み、アルミラージの腹を裂いて内臓を取り出してやっぱり穴に。
そのあと毛皮をはがしてお肉に解体していく。
四足動物の構造はあまり変わらないからなんとなくでもそれなりに行ける。
『解体するでありますか?』
いつもは解体することまではせずにインベントリに放り込むのだ。だって解体なんかしてたらそれだけで日が暮れる。それほど撃破率が高い。
しかし…
「今回は初めての獲物だからね、鑑定結果は美味だからとりあえず食べてみないと」
「「わーい、おにくー」」
唐揚げ、ステーキ、香草焼き、醤油ダレの串焼き。薄切り肉の焼肉。ハンバーグにシチューと一通り試してみるつもりだったりする。
のちの話だが唐揚げとシチューが好評だった。
「でも完全に様相が変わったね。カエルや芋虫がいなくなったよ」
芋虫も大量に持ってます。好評です。
「魔境の境界を越えたでありますな。この辺りはたぶんフィールドボスが動物系なのでありましょう」
つまり哺乳類ということね。哺乳類という言葉はまだないから。
アルビスたちは魔境を進むうちに自分とこの魔境から隣の魔境に移ったということになる。
「この魔境のレベルはどのぐらいなんだろう?」
『アルミラージは角ウサギなんかよりずっと強いでありますからレベルⅡぐらいじゃないでありますか?』
「レベルⅡか…」
ちょっとフィールドボスに興味を惹かれるアルビス。
「でも遊んでいる暇はないよね。残念」
「「ざんねん。あははっ」」
アルビスは双子の頭をわしゃわしゃとなでて旅を続ける。
目的地は少し南にある開拓村だ。マップで調べた。
最初は寄るべきか迷ったが、パンの補充や情報収集のためによることにしたのだ。
「マップマジ便利」
まあ、村があるということと現在位置ぐらいしかわからないんだけどね。
アルビスたちは元気に歌を歌いながら進む。
歌につられて出てくるご飯…獲物を狩り尽くしながら。
歩きながら歌っちゃうのは地球にいるときの癖ですね。




