02-08 新たな一歩~新たな生活~そして精霊武器
第8話 新たな一歩~新たな生活~そして精霊武器
一週間ほどたちました。
「おにちゃ、おはおー」
「にいちゃま、おあよー」
何かに耐えるようにうずくまって泣いていることの多かった双子も明るさを取り戻しつつあり、アルビスも少し安心する。
何かに夢中になっているときなどは元気ものなのだが、ぽっかりと時間が空くと思い出して辛くなるのは仕方がないことだ。それが分かっていてもうずくまって泣いている子供は心臓に悪い。
だがそれも見られる回数が減り、立ち直りつつあるように見えた。
といっても状況が改善したわけではないのでミジンコ男爵に思い知らせてやるという気持ちは揺らがないけど。
でもそれはそれとして子供たちにはよい暮らしが必要だ。
自分も子供なのは忘れている。
「おはよう、エドワード、ディアーネ。ご飯できてるよ。顔洗っておいで」
寝室から出てきた二人にアルビスはにっこりと声をかける。台所の前に立って割烹着で。
(これがお母さんのスタイルだよな)
ちょっと勘違いが入っている。
「「はーい」」
双子は元気に挨拶をして今いるところから一段低いところに作られた洗面所に入っていく。
寝室は半分高いところにあって大きさは四畳半ほど。四角く整えられたきれいな部屋だ。床にはきれいに磨かれた板が敷いてある。その上にお布団だ。
最初は本当に岩を掘っただけの穴倉という感じのスペースだったが、今はちょっとこじゃれた部屋になっている。
これはアルビスが得た第四の権能【変成】の力によるものだった。
それ以前も魔法で岩を削り、空洞を作ることぐらいはできたのだが、さすがに細かいところまでは行き届かなかった。
だが変成は物質を分解し、再構築する権能。しかも土属性なので個体とはめっぽう相性がいい。
床を平らにならすことも、壁をまっすぐ整えることも。壁に棚のような形を彫りこむことも、土を固めて石のテーブルを作ることも自在にできる。
なので現在アルビスの秘密基地は四畳半の寝室。10畳ほどのダイニングキッチン。そして一段下に新設された洗面所で出来ていて、すでに秘密基地ではなくマンションの様相を呈している。
アルビスは下に降りて顔を洗い、そしてついでにトイレを済ませてくるだろう双子を見て頬を緩める。
(むふふ、自分の力で愛する者にいい暮らしをさせてやれるというのはいい、ものすごくいい)
とか思う。
一週間いろいろやったがこの部屋の改装は会心の出来だ。
ここは小さな滝のわきにある大岩の中であり、上を流れる川と滝の後、つまり下を流れる川がある。
上の流れはちょうど四畳半のある位置ぐらいにある。
この流れを一部、台所の貯水タンクとユニットバスに引き込んだ。段差があるから水路を通せばいいのだ。フィルターのような網目の付いた穴である。
これにも変成が使われた。
ただ変成だけではこうはいかなかっただろう。
魔識覚で岩を透視し、隠者の手で変成の権能を伸ばして工事をする。それによって岩の中にパイプ状の穴をあけられたのだ。
水の流れを止めることに意味がないのでどちらもかけ流しでそのまま下に流れ、外に出て川に合流している。
台所はジャグのようなタンクから常に水が流れ続けているし、ユニットバスの方はまず洗面台に流れた水がそのままトイレに流れて流れっぱなしになる構造にした。
ちなみにトイレは和式に近い。
斜めにした底を常に水が流れ続け、排せつ物を先にある穴に流し去る。
人が落ちる大きさではないのでこれでトイレの恐怖から完全に開放されたと言っていい。
洗面台には蛇口のようなものが付いていて、普通は水は洗面台➡トイレへと流れるのだが、蛇口を反対側に動かすとバスタブに水が張られるようになっている。
水さえ溜まればお湯にするのは簡単なこと。
これでアルビスは念願の『水道』『お風呂』『水洗トイレ』を手に入れたことになる。
これをお披露目したときの双子の賞賛が心地よかった。
ちなみに努力して水回りを完成させたその日に。
『おめでとうであります。第五の属性、水属性が解放されたであります』
とクロノに言われた。
「ううう、いいことなんだけど、いいことなんだけど…」
どこか釈然としないアルビスがいた。
まあ、飲み水が権能【創水】で良い水になったのでいいのだ。そう思うのだ。うん。
食生活も食用油を大量に確保できたことで揚げ物ができるようになった。
そしてウスターながらもソースも完成した。
なのでとんかつなどのフライが食べられるようになった。
大根のような野菜(木になるので大根ではない)も見つかったので焼き魚に大根おろしと醤油という組み合わせもできるし、いい感じの葉野菜も手に入ったので山芋入りのお好み焼きなども実用化できた。タコのような水生生物も確保できたのでタコ焼きもあり、普通の芋に似た芋(キクイモに近い花の地下茎)も見つかりフライドポテトも導入された。
小麦があるし鳥の卵が手に入ったときは天ぷらも食卓にならぶ。
やはり根が現代人なので食生活となるとどうしてもそっちに流れてしまうのだ。
そしておそらくこの三人が、この世界で最も充実した食生活を送る三人だったりするのだ。
「おうちのごはんより」
「にいしゃまのごはんがいい」
当然そうなるよね。目下の目標はお米を手に入れてご飯を作る事。
チーズを作ってピザを作る事。この二つだったりする。
(いやー、死属性魔法、マジ最強)
さて、ご飯が終わったら積み木などを出して双子と遊び、そのまま算数や読み書きの勉強に移る。
まだ小さいので遊びながら。遊びの中で足し算、引き算を教えたり、母様に手紙を書こう、いつ会えてもいいように。と言って文字を教える。
「あたまいいなあ、マジ天才」
兄バカである。
ああ、そうそう、照明は家からもちだしてきた魔動ランタン(結構明るい)に依存している。
魔法でどうにかならんのか?
と思うかもしれないがどうにもならないのだ。
「光、光、つまり電磁波だ。頭上に強力な電磁波? あかんですやろそれ」
アルビスが光を作ろうとするとなぜか攻撃兵器みたいになっちゃうから。
魔法はイメージ。
知識があるということは大きなアドバンテージなのだが、理屈がイメージから剥がれないということでもあり、ただの光を作ったりするのはかえって難しかったりする。
「まあ、魔道具がかなり明るいからいいけどね」
目がー、目がー、とか、ぎゃーーーーやけるー! とかは遠慮したい。
魔石はいくらでも取れるから魔道具は使い放題だしね。
勉強が終わると採取に行く。
どうせ固有収納領域でいくらでも収納できるのだから取りまくっていいのだ。
双子と一緒に狩りをして、採取をして時を過ごし、同時に魔法の練習をする。
双子の魔力回路もしっかり育ってきていていい感じだ。
この調子なら双子が二つ目の属性を手に入れるのも時間の問題。とクロノが言う。
そんな余裕の出てきた今日だからアルビスは一つの問題に取り組むことにした。
それは。
「ケリュケイオンのテストー」
「「わーい」」
ぱちぱち。
お前ら分かってないよな。
完成はしたが今までいろいろ忙しく試す暇がなかったのだ。
アルビスは精霊武器ケリュケイオンを呼び出した。
精霊武器は普段は消えていて召喚されるものらしい。
呼び出した杖はアルビスの身長より少しだけ長い杖で、デザイン通りに杖本体を二本の螺旋が取り巻き、先端に翼の生えた玉の意匠がある杖だった。
手に取って掲げるとなんとなく使い方が分かる。というか杖の能力が分かった。わかってしまった。
「マジ?」
アルビスは目を剥いた。
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現在まだ五月。
アルビス6歳8か月
双子4歳4か月。




