02-06 あの後~現状~これからのこと
第6話 あの後~現状~これからのこと
『おめでとうであります。第四の属性、土属性が解放されたであります』
「あーーーーっ、やっぱりか」
うん知ってた。とアルビスは思った。
だってクロノが大きくなっていたから。
それに魔法が格段に使いやすくなっていたから。
タイミングはおそらく先日の戦闘中。雷を落としたあたりだと思われた。
『正解であります。四つ目の属性の解放条件は複数の属性を合わせた複合魔法を使うことだったと思われます。
これによってさまざまな権能が解放されたであります。すごいでありますよ。
そして精霊武器【ケリュケイオン】が完成したであります。
具体的には…』
〇 土属性の権能【変成】が使用可能になった。
〇 リング:【知恵の円環】の解放。情報処理能力が強化された。
〇 それに伴ってマップ機能が解放(精霊情報網で周辺情報と現在位置を把握できる)
〇 【聖獣召喚】が使用可能になった。(精獣召喚のすごいバージョン)
〇 鑑定が使えるようになった。
〇 誓約が使えるようになった。契約に拘束力を持たせられる。
〇 【精霊武器召喚Ⅱ】が可能になった。(作れる精霊武器は1つじゃなかった)
「なんかすごいね。一気にできることが増えた」
『そうでありますな、なるほどこれでは躓くはずでありますよ』
二人でふんふんと頷いた。
ちなみに現在のクロノは聖獣召喚状態で2m強の空飛ぶクジラだ。蒼い色が鮮やかになり、鰭が大きく翼のようにも見える。
これなら双子を背中に乗せて飛行できる。かなり助かる。
「なーおっ」
モップかうるさいと文句を言っている。
現在は夜。
場所は魔境の中にある秘密基地。
双子はすやすやお休み中。ほほに涙の痕があるのが痛ましい。
アルビスはせめて夢のなかでは安らかなれと願わずにいられない。
あの後の話をしよう。
アルビスは大急ぎで双子の所に戻り、双子を抱えてベアトリスとの合流を目指した。
だがダフニア男爵の侵攻速度は速く、あっという間に迫ってきた。
(このままではお母ちゃんたちが追い付かれる)
幸いベアトリス達が認識されているわけではない。しかし敵は周辺を探索しながら迫ってくる。
ベアトリス達は危険だった。
アルビスは迷った。
その時に。
「かあしゃま、たすけよう」
涙でウルウルの目でディアーネが言ったのだ。
エドワードも目に涙をためてコクコクと頷いている。
アルビスは腹をくくった。
いろいろとくくった。
アルビスはワンワン王の格好のまま双子を抱き付かせ、とんで場所を移動した後で単独で大きく飛び上がり、そしてハイパーライフルを使った。
敵から見えるように。
わざと姿をさらしながら。
ハイパーライフルの轟音が響き、追いかけてきていた兵士の一人がはじけとんだ。
フィールドボスさえ撃ち抜く威力に、人間が耐えられるはずもないのだ。
わざと光って見せ、ふらふらしてみせるワンワン王を、男爵軍は追いかけてきた。
そうしたらまた双子を抱えて低空で移動。移動が終わったらわざと姿を見せつけて攻撃。
それを繰り替えす。
自分の攻撃で人が死んでいることをアルビスは正しく理解していたが…躊躇はなかった。
レアスビー準男爵。彼が最初のきっかけだったのだ。
母をケガさせた悪党で、父を手にかけた張本人。らしいことは聞こえていたのだ。
彼に対する攻撃は容赦のないものだった。
そして今も母を守るのだ、弟妹を守るのだという強い決意がアルビスを支えている。
人を殺すことに対する忌避感など、愛する者の命に比べればどうということもない。
それはアルビスが日本人ではなく、この世界の人間になった瞬間だったかもしれない。
三人の敵を射殺した後アルビスはわざと姿を見せつけるように明後日の方に飛び去った。
勿論そのあと隠れて戻ってきて双子を回収。今度は村のほうに全速で飛んだのだ。
村についたからと言って誰かに助けを求めることはできない。
もし村の人が事情をしって蜂起などすれば被害がどこまで広がるかわからない。
敵の目的が領地の乗っ取りである以上、あまり無体なことはしないと思われた。
いや、そう思いたかったのかもしれない。
知られたところで何もできることなどなかったのだから。
なのでアルビスは気づかれないように家に入り、家の中のものを片っ端からストレージにしまい込んだ。
自分の周りの生活必需品に始まって両親の荷物も。ベアトリスが預かってくれていたお金、オリハルコン。さらには両親のお金。あと部屋で目に付いた領地経営の重要資料なども持ちだした。
これが後で効いてくるのだが、この時点ではアルビスは何も知らない。
ちなみに双子のおもちゃも持ちだした。
双子も自分の大切なものを集めてアルビスの所に運んできて頑張ったのだ。
とくにエドワードがおまるを運んできたのはグッジョブだった。
これは気が付かなかった。
そうこうするうちに男爵軍が、全員村にたどり着いた。
アルビスの知覚した人数分は間違いなくいる。
つまりベアトリス達を追っていったものはいないということだ。
さらに男爵は村人を集めてこう宣言した。
『コンラート・エレウテリアが名誉の負傷、コンラートのもとを目指して大急ぎで出発した奥方たちが強行軍の反動で事故に会ってしまった。死者多数。
生存者は現在みんな治療中であり、どうなるかわからないがとりあえず自分がこの領地のことは面倒を見るからみんな協力して欲しい』
と。
村の人たちはなんてことだと嘆きながらもとりあえず協力する姿勢を示した。
首脳陣が全滅となると村の人たちも何をどうしていいのかわからないのだ。支持を出してくれる偉い人が任せておけと言えば安心する。
アルビスはクロノに偵察をさせてその様子を見ていて、まんまと村を乗っ取られたことに歯噛みをする思いだったが、逆にそれゆえに村人の虐殺などという事態にならなかったことにひとまずは胸をなでおろした。
そしてそのまま双子をつれて魔境の奥に、カゼコマで2時間ほど飛んだ場所に作った秘密基地に移動したのだった。
なぜかモップもついてきてしまったが…
さて、この秘密基地、内緒で魔境活動をするために作ったもので、川沿いの小さな滝の所にある大岩の内部をくり抜いて作った秘密の隠れ家だったりする。
川の上を移動し、せり出した岩の下側から潜り込むようにしないと入れない作りでまさに秘密基地。誰にも見つからない自信ありなのだった。
中は10畳ほどの部屋があって、一段上がったところに4畳半ほどの部屋がある。
4畳半、なんかロマンを感じるよね。
双子にとっても普段の遊び場だ。
そこに布団だの生活用品だのを出して環境を整えたらすでに夕方、双子はバタンキュー。
お昼寝もできなかったので仕方がない。
「眠そうな目をこすりながら、涙をこらえて頑張るこの子たちは偉かった」
『全くでありますな。よい子たちであります。
それ故にこれからどうするでありますか?』
「とりあえずレーン様という人を探そう。母様が随分頼りにしている感じだったし…手紙のやり取りとかもしていたみたいだから。
力になってくれるかもしれない」
アルビスはストレージの中の重要書類に思いをはせる。
これを持ちだしたのはそのレーン様の手掛かりを求めてのことだったのだ。
「あとはできることは調査だね。自分の調査? なにができるようになったのか、調べないといけないし、この子たちにも魔法の使い方を教えないといけないし」
『なるほど』とクロノは納得する。
だがそれは当面の最終目標だ。
生きていくには必要なものはいろいろあるのだ。
「となると冒険者かな。七歳から登録できるというし、冒険者になればお金は稼げるだろう」
できればアネモねえあたりと接触できるといいのだが、実は彼女がどこに住んでいるのかも知らなかったりする。
それにアルビスはまだ六歳、七歳まではもう少し時間がかかる。
あと四か月ぐらい。
「しばらくここに隠れて準備を整えて、七歳が近くなったら別の町に移動して冒険者になろう。
どうせなら大きな町がいいな。
どこがあるかな?」
『そうでありますな、この辺りで一番大きいのは、領都アイゼンでありますな』
クロノが精霊ウィキで調べてくれる。それがマップに反映された。
エレウテリアからは東に位置する大都市だ。
ここなら魔境を突っ切る形でたどり着くことができる。
魔境遊びはお手の物なので安全性が高いといえるだろう。
「ぼくがしっかりしないとね、エドとアーネは僕が護らないといけないんだ。
よし、決めた」
アルビスは腹をくくった。
そして宣言する。
「僕は自重をやめるぞーーーーーっ!」
決意表明だった。
「なーお(うるさい!)」
「あっ、ゴメン」
頑張れアルビス。




