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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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02-03 急展開~忠誠心~母の決意

第3話 急展開~忠誠心~母の決意



「アルビス、ここから動かないで!」


 毅然と顔を上げたベアトリスはそう言うと馬車の取っ手に手をかけて外に出ようとする。

 だがアルビスの魔識覚は状況を把握していた。


「母様、カフカ爺だよ。カフカ爺があの護衛の人たちを攻撃している。

 ケガしているよ」


 なぜわかるのか?

 とは、ベアトリスは聞かなかった。

 今までの生活の中でベアトリスもアルビスのことを『不思議な子』と感じている部分があったからだ。


 だから外に飛び出して、カフカが危ないというときにとっさに魔法で援護ができた。アイスバレットがカフカを後ろから切ろうとしていた騎士の顔面を捉えたのだ。


「あがっ!」


 悲鳴が上がる。

 一対一なら見知らぬ騎士よりカフカの方が腕が上だった。騎士はカフカに切り倒されて血しぶきを上げた。

 剛剣の一撃で半ば首がちぎれかけている。


(ひえーーー)


 ベアトリスに続いて外に出たアルビスはその光景を見てちょっと怯んだ。まあ、仕方ないよね。


 その間も事態は進む。


「奥様、御無事でございましたか」


「カフカ、いったい何が?」


「お家乗っ取りでございます。コンラート様をはじめうちの者たちは皆こいつらにだまし討ちに、魔獣の氾濫などどこにもなかったのでございます」


「ええっ?」


 はっきり言って意味がよくわからない。

 分からなかったが、どうやら何かの騒動に巻き込まれたらしい。


 ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!


 その時聞き慣れない笛の音が響いた。

 ベアトリスの魔法で転げていた騎士が吹いたものだ。


 カフカはすぐさま駆け寄りその騎士の胸に剣を突き入れる。


「死ね、外道!」

「ぐあっっっ!! このくたばりぞこないがぁぁぁぁぁっ…」


 それが彼の最後の言葉になった。

 そして周辺にざわめく気配をアルビスが捕らえる。


(進行方向に多数の人の反応? 笛の音で動き出した?)


 アルビスの魔識覚は正確に把握できるのは50メートルだが、うっすらパーとでよければ結構長距離が把握できる。

 このまま進んだ場合、あと10分もすればその集団と遭遇、いや、接敵することになったはずだ。

 その集団が魔法の明かりをいくつも掲げ、動き出していた。


「山狩りでもするつもりかの?」


 もう結構明るくなっているのに明かりを掲げるあたりそれっぽい。


「坊ちゃんも御無事でよかった。ここは儂がしんがりを務めますので、奥様達はお逃げください」


(すごいな、これが忠誠というやつか)


 カフカは結構怪我をしている。刀傷というやつだ。


(ここまであいつらとやり合いながら走って来たのか)


 忠誠なんて日本で暮らしていれば触れる機会なんてない。

 それはアルビスをして圧倒させる迫力があった。

 だからというわけではないが、アルビスはカフカに触れて全力で回復魔法を流し込んだ。


 アルビスの使い慣れたハイヒーリングは継続的に、そして観察しながら魔力を流すことでかなり正確に怪我や病気の治療が可能になる。


「おお、これは…坊ちゃんの祈りですかな。回復していきます。

 坊ちゃんは魔法の天才ですな」


 わははと笑うその姿が悲しい。

 でも…


「そういうわけにはいかないみたいよ、回り込もうとしているみたい」


 現在地は峠道、右は山、左は崖、街道は一本道だ。

 そして崖の下に広がる森を高速で移動する魔法の光。


「回り込むつもりですかな。森であの速度ではドーリーですかな」


 アルビスは敵の掲げる明かりが示威行動であると理解した。


(なるほど…こうやってこちらにプレッシャーをかけているのか…)


 アルビスの見るところ正面が10下が4だ。


(しかし、これは厳しいだろうか…)


 なんといっても大人と本気の戦闘などしたことがない。コンラートとの訓練を思い出せば簡単に勝てる相手とも思われない。

 さすがにどうしたらいいのか分からない。


「アルビス、エドとアーネを連れて森に隠れなさい。

 ユーゴは村に走って救援を呼んでください。街道を全速で駆ければマウマウの方が速い。

 エミルは子供達をお願い」


「奥様はどうなさるんですか?」


 とエミル。


「囲まれてしまっては逃げるのは無理です。ここでカフカとともに敵を殲滅します。

 それ以外に道はありません。

 時間を稼ぎながら戦って、ユーゴが救援を呼んでくればやり様はあります。

 フェリカは悪いけど付き合ってもらうわ」


「お任せください、嬢ちゃまがやんちゃしていたころは護衛をしていたんです。この程度のろくでなしに遅れなどとりませんよ」


 恰幅のいいおばちゃんがワハハと笑う。

 嬢ちゃまはやめてと苦笑するベアトリス。

 彼女はベアトリスが嫁に来た時についてきたメイドで、もともとはベアトリスが子供のころからの護衛だったようだ。


 カフカは『それしかありませんな。なに、これだけのメンバーであれば殲滅などたやすいたやすい』と笑って見せる。


「さあ、早く」


 アルビスとエミルは怖がって硬直する双子を抱き上げると山側の森に入っていく。木々がうっそうと生い茂る森であるからやり様はある。

 うまくすれば追っ手の目をくらませるかもしれない。


 ベアトリスはそれを確認するとマウマウの背中にまたがるとカフカとフェリカを従えて正面の人数が多い方に駆けていく。

 マウマウはちょうど四頭。一頭を御者のユーゴが乗って離脱したので残りは三頭。それぞれ馬にまたがってまずは前方の集団に。


 いくさの始まりだった。


◇・◇・◇・◇


「なんでこんなことに…」


 毅然として前を向くベアトリスだったが、やはり愚痴はこぼれてしまう。

 それに対する返事を期待したわけではないのだが…


「オリハルコンでございます。やつらオリハルコンに目がくらんで、オリハルコンが取れるだろうご領地を乗っ取ろうとしたのでございます」


 それがカフカが持ち帰った情報だった。


 コンラートは当然詳しい話などするはずもなく、敵が知っていたのは領内の川でオリハルコンが取れたということだけ。

 コンラートは事態を打開するためにダフニア男爵とその部下たちと戦ったが多勢に無勢。

 最終的にカフカと従者を二人ほど逃がすことができただけだった。


「壮絶なご最後でございました」


 その後、カフカたちは森を逃げまわり、従者たちの献身を受けて何とかカフカだけがここにたどり着いたというのが現状だった。


「領内に入られればアルビスがオリハルコンを見つけたことはばれてしまうわ。

 なんとしても子供たちを守らないと…」


 ベアトリスは即座にそう決断した。決意を固めると敵との接触が近づく。

 最大限に魔法を練り、射程距離に入り次第攻撃魔法を撃ち込んで敵を怯ませ、そこにカフカとフェリカが躍り込んで敵を切り捨てる。


「さすが奥義級の魔法使いでございますね」


「ありがとうフェリカ、まだまだ捨てたもんじゃないでしょ」


「おほほ」


 三対八だが奇襲が成功すれば十分に戦える数だ。

 最初の攻撃で三人を屠ることに成功して残りは五人。


 その五人もベアトリスの魔法援護と腕の立つカフカ、フェリカの二人と互角の戦いになっている。

 ただあくまでも互角だ。ただのチンピラとは違うようだった。


「くそ、笛を吹け、下に行ったやつを呼び戻せ!」


 この声にベアトリス達の額に焦りの汗が浮かぶ。

 現状は完全に互角。なんとか互角に持ち込んだのだ。これで後ろから同レベルの戦力が来れば苦戦は免れない。


 ベアトリス達が気合を入れ、圧力が増す。


「くそー、上に行ったやつらは何をしている。まだ子供を確保できんのか!!」


 そう、正面には10人いたはずなのだ。


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