02-02 双子の精霊~名づけ~緊急事態
第2話 双子の精霊~名づけ~緊急事態
「うーむ、とうとうその時が来てしまった…」
『来てしまったでありますな』
悩むアルビスの前に双子がお座りしてキラキラした目を向けている。
とうとう双子の精霊が誕生したのだ。
もちろん他人の精霊は見えないのでアルビスにはどんな子かわからない。
二人によると。
ディアーネ…『鳥さん。かわいいの。いい子なの』
エドワード…『ワンワンだよ、かっこいいの。ちっちゃいの』
最初の精霊は5cmぐらいだ。
これはクロノもそうだった。
なのでちっちゃいというのは分かった。
だが他のことが分からない。
にもかかわらず双子は名前をつけてとせがんできた。
『そう言うことはよくあることであります』
とクロノは言う。
たとえば魔法使い流派の中で精霊の誕生したときに、名前を付けて契約するわけだが、師匠から名前をもらうというのは結構普通であるというのだ。
これは自分の精霊が大成するようにという願いとともにそうするらしい。
(意味があるのか怪しいよね~)とアルビスなんかは思うのだが…
「しかし、確かに力ある名前を付けるのは良いことだと分かっているからな…」
神話や伝承にある名前を付けるのはありだと思う。
属性がはっきりしているのであれば精霊の名前とかもあるのだと思うのだが、二人の精霊は【力属性】だった。
『これは自然な成り行きであります。魔力修業で一番使っているのが力属性、無属性でありますから、普段使いまくっていた水属性よりも影響が大きかったのだと思われるであります』
それは考えてなかったアルビス君。
なんとなく魔力修行は精霊の属性決定から除外されるような気がしていたのだ。いや、そもそも気にしてすらいなかった。
最初水属性でないことにちょっと残念がった二人だが、アルビスが力属性がすごいということを話して聞かせるとすぐに浮上した。
アルビスも同じ属性を持ってますと言ったらテンションアゲアゲだった。
でそのまま名前を付けてほしい。という話になったのだが、名前といっても見えないものなのでイメージもつかみづらい。
しかも双子の説明だとよくわからない。
「ううーん、鳥で、かっこよくて、すごいやつ? フレスベルグとか?」
そう言った瞬間ディアーネがまぶしそうな反応をした。
『あっ、名前、決まってしまったでありますね』
いいのかそれで!
フレスベルグというのは北欧神話に出てくる大鷲で、ユグドラシルのてっぺんに住み、その翼から風が生まれるといわれる鳥だ。
「お前はベルちゃんだよ」
うん、フレスベルグの中にはベルがある。しかし端折るとか…うん、まあいいか。
「にいちゃま、ぼくも、ぼくも~」
エドワードがキラキラして目で見つめてくる。
アルビスはあきらめた。
「まあ、ここまで来たら神話つながりでフェンリルだね」
「わあ、リル君だ」
というわけでエドワードの精霊はフェンリルになった。
有名どころの幻獣だね。
ちなみに名前が付いてからでなんだがフレスベルグは5cmほどの白くてフワフワの小鳥で、シマエナガとか近い。ふわふわだ。
フェンリルは普通にむっちゃ可愛い子犬だったりする。大きさはやっぱり5cm。精霊の最初はそんなものらしい。モフモフまん丸の子犬だ。
名前と本体のイメージがちょっと重ならないが、その事実を認識できるものが一人もいないので当然そのまま流された。
かくして家族にベルちゃんとリル君が加わったのだった。
さて、そうなるとベアトリスにどう説明するか。
精霊が来たことはアルビスも内緒にしているし、双子はいかにも早い、早すぎる。
だが双子にそれを人に知られてはいけない。と言ってもたぶん意味がない。
『わかったー。内緒だねー』
とか言いながらクスクス楽しそうに秘密をばらすに違いないのだ。
唯一の救いが今の時間。もう結構遅いのだ。
「よし、後回しにしよう、明日の苦労は明日の俺に投げる」
ダメな人の発想だが、本気ではなく現実逃避だ。なんも思いつかなかったから。
アルビスは双子を抱きかかえて眠りについた。
悩んでいても眠れるのはいいことだよね。
しかし、その眠りは途中で中断させられた。
「アルビス、起きて、お父様が!」
夜明け近くにベアトリスが飛び込んできたのだ。
◇・◇・◇・◇
アルビスは自分にハイ・ヒーリングをかけて体調を整える。寝不足感がすっきりしてコンディション・グリーンだ。
メイドさんたちがぐずる双子を抱き上げて支度をさせている。
これからお出かけなので着替えないわけにはいかない。
まだまだ明け方は寒いのだ。もこもこが可愛い。
でもやっぱり耐えられなくて寝てしまった。
(まあ、仕方ない、精霊騒ぎで夕べは遅かったから)
子供には良い睡眠が必要だ。と思うアルビスは双子を無理に起こしたりはしないのだ。メイドさんたちに抱いて連れていくように指示する。
(起きたら魔法をかけてあげよう)
そのぐらい。
しかし自分は例外。
食費を削っても、睡眠時間を削っても趣味に手は抜かない。それが充実だからいいのだ。
アルビスはそういう子。しかも今は魔法でフォローできるからなお問題なし。
あわただしく支度を終えるとベアトリスに連れられて馬車に乗り込んだ。
メンバーはベアトリス、双子。アルビス。メイドが二人。そして御者の人だ。
他に見慣れない男が二人いた。
「お急ぎください、あまり時間はないかもしれません」
男二人は騎士らしくしっかりした鎧を着て馬を連れている。地球の馬とちょっと違って足が太くて毛が長く、頭に角が生えている。羊みたいな角だ。馬という魔獣だった。
二人は護衛をさせていただくと宣う。
現在村には自警団しか残っていない。コンラートもベアトリスも留守にするという現状では自前の護衛は連れていけない。
だがアルビスはわずかな違和感を感じる。
(うーん、なんだろこれ…)
騎士二人の先導で馬車が発進した。
その中でベアトリスが状況を説明してくれる。
「え? 父様が?」
「そうなの、討伐の途中で魔物に不覚を取って大怪我をしたって…
今…」
そこまで言うとベアトリスは肩を落としてうつむいた。
その様子からかなり悪いというのは理解できた。
そしてそうであるならばこの状況も腑に落ちる。
今際の際にせめて一目…ということだろう。それにベアトリスは回復魔法の使い手だ。自分がいればという気持ちもあるのかもしれない。
そして…
(うん、生きてさえいればどうにかなる。生命の繭ならばそれで助かるはず…)
アルビスにも手段はあった。
そうなれば問題は間に合うかどうか。
空は白々としてきて馬車が走るのに支障はないぐらいになってきた。ならばあとは馬がどれほど頑張れるか。
(いや、そもそも俺が飛んで行った方が速いんじゃ…あっ、場所が分からん)
場所どころか周辺の情報が全くない。
(道案内に誰か連れて飛ぶか?
いや無理だし、あんなごついの抱えていたら飛べないし…
お母ちゃんぐらいなら何とかなるかな?
しかしチビたちを置いていくのも不安だよ…)
思考がぐるぐる。
一応確認してみたらコンラートは討伐軍の天幕にいるという。
(ダメだ、それじゃお母ちゃんでも場所が…)
さすがにどうしたらいいか分からなくなって…
『とまーれーーーーーーっ、その馬車とまれーーーーーーーーっ』
ひひーんっ!
がたがた。
馬車が急停止した。激しく揺れる馬車。
アルビスは隠者の手で乗員全員(ついでに御者)をやんわりと支えて外に意識を向ける。
(あれ、あの声って…)
その声は…




