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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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02-01 春~双子の魔法~父の剣術

第1話 春~双子の魔法~父の剣術



「きゃははははっ、こっちこっちー」

「わーいもっとー、えーいなのー」


 アルビスの目の前で双子が元気に遊んでいる。

 季節は春。雪も溶け始め、温かい日差しが降りそそぐようになった。


 その庭でみんなで雪かき。


 普通はスコップで屋根の雪をおろして村の中を流れる小川に放り込むというのが本来のやり方なのだが、双子は水鉄砲(ちょっとお湯なの)をポンポン撃って雪を崩している。

 魔法で作った水の玉を飛ばす遊びに使う弱い威力の魔法だ。

 アルビスが遊び用に考案した。


(ほんとこの世界って魔法にゆとりがないんだよ、実用的なことにしか使わないの。もっと遊びがないと発展しないと思う)


 なんてなことを思いながら。


 このころになると気温がマイナスになるような事もないのでこの方法は有効だった。寒い時期はダメだよ、結局氷になってかえって危ないから。

 あっ、魔法の水だから大丈夫なのか。でも寒いと寒さに負けるから結局ダメ。


 そして双子の脇でアルビスとベアトリスは双子と同じようにお湯玉鉄砲を使って雪にお湯を撃ち込んでいる。それで雪が溶けて落ちてくるのだ。

 ということはだ。


 はい、双子の魔法がばれました。


(まあ、仕方ないよ…まだ幼児だもん)


 春になって四歳になったが、四歳の幼児に秘密を守りなさいなんて不可能なのだよ。

 むしろくすくす喜びながら秘密を漏らそうとする。内緒だよとか言いながら。

 耳打ちしている時点ですでに内緒ではない。うん。


 アルビスとクロノが頑張ってフォローしていたのだが無理でした。


 というわけでベアトリスは再び狂喜乱舞することになった。


『うちの子供達はみんな天才だわ…』


 感極まって涙まで流したりしてさらに大騒ぎ。

 アルビスは頭が痛かったのだが…


(お風呂に入れるようになったからいいか?)


 と切り替えた。

 水魔法使いが三人いれば子供用の浴槽(大盥)をお湯で満たすことぐらいはできる。

 まあ、アルビス一人で完璧にできるのだが、表向きは子供たちの魔法の練習のため。ということで毎晩お風呂が用意されるようになったのだ。


 ほんのり幸せになれたので細かいことは気にしないことにした。


 この辺りはサウナなんだよね。


 ただ精霊のことはまだばれていない。双子の精霊もまだ卵であるし、ハム神様の仕事でおでこに張り付いているが精霊は他の人には見えないから大丈夫なのだ。

 ベアトリスの精霊、フルクトスなら分かるのかもしれないがそういうのを公表するのは神様によって禁止されているそうで、ばれる心配はないとクロノは太鼓判を押した。


(でも、いずれ精霊が孵ればあの二人が秘密にできるなんて…絶対無理だね、確信がある)


 多分その通りだ。

 卵が孵ればばれるだろう。


(まあ、そん時ゃそん時か)


 アルビスはスキル「開き直り」を覚えた(笑)。


 他に魔法関係の話としてはアルビスの四つ目の属性。

 これは…まだ来てない。


『三つ目までは結構いけるでありますよ。四つ目が難しいであります。

 昔も魔法使いは四つ属性を持つ者から極端に少なくなったであります』


 そういうものらしい。

 何らかのブレイクスルーというか悟りのようなものが必要なのではないか?

 とクロノは言う。


 そして精霊武器もまだ完成しない。

 これもまだ卵の状態だ。


『こんなに長い間精霊武器が完成しないというのも聞いたことがないであります。

 原因もわからないであります。

 ただ過去の類例がないわけではない…というような話も聞かないこともないようでありますので、おそらくこれも何か条件があって、それが神様の定めた秘匿事項に該当するのだと思うであります』


 つまりその答えは自分で見つけないといけないということなのだ。

 こういうことは結構あって、それは神様から人間への期待の表れと言われている。らしい。精霊界隈で。うん。


 だが、物事は結構順調に推移していく。

 春なので当然狩猟大会もあったが今年の狩猟大会はなんの波乱もなく終了した。


 以前にこの辺りのフィールドボス(ヴェノムゲーター)が討伐された影響で、この辺りの魔物が全体的におとなしくなっているのだ。と、コンラートは言っていた。

 ボスが新たに誕生して安定するまで、数年は穏やかな日々が続くと考えられるそうだ。


 なのでコンラートは暇になったらしい。

 暇になると子供を構いたくなるらしい。

 というわけでアルビスは剣術の訓練に駆り出された。


「よいかアルビス、よく見ておくんだ。これは以前教えたものの応用だ。実戦的な使い方というやつだな」


 そう言うとコンラートの姿がしゅっと消えた。

 いや、アルビスには見えていたけど、普通の人には消えたと思われるほどに速い動きだったのではないだろうか。


 次の瞬間、コンラートはアルビスの真後ろに立っていて、チョンとつむじを突っついて見せた。

 気が付いていたが振り向かなかったアルビスグッジョブ。もし振り向いていたら不自然だっただろう。

 まあ、振り向かなくても魔識覚で見えていたので必要もなかったのだが。

 だがつつかれれば振り向く。


 振り向くアルビスの死角を滑るように移動したコンラートはまた素早く動いて今度は元の位置に。アルビスが一回転してそちらを向くとコンラートはそこで鋭く剣を振ってみせた。


(つまり相手に知覚されないほど速く動いて剣の一撃を撃ち込むということ? うーんでもなんか変だな…それだけでもないような?)


 かと思うとコンラートは一緒に見ていた騎士に攻撃を命じる。


(カフカ爺も大変だなあ…)


 なんて思う。

 カフカ爺というのはエレウテリア家の年配の騎士で、コンラートの下の騎士爵という位の人だった。

 名前はカフカさん。

 なんでも代々エレウテリアの家に仕えている譜代の家臣だという。


 エレウテリア準男爵領には騎士さんが二人いて、まあ、二人とも苦労人だな。とアルビスは思っている。それほど仕事熱心だ。そのくせ自分や双子ともよく遊んでくれる人で、アルビスは親愛の情を込めてカフカ爺と呼んでいる。


 そのカフカはいわれたとおりにコンラートに切りかかる。カフカの攻撃は豪剣で、大きな両手持ちの大剣をブオンブオンと振り回してコンラートに切りかかる。さすがの腕前。『危ない父ちゃん』とか思ったがそんなことは全然なく、コンラートはまるで風に舞う羽のように、舞い踊る羽毛を手で掴もうとするときのようにふわりするりとすり抜け、気が付けばカフカに剣を突き付けていた。


「おおーーーーーっ」ぱちぱち。


 思わず拍手。そして聞いてみる。


「父様は魔法使い?」


 そう疑いたくなるほどの見事な動きだった。


「わはは、いや違うぞ。これは修練による技術だ」


「あと武器(ドス)の力でもありますな」


 コンラートとカフカは語る。

 この世界は魔法使いでない人も魔法を使う。生活魔法とかだ。

 だが他にもほとんどの人間が使う魔法がある。

 それが身体強化魔法。


 いや、魔法といっていいのかちょっと疑問があるレベルの話だ。


 すべての生き物が魔力を持っていて、魔力は意思に反応するわけだ。

 その状況でもし人が『ふんすっ』と力んだらどうなるのか。

 当然弱いながら魔力的な助けで身体能力が上がったりするのだ。


 これが俗に身体強化魔法と呼ばれるものだったりする。


 気合いだろ? とか、気功じゃね? とか言う意見は謹んで承っておくが、魔力でパワーアップするのだから魔法なのである。


 コンラートのような魔戦士はそれを鍛えぬいた人であり、才能もあったりするが、イメージとしては、漫画の中の武術の達人のような感じだと思ってもらえるといいだろう。


 もちろん技術との組み合わせであるのでコンラートのようなトリッキーな動きで相手を惑わしたり認識を掻い潜ったりするタイプとか、カフカのようにひたすらパワーとスピードを突き詰めたタイプとかいるのだ。


「アルビスは魔法の才能があるからな、魔法使いになるんだろう。だが普通の人だって負けていないのだ。修業でこんなことができるようになるのだよ。

 それに魔法使いは強いが万能ではない。詠唱が必要だということは隙があるということでもある。

 私は魔法使いも身体を鍛えることは必要だと思っているよ」


 そう言ってコンラートは力こぶを作ってみせた。


 魔法使いのアドバンテージは魔力量の多さだ。それは魔戦士とは一線を画する。


 だが実際戦うと魔法使いが必ずしも有利というわけではない。


 それはコンラートが言うように魔法使いが必ず詠唱をするということ。

 大火力とか、射程距離とかだと魔法の方が有利なのだけど、人間を殺すのに大砲はいらないのだ。

 ナイフでプス! で人間は殺せるのである。


 おまけに魔法使いって魔法の練習はしても身体を鍛えたりはあまりしないんだよね。まあ、魔法が難しくて魔法の研鑽に全力を傾けている。ということもあるのだけど。


 なのでコンラートクラスになるとレベルⅡの精霊を持つベアトリスにだってひけは取らないのだ。理論上は。

 現実に喧嘩をすると必ずベアトリスが勝つわけだけど。それは戦闘力とは違う力関係のなせる業である。


 あとd‐ossドスと呼ばれる魔導武器もある。


 この世界で広く使われる武器の総称で、剣だけではなく槍や斧、盾なんかもそう言うのだが、魔法陣を組み込んだ魔法的な武器だ。


 使用者の魔力を《《勝手》》に使って攻撃力の強化とか、重さの調整とかをする魔法が仕込まれているのだ。

 高度なものになると攻撃を飛ばせる飛斬とか、剣に高熱や低温を付与したりする属性剣とか、そういった能力が付いた物もある。


 なので精霊レベルⅡぐらいなら魔剣士とまあ、とんとんといった感じになるのではないだろうか。

 その先は達人の領域でよくわからんのである。


(なるほど、結局は魔法もいろいろある手段の一つということだね)


「じゃあ魔法使いの人が父様みたいに修業したら?」


「そう、私が言うのはそこなんだ。

 ただ魔法と言うのも難しくてね…」


 コンラートだってひたすら体を鍛えてきた。技を磨いてきた。だから魔法使いに比肩する能力を得た。

 逆に言えば魔法使いも勉強に邁進し、ひたすら魔法の修行をするから高みに登れるのだ。

 つまり、両立は難しい。という感じになる。


「そうですな、どちらの修行も片手間にできるものではないですし、激しく動きながら魔法を使うのも難しいことなんです。

 なのでぼっちゃんみたいに魔法の才能があれば魔法使いに、それがなければ武術に邁進するというのが正しい姿ではありますな」


「だがまあ、余裕の範囲で身体を鍛えることは無駄にはならん。

 筋肉は素晴らしいのだ。」


 あれもこれもとやれば中途半端になるということだ。

 だがアルビスはまだ子供。のびのびと体を育てるのがいい年ごろだ。

 なのでコンラートはアルビスに剣術を教える。きっと役に立つと信じて。


 というのが分かったのでアルビスはコンラートやカフカを注意深く観察した。

 実際にd‐ossを使っているのを見るのは初めてなのだ。


(うーん、父ちゃんの魔力が武器に流れて、そこから魔力の膜みたいなものが剣全体に広がっているなあ。

 他にも、なんか魔法陣があるみたい、でも常時発動しているのは一つかな? 二つ?)


 注意深く観察し、その魔法陣すらも記憶していく。

 コンラートのd‐ossから走る魔力は剣に強靭さと、切断力を付与しているように見えた。


 カフカの武器はやはり刀身の強化があり、それと同時に質量に干渉しているように見える。


 ふるうものには軽く、受ける者には重く。アルビスは知らないが『重量偏差』という魔法だったりする。


(どうやらこの世界って単に中世的と言うわけじゃなくて、魔法文明として地球とは別の方向に進歩してるんだね…

 ものすごく面白いよ)


 きっと知らないこと、吃驚することが沢山あるのだ。そう思うとわくわくが止まらないアルビスだったりする。


 ◇・◇・◇・◇


 そんなある日。


「ダフニア男爵からですか?」


「そうだ、何でもレアスビー準男爵領で大規模な魔物の繁殖を確認したらしい。討伐隊を組むので参加しろと言ってきた」


「なんて身勝手な。こちらの要請は無視したのに」


「レアスビー準男爵はダフニア卿の弟だからな。身内はかわいいということか…全く」


 届いた指示書にコンラートとベアトリスは開いた口が塞がらない思いだった。


「上への意見書はどうだったんですか?」


「そちらもなしのつぶてだ。アグニア子爵も良い噂はきかんからな…」


 アグニア子爵というのはさらに上の上司だ。


 この辺りの準男爵領いくつかを統括しているのが男爵で、男爵数名を統括しているのがアグニア子爵だ。


 子爵は四人いて、その上に辺境伯がいる。

 辺境伯がこの地方のトップだね。

 その上はこの王国の王様ということになる。

 つまり階層構造の貴族社会だ。


 なので諸々の苦情はその子爵様に言うことになるのだが、これもまた役に立たない。糠に釘。

 まあ、大きな実害もないというのもこの状況が継続している理由ではあるのだが…


「ですが今度はいい機会かもしれませんね。レーン様に会ったらお話ししてみましょう。改革が必要ならできるときにするべきでしょう」


「ふむ、やむを得んか…私利私欲で動くようでは…」


 堅物のコンラートでもそう思うような話だ。


「それでどうなさいますの?」


「まあ、呼ばれればいかんわけにもいかん。この辺りを治めるのに協力するというのは建前だからな。それにそれほど状況が悪いという可能性もある。

 とっとと言って片付けてくるさ。

 幸い、うちの森は今大人しい。余裕があるからな」


 コンラートの言葉にベアトリスは苦笑した。


「わかりました、気を付けていってらしてください」


「うむ、留守を頼んだぞ」


 そうしてコンラートと二人の騎士、そして従者六名が魔物の氾濫に対応するために領外に旅立っていった。それが始まりだった。


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