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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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01-24 暗雲

第24話 暗雲



「今年は良い年でしたね」


 暖炉で温まりながら一家でそろってお茶をする。

 ここで言う一家というのはメイドも含まれている。何といっても小さな貴族家だ。

 子供がまだ小さいというので抱っこしている人が必要というのもある。


 そんなベアトリスの言葉を受けてコンラートは〝うむ〟とうなずく。


「これも日ごろの信心のおかげだな。

 まさか小神様に導かれて塩の鉱脈を見つけられようとは」


 変なことを言っているようだが真実はベアトリスの隣に座って変な笑いを浮かべているアルビスのせいだったりする。


 森を焼き、慌てて周囲を爆破したときに川から少しだけ離れた斜面に白く輝くものを見つけたのだ。

 それを確認したらなんと塩の結晶で出来た岩だった。岩塩である。

 そして魔識覚で出来るだけ深くまで探ってみたらそこからずっと奥まで岩塩が続いていて、ある程度の深さから広大な岩塩の層が広がっていることがわかったのだ。

 つまり塩鉱脈。


 日本で暮らしていると塩というのは海のもののような感じがするが実は地球規模でみると塩というのは岩塩というのが常識だったりする。

 世界中で使われる塩の7割が岩塩なのだ。海塩は実は少数派。


 アルビスが暮らすこの国も塩は岩塩頼みで、実はその多くを輸入に頼っている。産出はするが全体を賄えるほどではない。

 そこで見つかった巨大な塩の鉱脈。これがどれほどの価値を生むのか計り知れないのだ。人間は塩がなくては生きていけないのだから。

 その利益はオリハルコンどころの話じゃないのだ。


 アルビスは考えた。

 これは領地のためにぜひ利用せねば。

 と。


 しかしアルビスが大人を案内してここに塩があるよ、と言ったところで不自然さ大爆発である。

 そして子供の言うことだ。その下に岩塩の鉱脈があるとは思われない可能性が高い。


「でも小神様ならどうだろう?」


 もし小神様が人間を案内し、岩塩を見せつけたら?

 人間は『神の恵み』『この下に岩塩の層があるに違いない』『これを成すのは俺の使命』そういうことになる可能性が高い。

 迷信深いというのは別の側面を見れば信心深いということなのである。


 そして森の煙が見えたのだろう。

 人が集まる気配がした。


 アルビスは変装を敢行した。

 今まで取った獲物の毛皮や昆布みたいな草を集め。身に纏い、もちろん隠者の手で固定し、なんかよく分からない見た目を作る。

 石や木を合わせて愛嬌のある顔に見えるものを形にする。

 どことなくバリ島の聖獣バロンに似た感じになった。


「うん、あれは善の象徴だからいい感じだ」


 アルビスはそこに立ってゆらゆらと揺れながら集まってくる人を待つ。

 果たして現れたのはコンラートだった。


(あー…今日も狩りか…頑張れ父ちゃん)


 そのコンラートはバロン(アルビス)と遭遇するなり剣を抜いた。


(げげっ、あー、やっぱり見たことのない魔物に見えるか…やっぱりここは喋るべきだな)


 魔物と他の精霊や神獣との差は言葉を使うかどうか。

 そういう認識がある。

 しゃべるのなら魔物、魔獣の類ではない。まあ、一般的にそんな感じになっている。


『コヨ…コチラニコヨ…』


「しゃべった?」


「これは小神様か?」


 コンラートと従者二人の動きが止まる。


(おおっ、やった。さすがにいきなり切りかかられてはたまらないものね)


 アルビスは作戦が奏功したのに気をよくしてコンラートを岩塩の所まで案内する。


『ホレ、ココホレ、ワンワン』


 いや、ワンワンはいらないだろう。


 だがまあ、こっちの人には分からないからセーフ。

 アルビスはあとのことには構わずにカゼコマに乗って空にのぼり、そのまま姿を消したのだった。


 そして、話が現在につながる。

 調べた結果、そこには大量の岩塩があって、もちろんコンラートたちにはそれが鉱脈と呼べるレベルだとはわからなかったが、かなりの量であることは推測できる。

 もし、岩塩が鉱山と呼べるほどに掘り出せればこの領の利益は測り知れない。国全体としても。


「でも実際に動けるのは春になってからですね。雪が降るとさすがに無理ですから」


「そうだな、それまでに準備を進めておいて、春になったら一気に動こう」


 コンラートたちは満面の笑みだった。


 ちなみにアルビスの変装した『バロンもどき』は村に像が立てられたりした。

 小神様として感謝を捧げるためである。

 ついたあだ名が『ワンワン王』様。


 アルビスが人知れずのたうち回ったのは言うまでもない。


「やーめーてーーーーーーっ」


 とか言って。

 でもしっかりバロンのお面や被り物を築城の魔法などを駆使して作っておく辺り、気に入ったのかもしれない。


◇・◇・◇・◇


 そのころ、ここではないどこか。


 偉そうでいて貧相な男が出来のいいソファーにふんぞり返って部下の報告を受けた。


「何だと? オリハルコンだと?」


「はい、酒場のうわさですが間違いなく。なかなかの量だったと、どうも冒険者の間で噂になっているようです」


「その冒険者が発見したというのか、であれば、何とかして…」


「いえ、そうではないようです。先日魔物の討伐依頼が出され、その報酬として渡されたものであるとか。

 話をしていたものによると条件は妥当なところだったようなのですが辺鄙な地でうまみがないと考えて無視したそうです。

 話の趣旨としては『ああ、俺がその話を受けていれば…』というような流れですな。

 負け犬の遠吠えの類です。

 ですがそれだけに信憑性はあります」


 部下の報告を受けた貧相マンはにやりと笑った。


「それだけではないのだろう? それだけであれば私の所まで話を持ってくる必要もない」


「はい、御明察の通りでございます」


 ザ・太鼓持ちマン。


「この依頼を出したのがエレウテリア準男爵領なのです」


「あー、どこかで聞いたような」


「男爵様の配下でありますぞ」


「そ、そんなことは分かっとる。しばらく前に強力な魔物の出現を報告してきたやつだ。

 儲けにもならんと無視したが…」


 貧相男爵は記憶をたどるようにしてそれだけを思い出した。


「はい、さようでございます。

 その時の報酬に用意されたのがオリハルコンでございました。

 エレウテリア準男爵は若い頃冒険者として国中を渡り歩いた猛者、オリハルコンを持っていたとしても不思議はございません。

 ございませんのですが…」


「何じゃ、何が言いたい」


「はい、行商人の話として村の人間が魔境の川に入って何かを探しているのを見たと…

 この話を総合いたしますと…」


「なるほど、あの領地から近い魔境でオリハルコンが見つかったか…

 ふむふむ、実に興味深い話ではないか。

 ビルコン、その話をもう少し詳しく調べるがいい。

 我が家を大きく発展させるかもしれんぞ」


 男爵に言われて男は優雅に(本人的に)ほくそ笑んだ。

 傍から見るとどうしても卑屈なんだけど。


 この日ダフニア・アポビーダ男爵は自分の死刑執行書にサインをした。

 もちろん自分では気づかなかったけれど。


 巨悪ではなくても周囲に不幸しかもたらさない人間というのは確かにいるのだ。


第1章 完


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