01-23 水魔法~双子の成長~失敗魔法
第23話 水魔法~双子の成長~失敗魔法
ベアトリスの説明によると水魔法というのもいろいろあるようだ。
そしてそのすべてを一度に教えてもらおうなんて愚の骨頂。論外。相手にしてもらえるはずがない。
(うん、知ってた)
それでも。
「水魔法でどんなことができるのかは知りたいです」
アルビスしゅぴっと元気よく手を上げておねだり。とりあえず基本的なところを解説してもらった。
まず最も基本となるのが当然水を呼び出す魔法。
これは魔法で作った疑似的な水だ。水のフリをしている魔力といってもいい。
なので飲むことはできない。飲んでも意味がない。
だが水として機能するので洗濯とか消火とか利用の幅は大きい。
それが【ウォタ】の魔法。名前が世界に登録されているのでウォタである。
さらに水を撃ち出す【ウォターショット】、周囲に霧を漂わせて水の属性を強くし、特に火の属性を弱める【ミスト】。
これは水属性の権能【創水】と合わせることで常時回復の霧とか穢れを払う霧とか応用の幅が広い。
さらに魔力の水を霧状にして利用する【クリーン】がある。清潔魔法ね。
あとは当然、回復魔法である【アクアヒール】状態回復魔法である【アクアキュア】。
応用編として水を氷の状態にして撃ちだす【アイスバレット】 氷を盾として物理的な攻撃を受ける【アイスシールド】などを教えてもらった。
「あくまでも参考ね。水神流錬成医法門の水魔法の本質は水の精霊と契約してからが本番で、精霊の創水がとても重要な役割を果たしているの。
アルビスが水魔法を覚えたのはすごいけど、がんばって精霊と契約できるようにならないとね…」
水魔法の水は疑似的な水だが精霊の権能で作った水は本当の水なので精霊が来てからが水魔法の本番といわれるのだ。
ちなみに生活魔法の『水』は周辺にある水けを集める魔法。だからこの水は言ってみれば蒸留水。飲めるし消えないのだ。
(あははーーっ、聖霊いますがな)
ちょっと申し訳ない気分になんとなく、ちょっと。うん。
まあ、なんにせよこれで水魔法をいくつか知ることができた。
(これをディアーネとエドワードに教えて、出来るだけ使うようにすれば…)
きっと二人の希望はかなって水属性を得られるだろう。とアルビスは考えた。
翌日からアルビスは双子と遊ぶときに魔法の練習を始めた。
◇・◇・◇・◇
とはいっても十分な時間は取れない。
昼間の昼寝の時間はアルビスはベアトリスから魔法の訓練を受けているからだ。
季節は冬。水冷たい。
水冷たいのに傍らに冷水を置いてそれを感じながら魔法の練習。
(きついわー、まじきついわー)
しかもアルビスはハイヒーリングのせいで風邪とか引かないのだ。風邪でも引けば休めるのに。
「うちの子丈夫に育ってくれてよかったわー」
いやいや、それ以前の問題だよと突っ込みを入れたくなるアルビスだった。
そして寝る前に少し双子に水魔法を教えるわけだ。
まずは基本の【ウォタ】から。
アルビスが魔力を水に変換してみせる。そこらへん水浸し。だが魔力の水はすぐに消えるから問題なし。
だがなかなか最初はうまくいかなかった。
なのでアルビスは考えた。
(やってみせ、言って聞かせて、させてみせ…だったよね)
双子を一人ずつ膝に抱えて、魔力修業をしつつ、手を重ねて実際に水を作って見せる。飛ばせて見せる。
「できたー」
「できたのー」
うん、やっているのはアルビスなんだけどな。
だが魔法の感触は伝わった。そしてイメージも、そして本人ができると信じ込んだ。
結果できるようになってしまった。
二人して小さな水の玉を作り出し、それをポンポン飛ばし合って遊ぶ双子。
「こ…この二人は天才ではないだろうか!」
はい、兄バカ。
ただ問題は魔力水で濡れて乾いたところが妙にきれいになるところ。
(なるほど、クリーンはこの性質を利用しているのか…)
あまり続くと目に付くようになる。
アルビスは遊び終わったあと、双子と部屋中に【クリーン】をかけてきれいにする日課ができてしまった。
◇・◇・◇・◇
ある日のメイドさん。
「この部屋って妙にきれいじゃないですか?」
「そう、うーん、どこか色あせたような?」
きれいになりすぎたかもしれない。
◇・◇・◇・◇
「さてと…どうしようかな?」
その日アルビスは悩んでいた。
理由は当然魔法である。
今日は珍しく自由時間だ。
ベアトリスが忙しいとそういうこともある。完全オフである。
そして魔法の研究をする。
「水魔法は分かる。土魔法も分かる。風も分かる。でも火が分からない」
物を燃やすというのは分かるのだ。火をつける方法なんていくらでもある。
例えば大気をどこまでも圧縮してやればプラズマ化するし、太陽光を集めても火をつけられる。
もっと直接的にと言えば熱運動を利用してやれば簡単なのだ。
物質というのはミクロの世界では常に細かく振動している。鉄の塊でも氷でもだ。
そしてこの微細な振動こそが熱の正体。熱とは分子運動の運動エネルギーを言うのだ。
エネルギー属性の魔法でこれに干渉してやれば物を燃やすのはたやすい。
電子レンジなんかの理屈だね。
ただこれは物を加熱する魔法であって、火を顕現させる魔法じゃない。
「火ってのはさ、燃えるものがあって、酸素があって、熱があれば発生するわけでさ、でも火魔法っていきなり火を出現させているだろ?
あれってなにって思うんだよね」
『何と言われても吾輩も困るでありますよ~』
そう、アルビスはなまじ知識があるから実体のない、燃えるものなどの理屈がない『火』をいきなり創り出すことができなかったりする。
もっと言えば火というのは『プラズマ』なので、プラズマを作ることは出来たりする。プラズマは理解できるのだ。
なんだかなあ。
「やっぱりこういうときは近代兵器だな」
ファイアボールがなかったら火炎放射器を使えばいいじゃない。という有名そうで実はとんでも発想に至ってしまったアルビス。
火炎放射器というのは分かる。あれは火を吹きだすものではなく、理屈としては水鉄砲だ。
可燃性の燃料を勢いよく放射して、それに火をつける。これが火炎放射器。
つまり可燃性の燃料をイメージできればそれでいいのだ。
それって火魔法なのか甚だ疑問ではあるが。そこは考えない、うん、考えない。
「確かあれって粘性が高くて、吹き付けられると張り付いて取れなくなって、しかも酸素がなくても燃え続ける燃料だったよね」
そう言うのがあるのである。
だが幸いというかアルビスもそんな特殊な燃料の構造は理解していなかった。
だが誰でも灯油ぐらいは知っている。灯油はとても燃焼力の高い油なのだ。そしてサラサラして扱いやすく、一度つくとなかなか剥がれない。
「よし、行け!」
どうしてもこの手の魔法が銃器の形になってしまうのは染みついた文明の残り香というものだろうか。
銃を握るようにして突き出された手の先からごうごうと炎の蛇が踊りだした。
その勢いはすさまじく、また元が魔力なのでイメージ補正も加わり、およそ30メートルにわたって延びる炎の舌。
そしてアルビスはうっかりさん。ここは森の中だった。
いや、一応安全を考えて川の近くでやってはいたのだ。だが予想以上に勢いが良すぎた。
数メートルの川幅を飛び越え、ずっと先まで伸びる炎。
炎ではあるが元は油である。
油が木々に、下生えに降り注ぎ、それが燃え上がる。
大惨事であった。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
もう少し考えろといいたい。
そこからは必死だった。
酸素から酸素分子を取り除いて酸欠状態を作り出したらイメージのせいかそれでも燃料は熱を発しつづける。どうもイメージが作用してしまったらしい。
灯油に似たものではあるのだが、どうもそれだけではない燃料ができてしまったようだ。
これではあかんと今度は熱運動を低下させて温度を下げて延焼を防ぎ、さらに消火にいいものということで周りを爆破して消火を試みる。
爆風で火を消すというのは結構合理的なのだ。
かくしてアルビスは森林火災を何とか食い止めることに成功したのだった。
環境破壊と引き換えに。
「ううう、大失敗魔法でござる~っ」
『あははーであります』
思わずハム神様を思い出してしまうぐらいに動揺した。
「まっ、まあ、火魔法は出来たということで、一個でもできればそれでいいよね…あれ?」
爆破でむき出しになった斜面にきらりと光る何か…なんだべ?
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現在11月、アルビス6歳2か月。双子3歳10か月




