01-21 日常~魔法金属~双子の魔法
第21話 日常~魔法金属~双子の魔法
太陽の牙傭兵団が帰っていって日常が戻ってきた。
本当に日常というやつはあっという間に帰ってくる。『お姉ちゃんたちいなくなって寂しいね』などと話が出たのも最初の二日ほどだった。これはアルビスがというよりベアトリスが少しばかりの寂寥感を感じていたということだろう。
だが平穏な日々はあっという間に飛び去り、10月なのでアルビスはすでに6歳である。
そして10月と言えば収穫の時期。
村人たちはヴェノムゲーターのせいで出来なかった仕事に精を出し、冬を乗り切るための準備に余念がない。
それはつまり、川から人がいなくなるということを意味しているのだ。
「やった。オリハルコン探しを再開できる」
うん、頑張れ。
最近は村人のオリハルコン探しも落ち着いてきていたのだけど、まあ、村の近くの川だけでは当然大した収穫もないのだが、それでも多少の金を見つけた人はいたようだ。
だが砂金と違い、石に溶け込んだような状態でみつかる金で、それを取りだすにはかなりの手間がかかるし、そういうことができる錬金術師に依頼をすれば依頼料の方が高くなるようなものがほとんどだった。
それが頑張った村人たちの成果。
そう言った村人たちはそう言った石を持ち帰って『ひょっとしたらこの奥にオリハルコンがあるかもしんねえだ』『ひょっとしたらこれでちょっとした小金持ちになれるかもしれねえだ』といってその石を後生大事にしまったり飾ったりしている。
良い記念かもしれない。
アルビスの目的が違うものなのかというと実は同じものだったりする。
この辺りの金は砂金のように分離しているわけではなく、石の中にまるで墨を流したように溶け込んでいるものが多いのだ。
これはちょっと変なのだが、もともと金を掘ったような経験のないアルビスはそれが普通かどうかなんてわからない。
分かるのは魔識覚でそれが金だと確認できること。
初めてこれを見つけたときはアルビスも驚いた。
〝金〟というのはやはり貴重品。レアもの。なんかうれしい。
持っているとお金持ちになったような気になるのは誰でも同じだろう。
なのでなんとかこれを取り出そうと考えた。
もちろんこの世界には錬金術師というのがいて、彼らが鉱石を細かく砕き、そのうえでやはり水銀を使って金を取り出していることなんかも知らない。
なので自分の科学知識でどうにかするわけだ。
さて、原子というのは常に電子の奪い合いをしている。例えば金から電子を奪い取ると金は金イオンに変化する。つまり溶けるわけだ。
ただ金というのは安定性が高くて普通は溶けない。硫酸でも溶けないし、硝酸でも溶けない。金を溶かすには王水というものが必要になる。この王水の詳細は省こう。危ないからね。
王水の利用は専門家立会いの下で!
ただここで要点となるのは金から電子を奪えば溶かすことができる。という事実。
そして魔力は万能の力。イメージを顕在化させる力なのだ。
「だったら魔力で金を溶かせるのでは?」
できました。
金から電子を奪って金イオンに変え、溶けだしたものを集めた後で魔力で奪った電子を戻してやればあら不思議。金の粒粒ができましたとさ。
アルビスはこの方法で見つける〝金を含有する石〟から〝金〟を抽出しまくった。
それが村の役に立った例のあれ。
この時計算外だったのが電子を持った魔力が、電子を戻したときにそれと一緒に原子に取り込まれてしまったということ。
この魔力を取り込んだ金原子が魔力の作用で変質し、金とは少し違った特性を持ったことをアルビスは当然知らなかった。
それがオリハルコンと呼ばれていることも。
これまでにクロノに確認したら銀を同じ方法で再構築したものがミスリル。銅を使ったものがヒヒイロカネと呼ばれるらしい。
あと神鉄なんてのもあるらしいけどこれは専門性が高くって精霊ウィキでは分からなかった。
不幸中の幸いである。
「そして今、かつての栄光を再びこの手に」
アルビスはカゼコマで高速移動しながら川周辺で金鉱石を採取しまくり、暇を見つけてはオリハルコンを生成しまくりましたとさ。
そんな内緒の外出から帰ってくると双子の御機嫌取りが待っている。
至福の時間だったりする。
普通の子供だったら小さい子供に絡まれてうっとおしがったりするのだが、アルビスはね、中身があれだから。ちっちゃい子供と戯れるのはむしろ癒し。
双子をあやすアルビスはそれを眺める大人たちの癒し。なかなかいい効果の連鎖。
ほのぼのー。ではあるのだが、実情は違う。
「にいしゃままほー」
「うわんうわんするー」
そう言って寄ってくる弟妹を抱えて魔力訓練をするアルビス。
弟妹の要求は魔力修業なのだ。
もう結構長く続けている魔力の修業は順調で、アルビスの身体にはしっかりした魔力回路が形になりつつあった。
『形になるとは言ってもこれは一生かけて鍛えていくものであります。終わりはないであります。完成は最後の時のみであります』
とクロノが言うので永遠の未完成ではあるのだ。ただ、完成度で言えばアルビスのそれは大人の大概の魔法士よりもずっと高度に組みあがっていたりする。本人は知らんけど。
まあ、他の魔法士は魔力訓練に重点を置いたりしないので実戦優先なのだから当然ではある。
クロノによると。
『魔力点は確実に安定しているでありますな。あとはなにかのきっかけでこれが開けば、何か一つでも開けば今の壁を越えられるでありますよ』
という段階らしい。
アルビス的に言えば『チャクラ』ということになる。
魔力訓練で魔力を循環させると体の中心にこの七つの力を感じるようになった。
頭のてっぺん、額の中央。喉。胸の中央。みぞおち。丹田。会陰。の七つ。ここに確かに光の玉があり、うっすらと機能しつつもまだ眠っているような感じがあるのだ。
これが目覚めればさらに一段階上に行けるだろうとクロノは言う。
因みにアルビスは悠長に構えていたので自分が壁にぶつかっていることを知らなかった。
まあ、それはともかく弟妹は魔力修業をするアルビスの膝に乗って、アルビスの魔力の中で揺蕩っている。
魔力というのは人間の中にあるものなのだが、生きている以上、そして呼吸のように外界と魔力、マナのやり取りをしている以上その人の周囲にも魔力は揺蕩う。
アルビスが自分の体の隅々にまで魔力を循環させるとそれに共鳴するかのように周囲に漂う魔力もそれに共鳴してゆったりと脈動する。
たまたまこの時にアルビスに抱き付いた双子はそれがとても心地よいことに気が付いてそれ以降、魔力修業をねだるようになってしまったのだ。
何か悪影響とかないかしら? と心配したアルビスだったが。
『大丈夫であります。問題ないであります』
とクロノが言うので『まあ、いいか』で遊ばしている。
感覚としては海で長い時間遊んだ後、部屋で転がったりしていると揺れる感覚がして心地よいというのが近いようだ。
ただ問題ない。は何も起こらない。と同義ではない。
ある日の事。
「ぼ~ん」
「きゃはは、ずざざなの~」
庭で遊んでいたら双子が魔法を使っていた。
双子がする砂遊びの砂が魔法で蠢いていたのだ。
『あー、これはあれでありますな。
マスター殿がよく土をいじってちびちゃんたちを遊ばせていたから覚えてしまったでありますな』
「早すぎね?」
『マスター殿よりは遅いでありますよ』
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現在10月、アルビス6歳1か月。双子3歳9か月




