01-20 土魔法~壺中天~あぶねえあぶねえ
第20話 土魔法~壺中天~あぶねえあぶねえ
「あ、大丈夫だ、普通に使える」
アルビスはほっと息をついた。
普通にというのは詠唱とかしなくてもよい、という意味であり、同時に変な踊りを踊らなくてもいいという意味である。
アルビスが使っていたのは【築城】の魔法だ。
彼の目の前にはなんだろ、かわいい、ぬいぐるみ? 違うか、ふぃぎゅあ? みたいなものが存在していた。
ぬいぐるみチックにデフォルメされたゲームや漫画なんかに出てくるモンスターのフィギュアだ。SD怪獣王なんかもある。
なかなかGood。
「にいしゃま、かわいいです」
「うん、かっこいいねぇ」
ちなみにかわいいがエドワードでかっこいいといったのがディアーネだったりする。
(やっぱりこの築城は生活便利魔法超級だな)
その可能性に目を見開く思いだった。
アネモネから教わった魔法は【築城】【土ボコ】【陣地】の三つの魔法だった。
土ボコというのはそこにある土をボコッと動かす魔法で、例えば相手の足を引っかける小山を作ったり、足がはまるような穴を開けたりする魔法だ。ごみを捨てる穴を掘るのにもいいとアネモネは笑っていた。
陣地はちょっと高度な魔法で、土の精霊がいないと無理。ということだったが参考までに見せてくれた。
アルビスの見る限り、築城で目印を作り、自分のテリトリーを区切ってそのうちを土属性の波動で満たして内と外を峻別し、中に魔物や害虫が入らないようにする魔法だった。
(うーん、やってできないことはなさそうな…)
アネモネが泣くからとりあえずやめたげて。
他にも『つぶてを作って飛ばす石弾とか、地面から棘を生やして敵を攻撃する魔法とかあるんだよ』と口頭で教えてもらったりもした。
(やっぱり魔法はワクワクするよね)
ちょっと興奮気味のアルビス君だったりする。
その調子で魔法に挑戦しているというわけだ。
「よし、じゃあ石弾をやってみよう…と言ってもこれってレールガンでいい気がするなあ…まあ、ちょっとやってみるか…
アネモ姉ちゃん(省略形)は大小さまざまな石弾を飛ばせるとか言ってたからね」
この石弾は魔法で作るものだという。なので理屈はレールガンの弾丸と同じということだ。
土を築城で固めてあらかじめ弾を作るということもできるのだが、この場合は飛ばすのが大変になる。普通の土魔法使いはエネルギー属性は使えないから。
だが全部魔力の弾丸であれば『飛ぶ』というイメージを最初から織り込んで作り出せるのだ。つまり魔力の一部が推進力になるわけだね。
だがアルビスはそんなことは知らない。
だからきっちり硬い弾丸を作ってそれを力場で撃ちだす。
単発だとレールガンと変わらないので…
ズバン! ズバババババッ!!
撃ちだされた弾丸は空中で分解して拡散し、広範囲に細かい穴をあけた。
つまり散弾銃だ。
「おおー、石弾の魔法もけっこう便利だねえ」
いや、これは石弾ちゃうよ。
「でもこれだったら小さい弾丸を連続して発射とかもできるよね…あらかじめ小さい球をたくさん作って置いて、力場で連続投射すればいいんだから」
はい、アル君暴走。
試行錯誤の末にショットガンとマシンガンができてしまいました。
ショットガンは細かい球が一度に飛ぶので面攻撃の性質もあり、細かい貫通力と全面の打撃力という力がある。
マシンガンは地球のそれのように毎分何百発見たいな連射はできない。まあ、弾の生成が追い付かないからだ。それでも三点バーストをクールタイム一秒で継続できるぐらいには打てる。ショットガンよりも弾が大きいのでアサルトライフルぐらいの威力かもしれない。と思う。
見た目はどちらもちょっとSFチックなミニライフル。両手でも片手でも使えるようなデザインの力場で出来ている。
よいコレクションができたとアルビスはご満悦だ。
依然作ったレールガンも含めてシステム的には全部力場投射砲なのだが…
「うん、ハイパーライフル、ショットライフル、マシンライフルと名付けよう」
はい、オリジナルの魔法として登録されました。
「よし、次は石棘だね」
そして暴走はまだ止まらない。
アルビスはイメージする。
「石棘というのは、地面から鋭い棘がいきなり飛び出してくる魔法だって言うから…うにゅにゅにゅにゅ…イメージ…」
地面の中に魔力が凝った。
それは地面の中に作られた高密度の魔力の塊だった。
それがアルビスのイメージで硬質の鋭い棘に変換される。魔力濃度が高いのでそれは地面を土台として急速に天に向かって突出する。
ズバン! ダンダンダンダン!!
数本の二メートルはあろうかという鋭い棘が地面からいきなり突き出した。
最初は小さい棘なのだ。
魔力の少しを使ってそれが形作られる。だが魔力はまだたっぷりある。
その小さな棘の下にどんどん続きが形成され、それゆえに高速で天に向かって突き出される。
アルビスのイメージなので棘の硬度も半端ない。かなり凶悪。
「ふう、たぶん石棘ってこんな感じだよね」
違う、全然違う、石棘は地面から小さい棘がちょこっと生えるマキビシみたいな魔法だよ。
「よしよし乗ってきた、じゃあ次はついでに…」
「ある~どこ~? アネモネさんたち帰って来たよ~」
おっ、十日ぶりにアネモネたち帰還。
「おっと行かねば」
アルビスはちょろちょろと村の広場に向かって走り出した。
◇・◇・◇・◇ 壺中天
アルビスがたどり着くとすでにみんな結構集まっていた。
人目のない森の中で魔法の研究をしていたので時間がかかったのだ。
「もう、どこに行ってたの?」
「えへへ」
えへへでごまかせる子供の特権。
「あ、アル君だ~」
アネモネはすでに双子を確保してご満悦だ。
メンバーも全員無事だった。
でもみんな少し薄汚れている。森の中で10日ほども活動していたのだ、当然といえるだろう。
でもなぜかアネモネだけがキレイ。
子供に触るのでバッチいままではダメと気を使った結果だったりする。すごいな。
そしてすごいといえば今回の討伐対象ヴェノムゲーター。
いくつかに分割されて並べられている。
それは繋ぐとするならば6mを超える、紫と赤のマーブル模様のワニだった。すっごい色味だ。
アネモネに抱き付いていた弟妹はアルビスを見ると彼女をぺいと振り切ってアルビスに駆け寄ってしがみつく。
その後ろをアネモネがいかにも怪しい足取りでかけてきて今度は三人ともに抱きかかえた。
(あー、なんというか…ネオテロスさんはこの人で本当にいいんだろうか?
いやいやまてまて、人間の価値というのは簡単に判断できるものじゃない。
ひょっとしたらこんな変な人でも何かいいところが…)
何気にものすごく失礼なことを考えているアルビスだったりして。
そのアルビスの注意を引いたものがあった。
それはマーブルワニさんのすぐ近くに置かれた大きなつづらのような箱だった。高さは150cmもあり、口も横100cm、縦60cmほどある。背負子のような、でも少し違う器具に固定されていて、今は下におろされて蓋が開いている。
ヴェノムゲーターはその箱から取り出されたものだった。
もちろん本来の大きさを比べれば中に入るようなものではない。
「あれ何?」
「おー、アルちゃん、あれに目をつけるとはお目が高い。うん、あれはね『壺中天』というマジックアイテムなんだよ。すごいでしょう?」
『壺中天というのは見ためよりもずっとたくさんのものが入る魔法の道具でありますぞ、マスターどののストレージと違うのはあそこには人間も入れるのであります』
壺中天というのは聞いたことがあった。壺の中にある別の世界の事だ。
すべての荷物が出され、ヴェノムゲーターが大体元の形に並べられた。他に内臓類や毒腺などは別々に壺に入れられて運ばれてきていた。
今回の依頼では獲物も討伐者の物という契約になっているのだが、見分は必要だ。
そしてもし入用なものがあれば値段交渉で買い受けるような話もできる。
だがそれは大人の話。
アルビスは壺中天に興味津々だった。三人も抱えていてわきが甘いアネモネの手をかいくぐり、アルビスは壺中天に駆ける。
そして壺中天の外にかけられた梯子を上り、勢いよく覗き込んだ。
「あっ」
そして足が滑った。
アルビスは壺中天の中に落っこちて、どさっと誰かに受け止められた。
「なんだ。おとなしい子だと思っていたが意外とわんぱくだな」
「おにいちゃん」
中に人がいるというのが信じられなかったが本当にメンバーの一人がいた。おじさんとは言わない。微妙なお年頃みたいだが命の恩人だから配慮する。
中はなかなかに見事なものだった。一言で言うと…生活スペース?
高校の時の運動部の狭い部室?
感覚的に六畳ぐらいの部屋を縦に二つ並べたぐらいの空間があり、その壁に大きな棚があった。三方が棚で一方が壁。棚には大小様々な荷物が積まれていて、一角の棚がたぶんベッドになっている。寝具などが丸まっていて、人が寝られるようになっているのだ。
そう、この壺中天は生活スペースも兼ねていたりする。これなら野営中は中に入って見張りも最小限で済む。夜見張りをしていたやつは昼間の移動中に中で寝ることもできるのだ。
完璧な野営設備である。
他にも背負子部分にはクレーンのようなものもついていて、中にある重い荷物を吊り下げて運び出すこともできる。しかも…
「体が軽い?」
「お、気が付いたか。この中は体重が半分ぐらいになるんだ」
「ほへー」
なかなかすごいマジックアイテムだ。
アルビス大興奮。
(さすが魔法文明だね、こんなものがあるなんて…)
まだきっと知らないものがいっぱいある。
ワクワクが止まらないアルビスだったりする。
ん、だけど…クレーンでつられて外に出されたアルビスはベアトリスにおしりペンペンされてしまいました。うじゃ。
◇・◇・◇・◇
さらに三日後、太陽の牙傭兵団のメンバーは帰っていく。
もちろん三日間は楽しい宴会であった。
アネモネはアルビスと双子をかわいがりまくり、不動のお姉ちゃんの地位を確立し、どさくさに紛れてプロポーズしたネオテロスとくっついてしまった。
めでたいのである。
「世話になったな。近くに来ることがあったら寄ってくれ、歓迎するぞ」
「ええ、その時はぜひ、アネモネも喜びます」
堅く握手を交わすコンラートとネオテロス。
旧友というのはいいものだ。
しかし…
「そう言えばアルは? 寂しくて隠れているのかしら?」
その日その場にはアルビスの姿がなかった。かわいがってくれたアネモネとの別れだ。さすがに心に来るものがあるのかも…
しかし、その日アネモネはなぜか大きめの鞄を持っていて、そのかばんはなぜか不自然に蠢いていたりして…
「ぼくここー」
はい、鞄からアル君登場でした。あぶねえあぶねえ。
「えーんやだー、アル君連れて帰るー。ここは三人も子供がいるんだから一人ぐらいもらったっていいでしょー」
「いいわけあるか! 自分で作んなさい」
そんなわけでアネモネ嬢は泣く泣く帰還の途に就いた。
「また絶対遊びに来るからねー」
そう言い残して。
I'll be back である。
「まあ、あれだ。自分の子供ができれば落ち着くだろう」
「そうね、ネオテロス殿には頑張ってもらいたいわね、家の子たちの安寧のためにも…」
彼らの言葉は現実になり、アネモネがこの村を訪ねることはなかった。
手紙はバンバンきたけど。
『生まれたのは女の子でした、アル君のお嫁さんにします。大きくなったらもらいに来てください』
というような手紙があったとかなかったとか。
うじゃ。




