01-19 太陽の牙傭兵団~リーダー根性なし~魔法はハードルが高い?
第19話 太陽の牙傭兵団~リーダー根性なし~魔法はハードルが高い?
傭兵団、というが冒険者だよ。
少人数なら冒険者チーム××とかソロなら冒険者なにがしとか名乗るのだけどある程度人数がいると傭兵団を名乗ることになるのは慣例だった。
所属を明確にするためだね。傭兵団を名乗っていれば冒険者(民間)の戦闘部隊。ということになる。
そして『太陽の牙傭兵団』というのが昔コンラートが所属していた冒険者のチームだ。
現在はちょっと大所帯で総勢20人ほど。とはいっても全員がまとまって行動するわけではないので今回ここにきているのは戦闘職が5人、サポートが1人という構成だった。
「いやー先輩お久しぶりです」
「元気そうだなネオテロス。随分立派になった。あの坊やが」
「やめてください、自分だってもう28ですよ」
「そうか、俺も年を食うはずだ」
コンラートは現在36です。
ちなみにベアトリスは23歳。うわー、犯罪臭い。
でもこれにも一応理由がある。というか流れがある。
女は適齢期になると結婚できるのが当たり前なんだが、男はそうもいかないのだ。なぜなら男には甲斐性が必要だから。
この厳しい世界で、女を護り、子供を守っていくだけの力が求められるから。
なので女は早婚、男は晩婚という流れができてしまう。
だから若い嫁さんで仕方がないのだ。うん。
で、ネオテロス君メンバーを一人ずつ紹介していく。
リーダー:ネオテロス:戦士片手剣盾持ち
イスヒロス:重戦士:大楯・手斧
アネモネ:攻撃魔法士:土属性
アウラ:補助役:アイテム士
エク:スカウト:探索・警戒(古参)
アポス:ポーター:荷運び、雑用、下積み中
という感じだった。
「そうかそうか、エク以外は初めましてだな。よく来てくれた。俺たちもサポートはするから仕事に専念してくれ。
まあ、取りあえずは…歓迎会だな」
中年はすぐにノミニケーションをしたがる。これはどこの世界でも同じらしい。そして酒好きなのも。
故に彼らはすぐに打ち解けた。
◇・◇・◇・◇
「ごめんなさいね、どうも昔が懐かしくてはしゃいでいるみたい」
「いえいえ、気にしないでください。みんな楽しそうですよね、やっぱり気心の知れたところっていいですよ。
ご領主様って前の前の団長さんなんですよね。やっぱりわかっているっていうか、上手いですよね。条件の設定とか。みんなすごくやる気になってます。
他の仕事もあったんで半分ですけど、そうでなかったらきっとみんなできてましたよ」
ベアトリスの言葉にアネモネが嬉しそうにこたえる。
傭兵団から見ると今回の依頼は『わかっている依頼』ということになる。
報酬も十分だし、条件も整っている。
傭兵団にとって都合がいいということではなく双方にとって十分に利益が出て、お互いに煩わしくない依頼ということだ。
依頼で討伐などをすることは日常なのだが、そういう傭兵団なのだがなかなか満足のいく依頼というのはないのが現状だ。
余計な仕事を押し付けてくるクライアントとか、やたらいだけだかで偉そうなクライアントとか、勘違いしているものも多いのだ。
それは双方にとってマイナスで、そういうクライアントがいると冒険者の側が仕事を選ぶようになり、実力のある冒険者は条件の悪い仕事を受けなくなってしまう。
単にケチなのか、事情があってそれだけしか出せないのか、それに関係なく依頼を敬遠するようになってしまう。
それが今度は逆に不良冒険者のつけ入るすきになったりする。
依頼を受けてクライアントの所で無理難題を言ったり、仕事を長引かせて依頼料を釣り上げたりとか、下手をすると前金で全額報酬を払わせて適当に失敗するようなものまで出たりする。
冒険者稼業もなかなか難しいのだとアネモネは言う。
いうのだが…アネモネの顔はだらしなく歪んでいたりするのだ。喜色満面。
原因は膝の上のアルビス。
さっきまでは双子も含めてかまい倒していたアネモネだったが、双子が電池切れになってしまったので現在はアルビスが集中攻撃を受けている。
アネモネ嬢は超ド級の子供好きのようだ。
「自分で産まないの?」
「いやー、子供は好きなんですよ~でも相手がいることですし~」
アネモネはコンラートと肩を組んで大笑いするネオテロスをちらりと見る。それだけでベアトリスはなるほどと納得した。
そしてついでにアルビスもなるほどと納得した。
つまりネオテロスは根性なしということだろう。
この話をこれ以上掘り下げるのは危険と判断したベアトリスは話題を変える。
「アネモネさんって地属の有名な所よね?」
「いやー、どの程度かって…口幅ったいんですがそれなりに?
ベアトリスさんも有名ですよね、水神流錬成医法門。水の名門じゃないですか」
魔法の話である。ところというのは所属流派の話だ。
二人は魔法談義に花を咲かせることにしたらしい。
アルビスは?
アルビスは興味津々で話を聞いていた。普通なら子供部屋に放り込まれるところなのだが、アネモネがものすごく残念な、この世の終わりみたいな顔をするのでちょっと猶予がもらえて、そのうちに眠くなってうつらうつらしていたらずっとアネモネに抱かれていることになってしまった。
◇・◇・◇・◇
翌日は討伐のための準備に傭兵団のみんなは忙しそうに働いていた。
アネモネ以外。
アネモネはというと当然のように子供達を構い倒している。
それでいいのか? と思わなくもないが、アネモネが魔法を見せてくれるというので細かいことには目をつぶることにしたアルビス。うん。必然。
アネモネはせっせと働くネオテロスに手を振る。ニッコリ笑顔付きで。彼は嬉しそうに手を振り返し、より一層元気に働く。
(あー、なんとなくこの二人の関係が見えたわ)
アネモネは19歳だそうでまさに適齢期。そういうことなのだ。
男って悲しいなあ…なんてちょっと黄昏れるアルビスだったりして。
「ふっふっふっ、お姉ちゃんは【地精竜王流】という地属性メインの流派なの。攻撃魔法と日常魔法が得意な流派だよ」
「「「かっこいーーー」」」
子供達が声をそろえるが実はよく分かっていない。とりあえず褒められることがあれば褒めるのがアルビス流。よくわからなくてもいいのだ。
ここでアネモネが言う日常魔法というのは戦闘ではなく、補助でもない魔法だ。
その基礎となるのが…
「この【築城】というまほうだね~」
そう言うとアネモネは呪文を詠唱する。少し節をつけてリズミカルに。そしてちょっとコミカルな踊りを加えながら。
(はっ、はーどる高けえーーーーーーーーっ)
アルビスは愕然とした。
双子は喜んで真似で一緒にジタバタしたりおしりフリフリしたりして踊っていた。
母ベアトリスが魔法を使ったときは呪文はあったが踊りはなかったのでそんなものかと思ったのだが、もし魔法全般がこんな踊り付きだったらくじける自信があったりなかったり?
しかし魔法自体は面白かった。
築城という名前はすごいがやっていることは土を好きな形に成型して固めてしまう魔法だった。
だがこれが便利。
旅先で竈を作ったりすれば煮炊きが格段に楽になるし、野営時にテントを張る場合にも基礎を作って安定させたり、柱を立てて安全地帯を作ったりと利用価値は高い。
(築城って名前からすると本来はお城を作るのに使われていた魔法なのかも)
魔力が分子結合力になっているようで、魔力を込めればどんどん強固になるし、そこにある土(実物)を使っているので時間経過で簡単に崩れたりもしない。
魔力の込め方を加減すれば半日ぐらいで崩れるようにも作れる。
かなり利用価値の高い魔法と言えるだろう。
アネモネは他にもいくつか魔法を教えてくれた。
ただ魔法というのは一回教われば使えるというようなものではないので、あくまでも参考に。という意味合いである。
普通は、あくまでも普通は。
まあアネモネ自身に関していえば至福の時間だったと言えるだろう。
そして三日ほどの準備期間を置いて、太陽の牙傭兵団はヴェノムゲーター討伐のために森に進攻していった。
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現在は9月
アルビス6歳になりました。
双子ちゃん3歳と8か月




