01-16 五才になりました
第16話 五才になりました
「おにいちゃま、あのね、アーネはおにいちゃまのおよめさんになるの」
「あー、アーネじゅるい。えどもにいしゃまのおよめさんになる」
ディアーネが積み木を積み上げてかわいい建物を作り、そこで結婚式をするんだとませたことを言うと、エドワードが僕もと追随する。
「えー、ずるい、エドのまねっこ」
「ずるくないよ、ぼくにいしゃまだいすきだから」
「アーネだって大好きだもん」
そう言うと二人とも積み木を蹴散らしてアルビスにひしと抱き付く。
「きゃー、ふたりともうれしー」
アルビスはたまらんとばかりに二人をむぎゅっと抱きしめ頬ずりをする。
この家では割とよくある光景だった。
「なあなあ、二人とも俺は?」
「「えー、おひげきらい」」
コンラートが参戦してあっさり振られるのまでいつもの事だ。
アルビスは心の中で『頑張れ父よ、まけてはいかん』とエールをおくる。
アルビス自身に父親をやった記憶はないが、父親がだいたいそういう扱いを受けることが多いのはなんとなく理解できてしまうのだ。元が情報社会の出なので。なのでちょっと涙せずにいられない。
まあ、その後ベアトリスに慰められているのだからそれはそれでいいのかもしれない。
あれから二年と少し、アルビスは五歳。双子もすでに三歳である。
元気で可愛い盛りの子供達。
でもそのぐらい大きくなるといろいろやるべきことが増えてくる。
とりあえずはしごとと勉強だ。
貴族たるもの読み書き計算ぐらいできないといけない。というわけだ。
ただこれは難しくない。何といってももともとが日本で高等教育を受けてきた人間だ。理数系は得意で高校程度はいまだに自信がある。あと科学とか、物理とか、その手の話は好きなのでかなり読み込んでいる。
そして読み書きも難しくはなかった。何といっても基礎というか考え方が根底にある。
この世界の文字はアルファベットのようなもので、その組み合わせで単語や接続語を作っている。
しかし文法は日本語に似た構造で、つまり単語を覚えれば普通に書けるのだ。
なので問題になるのは単語のコレクション。
しかしそれも問題なし。辞書がある。
というか見つかったから。その辞書の名を〝クロノ〟という。
精霊というのは個々に独立しながらも根底の部分でつながっているもので、まあ、人間もそういう話はあるのだけど、こういうのをアストラル界(民族的無意識世界)とか言うのだけど、精霊というのは自分達のアストラル界にアクセスできるものらしい。
いつも生まれたばかりなのにどこから出て来たのか分からない情報を出すクロノだったが出所はここだったようだ。
ただ精霊たちの間に普遍的に広がっている知識のみが対象になる。つまりマイナーな情報や専門性の高い情報は共有されていない。そこらへんは個々の精霊の管轄になるのだそうだ。
そして精霊は人間と感性が違う、つまり精霊たちの独断と偏見による知識で作られた無意識世界なのだ。つまりかなり趣味的なウィキなのだ。精霊ウィキ。
でも文字、単語関係は揺らぎがないから問題なく使える。
逆に意味関係は怪しい。例えば机。『人間を仕事という鎖で縛り付けるときの重し』みたいな解釈になる場合がある。精霊の感覚だからね。当てにしすぎてはダメ。
なので必要な単語はクロノに聞けばOKなのだ。
「すごいわこの子、五歳でこんなにちゃんとした文章が書けるだなんて…他のことも併せてきっと天才ね」
「「「はい、坊ちゃんすごいです」」」
アルビスは思う。
(あまりに目立つのはどうかと思うけど、やらないという選択肢はないしな…)
と。
それは生活の改革。
まず先ほど弟妹が蹴散らした積み木を作ったのも昔のアルビスである。
はっきり言って木工所の子供などが木っ端を積んで遊ぶことはよくあることだ。だが、それをおもちゃとして形にしたものは存在しなかった。
それを積み木として形を揃え、やすりで表面を整え、子供のおもちゃとして安全なものとして作り上げたのがアルビスだったりする。
もちろん弟妹のためである。自分には必要ないからね。
ちなみに実際に作業をしたのは、村の木工所で働くじいちゃんである。
さらにこの爺ちゃんと組んで。トイレの改良も行った。
ご存知の通りこの村のトイレは汲み取り式である。しかし、日本で目にするようなトイレを想像してはいけない。かなりすごいのである。
ぶっちゃけ地面に埋めた大きな甕の上に。板を渡しただけ、というような構造である。
板と板のすき間は、大人はともかく子供ならば落っこちても不思議はないレベル。これを初めて見たときアルビスは恐怖した。
コロニーが落ちてくるような恐怖だった。
できれば水洗とかほしかったけど、さすがにそれはハードルが高い。インフラまで手を付けるのは無理。
なのでせめてということでキンカクシを作りました。
板に和式トイレの便器のような構造物をくっつけ、それを隙間の上に設置するとあら不思議。結構まともなトイレになった。
調子に乗って捕まるための手すりも作った。
もちろん作ったのは木工所の爺ちゃんである。
そしてこのトイレが流行った。
村中に広がった。アルビスはみんなに感心された。
みんなに褒め称えられるとうれしいもので。アルビスは調子に乗った。まあ、人間ならば仕方がない。
なので今度は水道を作った。
これもインフラだろうって?
まあ、そこまで大掛かりなものではない。
家屋の高い位置に水を入れるタンクを設置し、そこから水道管を引いてコックをひねると水が出るような仕組みを考案したのだ。
水を井戸からくみ上げるのは魔道具のポンプがあるからもともと問題がない。
一日に一回まとめて組んでおけば便利に水が使えるのだ。煮炊きや洗い物が格段に楽になった。
これも村中にあっという間に広がった。
(うん、これで少しは文化的な生活ができる)
とアルビスは宣ったとか。
かくしてアルビスは神童とか天才とか言われる感じになってしまっているのだ。村でね。
◇・◇・◇・◇
さて、五才になって為すべきことその二。としては仕事である。
この世界、大体七歳になると子供は働き始める。
大人の仕事を手伝いながら、自分の将来に向けて仕事を覚えていく。というのが自然な流れなのだ。
農家の子は農家、鍛冶屋の子は鍛冶屋。大工の子は大工。そういう流れはこの環境からくるのだ。
五歳というのはその前哨戦で、そろそろ雑用で大人を手伝うような年ということだ。村の子供達もみんなそうしている。まあ、人口300人程度の村なので、数は知れているが。
というわけでアルビスの仕事は…子守。
まあ、そうなるよね、これが弟妹がアルビスになつく理由の一つだ。
四歳が過ぎたころからアルビスは双子の子守を任され、嬉々としてやっているのだ。
今日も今日とて…
「じゃあそろそろ行くよー」
「はいなのー」
「りょうかいたいちょう」
元気に手を上げるディアーネ。ビシッと敬礼するエドワード。調教が進んでいる。
二人は両脇からアルビスに抱き付き、アルビスは二人の腰に手を回すようにして抱え上げる。
そして『カゼコマ』と口にする。漢字で書くと【旋風駒】といったところか。
するとアルビスの前で風がくるくると渦を巻き。独楽のように回転を始める。大きさは30cmぐらい。
アルビスは双子を抱えたままとんとんとその中心に駆け上がった。
そして。
「よーしいけー」
「きゃーーーっ」
「わーーーいっ」
ふわりと浮き上がったカゼコマはしゅおーーーんと音を立てて三人を乗せたまま森の奥に向かって勢いよく飛んで行った。
これを子守と呼んでいいのだろうか?
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現在は6月です。
アルビス5歳と七か月
双子ちゃん3歳と三か月 みんなやんちゃです。




