01-14 緊急事態~入れ食い~お母ちゃんかっこいい♡
第14話 緊急事態~入れ食い~お母ちゃんかっこいい♡
魔境の氾濫。俗にスタンピードと呼ばれる魔物の集団暴走現象の一つだ。
原因はいろいろあるらしい。
魔物が多くなりすぎて人里に餌を求めてやってくる。とか言うのは結構多い理由だ。
規模は本当にピンキリで、数十から数千、数万まで。
クロノが確認したスタンピードはおそらく200前後。ということで、大規模に比べれば微々たる数だが、それでも魔物の戦闘力は侮れない。
人間と同じぐらいの戦闘力の魔物としても200というのは脅威だろう。
300人の村、しかも男たちはいない。そこに200の狂暴な盗賊が襲ってきた。と考えればそれがどのぐらい絶望的か分かるだろう。
アルビスはすぐに決断した。
「クロノ、そのまま半鐘まで行って、鐘を鳴らして、三、三……一、三だよ。二回繰り返して!」
『任せるであります』
召喚された状態のクロノならば鐘を鳴らすことも可能なのだ。ものに触れるから。
そして権能【隠者の手】を使えるから。
ちなみに鐘は鳴らし方にルールがあって三、三が緊急事態。一は北側、北側を三分割して三は一番東になる。つまり村の中心から北東方向で緊急事態発生。の鐘になる。
大人たちの話を聞いていてシレッとこういった情報を集めているあたりなかなか抜け目がない。
クロノは言われたとおりに屋敷にすっ飛んで行って、そしてすぐに半鐘の音が村中に響いた。
◇・◇・◇・◇
「おい、こいつはどういうことだ!」
「それがおじい、誰が鳴らしたんだか全く分からねえんだ」
「いたずらか?」
「あほ抜かせ、村の者ならこの鐘が何を意味するのか知らんはずはねえ、こんないたずらをしたらハブられちまう、そんなことやるやつはいねえ。
人を出せ」
指示を出しているのは村の年寄りだった。
領内上げての狩猟大会ではあるが全員が行くのは不用心なので当然留守番としての戦力もある。
老人はその戦力の一人だ。
一線は退いたがまだまだ腕に自信あり、そういった人。
他にも腕に覚えの若い男が二人、ちょっと落ちるが戦える村人が数人いる。
「確認は既に出したぜ、ポンタだ。すぐに戻ると思う」
別にふざけているわけではなく本当にそういう名前なのだ。
そしてポンタ青年は足に覚えのある若者だった。つまり韋駄天のポンタ。
異世界なのに『韋駄天?』と思うかもしれないが、韋駄天という名前の精霊がいるのだといわれている。とっても足の速い精霊だそうだ。
むむむ、これの意味するところは?
ポンタは期待に応え、北に駆けて様子を確認し、そしてすぐに帰ってきた。
「おじい、スタンピードだ、魔物の群れが押し寄せて来るーーーーーっ」
「「「「「「なんだってーーーーーっ」」」」」」
青天の霹靂だった。
「すぐに戦える人を集めて、女たちも武器を取って、戦えない者は屋敷に避難を。子供達を優先してね。
それと救援の半鐘とのろしを上げて。誰かが気が付けばみんなが帰ってくるから、それまで持たせるの。
行きます」
その場に駆けつけ、指揮を執り始めたのはベアトリスだった。
彼女は村のみんなに指示を出す。そして…眉をひそめて自宅の方を見た。そこには子供たちが、アルビスとエドワードとディアーネがいるはずの方向だった。
あくまではずである。アルビス君は絶賛森の中だったりするから。
本音を言えばすぐに駆け付けたかった。だって母親だから。
でもそれはできない。だって彼女が村のリーダーだから。
彼女は思い思いに武器を取る村人たち十数人を率いて北のバリケードに向かったのだった。
◇・◇・◇・◇
さて、こちらはそのバリケードの外。アルビス君ははっきり言って絶好調だった。
「うおおおっ入れ食いだー、トンカツだー」
アルビスの放った即死魔法、入滅陣がさく裂した。
目標はもちろんトンカツ…じゃなくてイノシシだ。
カエルや芋虫の他にも村に向かってる魔物は数種類あった。
まず大百足。ジャイアントセンチピードとか言って有名なやつ。ただこれは二尋赤百足という。一尋というのは人が両手を広げた大きさのことね。赤というのは毒を意味する。焼けたようにただれる毒を持った魔物によくつく名前だ。百足はそのまま。
もちろん食用にはなりません。
でもカエルは大喜びで食べます。
カエルってどんな毒でも平気で食べるんだよね。毒も消化しちゃうんだ。
次はビッグラット。これはまあそのままでっかいねずみ。でっかいドブネズミ。胴体だけで50cmはある。もちろん食用不可。おなか壊しますよ。
ここら辺はもう、収納する必要もないので即始末。
最初は銃撃(?)で攻撃したんだけど死体がね、結構ひどいことになるので即死魔法に切り替えることにした。
だがそれは良い考えだった。
「うん、いいね、木っ端みじんになった鼠とか転がっていたら不気味だけど、無傷の死骸があったらただの不思議現象だよね」
『うーん、そうでありますな、そんな感じでいいでありましょう』
この世界は何事も科学的に原因を追究…なんてしないから、よくわからないことはよくわからないままで終わってしまうのだ。だから不思議現象は意外と都合がいい。
「なにこれー、変なの」
「えー、わかんない」
「気味悪いわー」
「えんがちょ」
で済んでしまうのだ。おそるべし未開文明!
とそんな感じで魔物の始末をしていたアルビスの前にそいつは現れた。
パニック瓜坊。
イノシシだが50cmぐらいで背中に縞模様がある。でも成体で子供じゃないのだ。
しかもある程度まとまった群れで行動し、しかも不測の事態に遭遇するととにかく走り回るという性質があるのでその名がある。
そしてトンカツ呼びでもわかる通りアルビスは歓喜した。
なんせこの世界で見た初めてのまともなお肉。
カエル肉も結構慣れてはいるんだけど豚肉はね、特別だから。イノシシだけど。
多分今までも食卓に上ったことはある。おそらく。でも知らなかったし、改めて実物を見ると感動する。
一匹目を入滅陣で仕留めたら残りが走り回ったので仕留めるのが大変だった。
あまり早く動く対象には入滅陣は使いづらいということが判明した。
おかげで八匹の群れのうち一匹が百足の毒に汚染され、二匹がカエル口の中に消えたが五匹をゲット。
細かい石を散弾のように撃ちだし、一瞬足を止めたところを入滅陣で仕留めたのだ。
「ぼくってすごい」
なかなかの機転であった。
ウハウハである。
そしてベアトリスが村人を率いてやって来た時には魔物の半数以上がすでに死んでいたりした。
「残り70ぐらいかな? 遠くのやつはまだ時間がかかりそうだし、ここまでかな?」
アルビスは木の陰に移動して様子を伺った。
◇・◇・◇・◇
(うわー、お母ちゃんかっこいいー)
ベアトリスを見た感想がそれ。
集まった村人の先頭に立ち指揮をとるベアトリスのりりしさ、かっこよさにちょっとほれぼれするアルビスくんだったりする。
ベアトリスは出産の後も特に太ったりはしなかったので相変わらずになかなかの美人さんだ。
それが立ち姿もりりしく指揮を執るのだからアルビスでなくても見惚れるのではないだろうか?
しかも着ているものがまたかっこいい。
「うーん、この世界ってああいう服あるんだ…」
まずレオタードのようなボディースーツを着ている。何の生地かはわからないが厚みがあるのでスタイルの良さは垣間見えつつも身体のラインはあまり出さずといった感じ。ところどころに金属板のようなものが付いていて、防御力を上げているように見えるのだか、この金属板、実は防御用の魔法が刻まれた魔道具のパーツだったりする。
おみ足はこれまたしっかりした生地のタイツで、そこに編み上げのブーツを合わせている。
全体としてみるとSFなんかによく出てくる戦闘服みたいだ。
だがここはファンタジー世界。それも忘れない。
その上に前開きのローブを重ね、魔法使いのとんがり帽子をかぶっている。
ローブにも帽子にも飾りというか文様が描かれていて、実はこれも防御力が上がる細工だったりする。
そして手には大きな杖。
SF・ファンタジー折衷でなかなかいいデザインだ。
(おかあちゃんって魔法使い?)
今更である。
「よかった、意外と少なそうね、100以上とか言われたときはびっくりしたけど、密集もしてないし、これならいけるかな。
魔法が使えるものはカエルの鼻っ面をあぶってあげて。びっくりすれば向きを変えるわ。
弓を持つ者は鼠を優先して狙うように。百足はわたくしが倒すので無視してよし」
ベアトリスの指示が飛んだ。
ちなみに『パニック瓜坊』は全部アルビスが見つける尻から狩り倒しているので現場にはいません。
さて、ベアトリスの指示で迎撃を始める村人たち。敵が散開しているのはいいことだ。一気に戦局が進むことがないし、時間が稼げれば狩りに出ている者たちが返ってくる。
なのでその間頑張ればいい。
村人たちもグループごとに散開して戦闘を始めた。




