01-12 カエル~魔物の力~レールガン
第12話 カエル~魔物の力~レールガン
『げろげーーーろ』
はい、やっぱり魔物がいましたね。
「かえるだ。でけー」
木の上から見下ろすそれは間違いなくカエルでそして大きかった。
大体一メートルぐらい。
アルビスのサイズでは一飲みである。危険。
「目玉の所に角が生えているね」
『魔角でありますな。魔物はみんな体のどこかに持っているであります。
あの魔角が村でも使っている魔道具の燃料でありますよ』
ほほうとアルビスは納得した。
つまりこれが地球における電気に代わるエネルギーとして普遍的に使用されるものなのだ。
『あと魔核というのもあるでありますが、これはめったに取れないであります』
「ふむ、つまりレアアイテムか」
ドロップ率が低いのだろうとゲーム的なことを考えるのはやはり元日本人だから?
ならばさっそく狩ってみよう。『レアアイテム、数撃ちゃ当たる、ゲットだせ』名句である。
『どうやるでありますか?』
「うむ、よくぞ聞いてくれたクロノ君、ここは文明人として銃器を使用するべきだと思うのだよ」
地球人にとって一番身近な(日本人だから触ったことはないけど常識レベルの)武器はやはり銃器のたぐいだろう。
乱読家の本領発揮でその手の本もたくさん読んだ。
ただそれがいま役に立つとは思わなかったが。
「要は銃弾を魔法で飛ばせばいいんだよね。玉なんてこれでいいし」
アルビスは来る途中で拾った石ころを取り出した。気を付けて選んだ出来るだけ丸い石ころだった。
そしてそれを無属性の魔力で宙に浮かべる。つまり隠者の手だ。
これは直接触っていないものに力を加える権能で、もちろん掴んだ物を撃ちだすこともできる。
「いけ!」
バシッと撃ちだされた石ころは、見事にカエルの…脇に着弾した。つまりハズレね。
『なかなか難しいでありますな』
カエルは不審げに周囲を見回す、幸いまだアルビスのことには気が付いていない。
そして二撃目。
今度は力のかかる領域を筒状にして伸ばし方向を安定させる。しかも横回転を加えてさらに安定を図る。命中率を上げるならばバレルを長くすればいいのだ。ということで加速距離も長くしてみる。
そして発射。今度は命中した。
カエルの首のあたり。
「げろげーーー!(怒)」
ビシッと当たった。カエルが怒った。だがそれだけだ。
「あれー?」
『威力が足りないでありますな。あのカエルの皮は結構丈夫でありますよ』
そう言うことは早く言って…
それでも石はテニスボールぐらい、スピードは野球選手の全力投球ぐらいはあるはずなのだ。人間なら大怪我というか命すら危ない。
それが(怒)で終わりとは、おそるべし魔物。
そして今度の攻撃で居場所がばれた。即座にカエルの反撃が来る。
カエルの頭上に水の玉が浮いて、それが勢いよく撃ちだされてきたのだ。
「わわっ」
慌てて木の幹の反対側に移動する。
蜘蛛ヒーロー状態なので落ちる心配とかはないし素早い動きだ。
まあ、結構狙いが甘いので当たりはしなかったけど。
「やーい、ピッチャーノーコンだよー」
他者のことは言えないだろ、お前!
「しかし手数が多いな」
水の玉は断続的に作り出され、継続的に撃ち込まれてくる。木の幹に当たってバシッとお音を立てるような場面もある。
「あの水はどこから来てるんだ」
『あの水は魔法で作っているでありますよ』
「ええ? あいつも魔法使うの?」
水系の魔物なのでなんか別の力だと思ったらしい。
だがカエルがやっているのはアルビス達が魔法として使うそれと同じ現象だ。
本当の水ではなく一時的に顕在化させた水。水のフリをする魔力なのだ。
「びっくりだ」
カエルが魔法をイメージするのを想像して…違和感がある。
自分が魔法を使うときは結構頭を使っているのだ。
カエルの知能はそんなに高いのだろうか?
であるならば少し考えを改めないといけない。と思った。
『そう言うわけではないでありますぞ』
だがあっさり否定される。
『魔物は本能で魔法を使うであります。
あれは生まれたときからそういうものとして刻み込まれた魔法でありますから別に頭は使っていないであります。
そしてそういう魔法を使う魔物はたくさんいるでありますよ』
つまり頭を使って魔法を使っているわけではないのだ。魔物として存在する初めから何ができるというのが存在そのものに刻み込まれている。つまり脊髄反射的な魔法と言えよう。
だから魔物たちは水を撃ち、火を吐き、大地を砕く。
それが魔物。
どうやら魔物というのはアルビスが思っていたよりも危険な生き物らしい。
村のなかで見る魔物って基本家畜だから、あまり怖い感じはなかったのだ。
◇・◇・◇・◇
さて、アルビスはカエルを倒すために威力のある射撃魔法を作ろうと考えたわけだ。
普通銃弾というのは鉛で作られる。鉛というのはかなり柔らかい。
ではその柔らかいものがなぜ破壊力を持つのかというと運動エネルギーによるのだ。
鉛は重くて加工のしやすい金属だ。
つまり重たいものを極めて速く。この二点が銃の攻撃力なのだ。
(となると銃弾に一番いいのは…劣化ウラン?)
いやいやそれはダメだろ。
確かに劣化ウランは比重が高い金属であり、つまりエネルギーが大きくなる。
しかも自己先鋭化の性質を持ち、劣化ウラン弾は自ら尖る性質を持つ。しかも着弾した後高熱を発して燃え、しかも大気中に拡散する性質を持つため焼夷効果が発生する。
つまり武器としてかなり強力なのだ。
半面重金属としての科学的な毒性を持ち、もちろん放射性物質なので運用が難しい。
なのでペケである。
(となると…タングステンかな)
Good。タングステンはやはり重い金属で、しかも固い。安全性も高い。地球では希少性ゆえに高価になるのだが、魔法で作るのなら問題ない。
しかし作れるのか?
「よし行くぞ、タングステン、タングステン…タングステン…あり?」
脳裏を何かがよぎったような気がした。
それはタングステンの原子モデル。
どこまで趣味の範囲が広いんだアルビス。
原子というのは原子核とその周囲に配置された電子によってそれがなんであるか決定されるものなのだ。核の性質によって電子の取りうる軌道が決まり、量の範囲も決まってくる。この組み合わせによって原子の性質は決定される。それはつまりH(水素)もFe(鉄)も同じルールで存在し、その構造が違うだけで結局原子核と電子で出来ている。といっていい。
で、アルビスの脳裏をよぎったのは以前科学雑誌で見たタングステンの原子構造モデルだがそれは本当に一瞬で、まるで指の間を砂がすり抜けるように通り過ぎてしまった。
だがそれだけで十分だった。
魔力で作られたなんちゃってタングステンが実体化する。
銃弾というよりはそれは小さな杭だった。
薬莢が必要ないのでその分長いのだ。
空中に浮かぶそれに巻き付く魔力。
無属性の魔力がバレルを構築する。筒状の魔力の塊。
「うーん、あとは加速の方法だな」
銃は火薬の爆発で銃弾を加速する武器だ。だが魔法でやるのなら爆発を作るより、別の方法の方が簡単そうに思える。
つまりレールガンだ。
(後ろに反発を作ってバレルも加速するような力場で…)
イメージは出来た。あとはお試し。
シュドン!!
撃ちだされたタングステンの杭は空気を切り裂き鋭い音をさせた。超音速だ。
魔力レールガンの誕生だった。
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現在四月
アルビス3歳七か月
双子1歳3か月。




