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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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01-11 春~狩猟大会~脱走

第11話 春~狩猟大会~脱走



 あっという間に次の春。4月である。

 冬の間の出来事は穏やかな日々だったといっておく。


 収穫も悪くなく、領内では食糧不足に陥ることもなかった。

 ここは開拓村で、魔境のそばなのだが、魔境というのは一年中獲物が取れる場所なので食料という意味では恵まれた場所なのだ。


 秋が深まると収穫祭をやって冬の支度。

 食料の備蓄とかだな。


 アルビスも便乗して自分のストレージに食料をしまい込んだりしました。


 それが終わると雪が来る。

 もう三歳なので今年は少し雪遊びに参加させてもらった。


 橇に乗って引っ張ってもらったり、引っ張ってたコンラートが躓いて雪まみれになったり、雪ダルマを作って双子に見せたりした。

 ちなみに公害なんかは全くない世界なので雪は食べられます。

 もこもこに着ぶくれて雪まみれの冬だった。


 そして年が明けると双子も晴れて一歳。


 この世界、子供の生存率は高くない。

 なので大人たちは子供たちの安全のために気を使っていた。

 もちろんアルビスも双子の安全のために気を使った。


 害獣駆除から始まりクリーンで清潔に気を配り、ハイ・ヒーリングで家のみんなをちょっとずつ癒した。


 アルビスは自分が保護者の立場で行動しているのだが、他の大人にとってはアルビスも保護対象だという事実を本人は完全に失念している。

 まあ、大人たちも知らないうちにアルビスにほんわか守られていることに気が付いていないからお相子(?)なのか?


 そんなわけで双子の誕生祝は大いに楽しんだアルビスだった。テンション高かったんだよ。


 そして春が来て四月。

 四月にはイベントがある。


 魔境の近くは食料が豊富といったが、それはとりもなおさず魔境には食べられる魔物が沢山いるということなのだ。

 魔境にはランクがあって、レベルⅠからレベルⅤまであるのだ。Ⅰが安全性が高く、Ⅴはすっごいのである。

 人間が開拓村を作るのはレベルⅠ、レベルⅡの所、レベルⅢは魔物が強くなってコストパフォーマンスが悪いのでなかなか開拓には向かない。


 そんなレベルⅠ~Ⅱの魔境がアルビスの村の脇にある魔境であった。


 レベルⅠ・普通の村人でも大丈夫でしょう。

 レベルⅡ・ちゃんと訓練してから行くようにしてね。


 そんな感じである。


 ちなみにⅢ、Ⅳは冒険者などの狩場として利用されている。魔物の素材は重要な資源だからね。


 Ⅴになると危険度が半端ないから狩りに行くにしてもすごい腕の立つ人達ぐらいだろうね。その代わり実入りはものすごくいいみたい。


 閑話休題。


 で、雪のあるうちはそうでもないのだけど、雪が解けるとその豊富な食料…じゃなくて魔物が結構村の方までやってくる。

 春だからである。『蠢く』は春になると有象無象がいっぱいという意味である。

 なのでこの時期村人たちは徒党を組んで大規模な狩猟大会を催すことになるのだ。


 それが今日。


 この日、領主である父コンラートは家族や家人(メイドや兵士)を集めて演説をぶった。アルビスも参加している。

 三歳だから領主家の一員としてそういうのが求められるのだ。


「村人に注意喚起をする前に諸君らに事前に注意を促す。

 春になれば何が出るのか。

 そう、魔物が出るのだ。

 冬の間、雪に閉じ込められていた魔物、魔獣が活発に活動するようになり、放置すれば村にも被害が出かねない。

 この辺りの魔獣は大人にはあまり脅威にはならないが村の子供達には間違いなく脅威である。

 我々はこれを間引き、村の、家族の安寧を勝ち取らなければいけない。

 諸君の奮戦に期待するや切である」


「「「「「「「「「「おお――――――――っ」」」」」」」」」」


 テンション高いなーと思うアルビス。


「今日はカエルが取れるかな。あれはうまいんだ」

「いや、それよりも芋虫だろう。子供たちに食わせてやりたい」

「肉、肉、肉、肉、酒、酒、酒…」


 一部ダメな人も混じっている。だがテンションが高いのもなんとなく分かった。


(冬の間は基本的に干し肉だからな…新鮮なお肉が食べたいんだね)


 偶には冬でも獲物があるのだが、それは村に行き届くほどではない。

 野菜は土に埋めたり、干したりといろいろやり様があるのだが、肉の保存方法は限られる。普通に食べられる肉は干し肉か塩漬け肉だ。

 そりゃ村人のテンションも高いだろう。


 それにしても。


「いっばいいるね」


「はい、領内の二つの村からも人がきていますから。みんなでこの辺りの魔物を全部奥に押し返すんですよ。

 そんでお肉祭りです。おいしいですよ~」


 エミルちゃん、若いだけあって肉食である。成長に必要なのだよ、お肉が。


 そして景気のいい太鼓の音とともに村の男たちとやる気に満ちた女の人の一部が手分けして森に進攻していった。


 そして残った大人たちも運び込まれるだろう大量のお肉の処理のために準備が忙しい。

 それはつまり。


「ちゃーーーんす」


 なのであった。


◇・◇・◇・◇


 まず為すべきは双子の御機嫌うかがい。


「にーに」

「あうー」


 よちよち歩きながら兄と呼び掛けてくる双子についふらふらっと…

 ここは誘惑を振り切って…なんて真似ができるはずもなく、積み木を積んで崩して楽しいひと時。

 お昼を食べたら二人はお眠。

 アルビスも昼寝の時間だけど当然そんなことはしない。

 抜け出すのだ。


「さっ」

「さささっ」


『いちいち擬音口に出すのは意味があるでありますか?』


「あるよ、イメージ大事」


 そう、遊んでいるのではない、イメージの訓練をしているのだ。

 それに擬音もイメージを誘発するのに役に立つ。漫画文化の賜物である。


「しゅぱっ」


 小さな声で呟き、アルビスが右手を振る。

 そこから伸びる魔力の糸。それは天井とアルビスをつなぎ、次の瞬間収縮してアルビスを天井に運ぶ。そして無属性の魔力に支えられたアルビスは天井に張り付いて見せた。


 その下を荷物を抱えて歩いていくメイドさん。

 そのままアルビスは天井をシャカシャカと歩いて外に飛び出した。

 初めての一人外出である。


 アルビスの家は村のほぼ中央にある。

 領主様の屋敷だから。というのもあるんだけど、いざというときに指揮所みたいに使える方がいいということで、家のそばには広場や半鐘の吊るされた櫓とかもあって司令部、の役割も果たしているのだ。


 なので森までちょっと距離がある。


「せっかく出たんだから森を覗いてみよう」


『村ではなくでありますか?』


「村の中はそのうちお母ちゃんが連れていってくれるよ」


 アルビス君普段は母様というけれど、一人の時はお母ちゃんである。日本の時の癖が抜けなかったりする。


 アルビスはそのまま魔力の糸を伸ばし、建物の屋根の上を移動しながら森に向かった。

 そこにはいったい何が待つというのだろうか…


「たぶん魔物だろ?」

『あと木とかもいるであります』

「木はまってないだろう」

『魔物だってたぶん待ってないでありますよ。待っているとしたらご飯であります』


 うむ、そういう待たれ方はうれしくないのだ。




 現在4月

 アルビス3歳7か月

 双子1歳3か月


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