01-10 即死魔法~にゃんこ~アルビスよどこいくねん
第10話 即死魔法~にゃんこ~アルビスよどこいくねん
「よし、じゃあ杖の名前は当然【ケリュケイオン】だ…あうっ!」
名前を付けた瞬間、ぱちんと火花が散った。
その火花自体は大きな問題ではなかった。強めの静電気みたいなものだ。
だがその後すぐに目の前に浮かんでいたエディターがくるくると丸まって丸い、虹色の玉になってしまったのだ。
「あれ?」
『あれれれれ? 変であります。これから能力の設定をしなくてはいけないのに…なぜでありますか?』
「これって何なの?」
『えっとでありますな、本来この後。能力の設定が始まるであります。どんな属性のどんな能力を持つのか…
できることできないことがあって、それを試しながら最大限の性能を目指すでありますよ。
なのにそれをすっ飛ばして武器の生成の繭ができてしまったであります。
何でこうなったか、分からないでありますよ…』
「と言われても僕もわからない…これで、武器の生成自体はうまくいっているの?」
『えっと、はい、問題なく生成が進んでいるでありますな。中の武器が十分に成長すると繭から出てくるであります』
「うーん、それなら…
それでいいんじゃない?」
『なんとーーーーっ、であります』
「でも他にできることってないし、出来ることがないなら放置だよ。そのうち何とかなるって」
『それは確かに…そうでありますな…』
悩んでも仕方がないものは悩まない方が賢いのである。
とりあえず自分にできることは魔法の研究と弟妹達のお世話。そう腹をくくって日々を過ごすアルビスだったがその後長い間武器は完成しない状態が続く。
まあ、仕方ないね。
◇・◇・◇・◇
「ほらー、二人ともこっちおいでー」
双子が遊んでいる部屋の中。アルビスにじゃれつく双子をベアトリスが呼んでいる。
「「あー」」
でも双子はかまわずにアルビスにじゃれついている。
(うおおおっ、ええ子じゃーーー)
母親よりも優先されてちょっとだけ優越感。アルビスはうれしくて二人をわしゃわしゃ撫でて頬ずりしてキスをする。激LOVE。
双子に優先されるとなんか(超)うれしい。
「もう、おっぱいの時はすぐ来るのに~」
ベアトリスがぶーたれるが、その時双子はくるりと向きを変えてベアトリスに向かっていった。
アルビスと言えどもおっぱいには勝てないのだ。
おっぱいという言葉につられる弟妹達。仕方ないなと肩をすくめる。
双子のおっぱいよこせ攻撃に授乳を始める母を見て「へいわだなー」…アルビスよ。お前は三歳だぞ。
そう、現在は九月。アルビスは九月生まれ。だから三歳になったのだ。
日本のような誕生日はないが、それでも誕生月になるとおめでとうの言葉とちょっと素敵なご飯はあったりする。
なので今月はアルビスは基本ご機嫌である。まあ、大概いつでもご機嫌なんだけどね。
だがその瞬間、アルビスの警戒網に敵の反応が!
そう、敵はたくさんいるのだ。家の中にもそれなりに。
例えば鼠とかGとか。
日本ではある程度克服されているがこの世界では超級の生活害虫、害獣だ。
なんといっても怖いのは疫病。
あとハエが多いのも悩みの種。
今回索敵にかかったのは一番警戒が必要な鼠だった。
(この世界に黒死病があるかどうか知らないけど、鼠は放置できない)
鼠が脅威になるのは周知の事実のようで、この村でもネコや毒のない蛇などは大変にありがたがられている。
基本的に何でも食べちゃう人たちだけど猫と犬と蛇は対象外。亡くなっているのを見かけてもちゃんと埋めてやってます。
それほど彼らはありがたく、鼠は脅威なのだ。
あと蜘蛛とかゲジとかも益虫なんだけどこちらは見かけた女の人は大概悲鳴を上げて逃げる。
頑張れと言っておこう。
さて、アルビスにとって現在鼠などは脅威にはならない。
まず魔力識覚(略して魔識覚)で鼠を観察、そして鼠に対して魔法を発動。
(くらえ【入滅陣】!)
鼠の周囲にうっすらと暗い魔力の玉が出現する。それは黒い霧のような魔力で作られたものだった。これが死滅属性魔力。
魔力は縒られて鋭い針に転じる。
魔力にまとわりつかれ逃げられない鼠に一本の針が突き刺さる。斜め上、少し後ろから。鼠は〝ヂッ〟と泣いて激しく暴れる。だが針は微動だにせず、貫かれた鼠も逃れられない。
そしてさらにもう一本。反対側から黒い針が撃ち込まれ、その瞬間鼠は縫い留められたように動きを止めた。
そして最後の針が…鼠の正面から心臓を貫くように、固まって震えることしかできない鼠に打ち込まれ、そして鼠はすべての力を失って頽れた。
これがアルビスの創り出した即死魔法。入滅陣だった。名前はなんとなくかっこよさげだから決めた。うん、そういうのは大事だ。
アルビスはこうして家の中のネズミやGなど害獣、害虫を駆除しまくっているのだ。
この魔法はアルビスオリジナル魔法として登録された。オリジナル魔法だとネーミングの権利があるんだよね、だから同じような魔法を誰かが使ってもそれは入滅陣と呼ばれることになる。
大変名誉なことなのだ。かっこいいから。
そしてそのことで恩恵を受ける生き物もいる。
害虫を食べる虫や鼠を食べる蛇や猫だ。
特にネコたちは魔法の気配に敏感なようで。
(おっ、さっそく来たな)
アルビスの魔識覚の中で鼠が倒れた梁の上をゆっくりと進んでくる生き物の影。
「ぬこだ」
ねこだよ。
その猫はこの家に住みついている猫だった。
飼っているとは言わない。
ねこたちは自給自足しているから。まあ、冬の間とかはご飯をもらえるのだが、フリーダムに動き回って暮らしているので飼い猫ではない。
多分人間のことを『自分の別宅の中にいる同居人』ぐらいにしか思っていない。
ちなみにアルビスの家をメインの拠点にするこの猫は『もっぷ』と言います。
長毛種で冬場は毛が長いのでアルビスがそう呼んでいるうちにそのまま定着してしまった名前だ。
夏場は少し毛が短くなってスマートなのだ。
それはさておき、この〝もっぷ〟ちゃっかりねこさんだったりする。
アルビスが鼠を狩りまくるのを理解している節があり、アルビスが魔法を使うとそこに直行して鼠をゲットしているのだ。
しかもそれなりに才能があるようで最初のころはどんな魔法にも反応していたのだが現在は即死魔法にのみ反応し、しかも何をかぎ分けているのか害虫は無視して鼠の時だけ出動している。
しかも、その鼠を手下に分け与えたりしてちゃっかりとボスネコになってしまっている。
唯一の問題は…
「ぎゃーーーーーーーーーっ」
「また、この馬鹿ネコ!」
ゲットしたネズミの死骸をアルビスに見せに来ること。
(これっていったい何なのか?)
『感謝と成果の確認であります。鼠を見せることで魔法の検証に協力をしているのでありますよ』
でもいったん見せるとすぐによそに持って行ってしまう。
困ったものである。
鼠の死骸なのでアルビスさっとクリーンの魔法を発動させてその場をきれいにし、知らん顔である。
こんな感じでアルビスが衛生環境に気を配るので、この家はなかなかに清潔な家になっている。
小さい双子のためにもアルビスは一切の容赦をすることなく鼠、蝿、G、カマドウマなどを駆除しまくるのであった。
『ものすごく即死魔法が上達しているであります。発動回数と都度コントロールが精密なので精度が半端ないでありますよ。
マスター殿はどこを目指しているでありますか?』
それはアルビスにもわからない。
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アルビス3歳になりました。
双子8か月




