04-06 どらごんすれいやー
第6話 どらごんすれいやー
お茶をしながら、と言っても別に茶店があるわけではないのだ。
その代わりにこの船、千年龍王号(ミレニアムドラゴン号)には前述の通り船尾楼が付いていた。
船尾にある客室で、そしてアルビスたちの部屋もここにあるわけなのだが、船尾楼の一番下の階層は展望台(?)になっていたりする。
下が展望台? と思うかもしれないが、空の上なので、上を見ても面白いものなどないのだ。雲と空しか見えないからね。
空の上でなら一番の見どころはやっぱり地上を見下ろす大パノラマではないだろうか。
この船尾楼は船体より少し大きめに張り出すように作られている。そしてその斜めの壁は艦橋と同じ透明の素材で作られていたりするのだ。
つまり窓に張り付くとはるか眼下に地上の風景を見ることができるのだ。
この展望室はコの字型のスペースになっていて、そこにテーブルやいすが固定されていて、眼下の景色を見ながらお茶や食事を楽しむことができる。
つまり展望ラウンジだろうか。
コの字のへこんだ部分には厨房があって、お茶やお菓子、料理などが作られている。
こうしてみるとこの天翔船はもともとが遊覧用に作られたものなのかもしれない。
そこで双子は下を見て『きゃーこわいのーーーーっ』『キャー――逃げろー』とか言って走って戻ってきて、でもその後また下を覗きに行って怖がって戻ってくる。なんてことを繰り返している。
この感覚にはアルビスもなぜか賛同できてしまったりする。
『自分で空飛ぶときは全然平気なのになんで高いとこに立って下見ると怖いんだべか?』
不思議だね。
しかも怖いのに覗かずにいられないのだよ。
ちなみに双子のお守りはケイトとモニカ。
ケイトは双子を追いかけて、でも怖すぎて立っては動けず、座り込んで這いずるように双子を捕まえようとしていた。彼女は高所恐怖症かもしれない。
ちなみにモニカは平気。
彼女は内心『もう私、大概のものはこわないで…』とか思っていたりする。
確かに彼女の出くわした魔獣は恐怖の対象だったろう。変態だしね…
さて、そんな騒ぎをしり目にレムニアとベアトリスと船長。そしてアルビスの四人はテーブルについてお茶を飲んでいた。
当然お茶請けもある。あるのだが紅茶におせんべいはいかがなものか…
『うむむ、これはなんとも…そうだ。別のものとして考えればいいんだ。
僕はおやつでおせんべいを食べて、せんべいを食べ終わってから別に紅茶をのむ。
うん、これだ』
パリポリパリポリおせんべい食べる。塩味だ。
まあ、醤油は今のところアルビスしか作れないので当然である。
『うわー、おいしい。
懐かしい。これってやっぱり日本人のソウルフードの一つだよね…はっ!』
「おせんべい! せんべいがあるってことはお米がある!?
これって、確かずっと西の方の国でしか取れないってきいた」
アルビスおくれて気が付きました。
当然お米のありかはクロノを通して精霊ペディアで調べてみたのだ。
だが結果は残念なことに昔に一度壊滅的な被害を受け、現在はずっと西のナンチャラいう国で細々と作られているだけ。という検索結果だったのだ。
「おお、アルビス君はよく知っているね。確かにこれは遥か西方のパルパットという国で作られている作物なのだよ。
いまだに国交もないのだが、先日交易船がやって来てね…」
まあ、大航海時代のようなものなのだ。
荷物を積んで冒険の旅に。さあゆこう! みたいなやつなのだ。
でも海のないアファナシア王国になして? という話なんだが、アーク帝国の方から陸路でやって来たんだとか。
そこで自分たちの食料として積み込まれていたお米と、その調理方法のいくつかが紹介されたそうな。
その時に作られたおせんべいが、まあ、たまたまこの船に、アルくんたちの歓待用に搭載されたと。
アルくんはちょっとがっかりした。
あまりに遠い国なので、行くのをあきらめていたのだ。
詳しい話を聞いてみないと分からないが、やっぱり遠い国のようだ。
「さて、話を戻しましょう。
ここに来ていただいたのは、先日のドラゴンの処理のことです」
「処理って、買い取ってもらうって話で聞いたんですけど…」
あり? なんか問題あったか?
とアルビスは考えた。
例えば商品に何らかの瑕疵があったとか?
「いや、それではないのだ。
ドラゴンを討伐した功績をどうするかという話なのだよ。
ドラゴンは討伐された。そしてその買取の話がまとまった。
ということは王が討伐したというわけではないわけだ。
ではだれが倒したか、そしてそれにどう報いるのか?
しかしアルビス君はまだ小さい。
ドラゴンを子供が討伐しました。ではだれも信じない。
そこでドラゴンが完全ではなく、倒しやすかった。という線で、みんなに納得してもらおうという話なのだよ」
何でそこまでしなくてはいけないのか? という感じはあった。
アルビスにしてみれば別に討伐者が自分でなくてもいいのだ。別に名誉とか必要とは感じないし。
だからこれも逆に王国の都合であるのだ。
もし王国のおバカ貴族がアルくんに絡んだ場合、アルくんの反撃で消し飛ぶ。
まあここまではいい。
だが貴族を消し飛ばされて、知らん顔は王様的にできない。
普通の流れなら『捕縛』とか『討伐』とかいう流れになる。
で、それで丸く収まるかというとそうはならない。
かなりの被害が出る。
まあ、王様の感覚だ。アルビスの能力なら被害どころか王国がデッドENDになってしまう。
知らないというのは幸せなことだったりする。
なのでアルくんに無理やりでもいいから『竜殺公』の称号を与えてしまおう。というのが王様の苦肉の策だった。
竜殺公というのは王国発行の称号で、一代限りの名誉貴族なのだが、その権威は大きく、王様以外、つまり貴族に対しては対等の立場で対応できる権利が認められている。
そしてアルビスは喧嘩を売られたら神様の許可もらってからぶっ飛ばすと宣言している。
相手が侯爵だろうと伯爵だろうと、対等の立場で戦争をして、負けた方が死んでも、それは負けた奴が悪いのだ。
これなら王様が討伐とか考えなくてもいいのだ。つまり王国に被害はないということになる。
そして弱体化していたと説明されても、――まあ、万全のドラゴンではなかったのでその通りではあるのだが――ドラゴンを倒せるというのは相応の力の証明でもあるのだ。
まず抑止力としても機能する…といいなあ。という思惑もある。
例えば剣聖に喧嘩を売るやつはバカなのだ。勝てないのに喧嘩を売るのだから。
同じように竜殺公に喧嘩を売るやつもばかなのだ。
馬鹿が死んでも自業自得で王国にはかかわりはないのだ。
えんがちょなのである。
そこら辺の説明をアルビスはレムニアと船長から切切とうけた。
『うーん、確かに面倒ごとが減りそうな予感…』
アルくんは自分を知っているし、自重する気はないのだ。
大っぴらにしなければもめごとも起きない可能性がある代わりに、問題が起きれば大惨事間違いなし。
それなら問題が起きる可能性が上がっても、被害が少なくする方がいいかなとアルビスも思う。
『うん、正当性が万全なら、最初の一回か二回、徹底的にやれば後は静かになるよな。
その方がお母ちゃんやチビたちの安全も確保できるかも…うん。なんか称号とか面倒くさそうだったけど、【どらごんすれいやー】か。悪くないかも…かっこいいかも』
アルビスも男の子。
「アルビス君には悪いことが起きないように配慮するといっているから、面倒なことは当面はないと思うよ。
まあ、大人になったら式典とかそのぐらいは出ないといけないかもしれないがね。
そのあたりも王都で陛下から説明があると思う」
「まあ、細かいところは私に任せておきなさい」
レムニアもそう言うからまあいいか、なアルビスだったりするのだ。
つまり船長たちの仕事はアルビスに竜殺公の称号を受け取ってもらうための説得だったわけだ。
それはこの時点で成功したといえるだろう。
他にはドラゴン素材の買取額の説明とかもあった。
その額金貨8000枚。
日本円なら16億円ぐらいの価値だ。
「え゛?」
頭で計算してさすがにびっくり。
ただこれはほとんどが竜核の値段だったりする。
考えてみてほしい。
戦艦一隻を稼働させるためのジェネレーターのお値段だ。しかも半永久的に、タダで使えるジェネレーターなのである。
100億だってはしたがねだ。地球だったら1000億でも飛びつく奴がいくらでもいるだろう。
で、その内訳としてはアルビスが4000枚、双子が2000枚ずつということになる。双子はさすがにドラゴンスレイヤーというわけには行かないのだが、報酬はちゃんともらえるのだ。
ちなみにアルビスは金貨4000枚を低金利でレムニアに貸し付けることにしました。
「うううっ、ありがとう、アルくん…おばちゃん頑張るわ」
20年ローンで利息の総額が400枚固定なのでほとんど慈善事業である。
薄利ながら確実に稼いでいくアルビスだった。
「にいさまー、魚ー」
「お魚がでたー」
そんな折双子が飛んできてそうまくしたてた。大興奮である。
どうも魚料理が出たわけではないらしい。




