04-05 竜核
第5話 竜核
「うわあ…ダイヤモンドみたい」
「変な形ーっ」
「変なのー」
アルビスたちが機関室に案内されてまず見せられたのはこの船の心臓部とでもいうべき魔核のところだった。
それを見て各々に感嘆の声を上げる。
魔角は魔力の結晶として様々な動力に使われている。使われ方としては電池のようなものだ。素材の質というのはあるが、各々砕かれ、手を加えられ、再生成されて規格のある球形の電池に加工されるのだ。
だが、魔核はそれとは一線を画する。
これは一言で言うとジェネレーターなのだ。しかも燃料は世界に存在する魔力的な何か。
じかん辺りに使用できる量に限界はあるものの、それを超えなければ半永久的に魔力を供給し続ける永久機関である。
いやー、実にうらやましい。
その魔核がこの部屋の中央。まるでカプセルの中のような丸い部屋の中央に、金属素材や魔物素材でくみ上げた複雑な構造物の台座の上に安置されている。
少し離れてみるとこの構造物が立体的な魔法陣だと気が付いただろう。
双子は口をそろえて変な形と表現したが、それはほかの大人たちも同じだった。
いびつで、捻じれたなにかを組み合わせたような有機的な構造物。
ただアルビスの感想は少し違って、アルビスにはそれは〝色のついたダイヤモンドで作った心臓〟に見えた。
以前図鑑で見た人間の心臓よりも複雑な構造をした奇怪な心臓。
人間の心臓は心室と心房という部屋が二つずつあり、それぞれに大きな血管が伸びているのだけれど、この心臓はちょっと見でその部屋の数が多い。おそらく8個ぐらい。
そして当然そこから伸びる血管のような筒も当然多いのだ。
さらにはその血管と思しき部位には銀色のパイプがつながれていて、魔法陣の中、あるいは壁の中へとつながっている。
そしてじっくり見ているとこのユニット、ゆっくりと、静かに拍動していたりする。
「心臓みたい」
アルビスが口にする。それにはハーン船長が応えた。
「おお、少年、さすがの慧眼だね」
船長は顎をさすりながらその正体を告げた。
「これは君らが倒したドラゴンの心臓なのだよ」
「「「ええーーーーーっ」」」
子供たち吃驚。大人たちは知っていたらしい。
船の心臓は文字通りに心臓だったのだ。
「その割に小さくない?」
でもアルビスはまじまじとそれを見てしまう。
銀色のパイプが壁までグネグネと伸びているので実際の大きさは分かりづらいのだが、心臓自体の大きさはたぶん50cmぐらいにみえた。
10メートルもある巨大生物の心臓としては小さいような気がしたのだ。
「うむ、確かに小さく見えるね。だが、この心臓でこの船が使うすべてのエネルギーを賄っておつりが来るんだ。
さすがドラゴンの魔核というところだね。
じつをいうと魔核というのもいろいろな形があるのだけど、この心臓型が、一番、こういった魔導機械の心臓部に向いているといわれているのさ」
へーほーとアルビスは感心する。
魔角というのは魔物の体のどこかに生えている角のようなもので、多くの魔力を含んでいる魔力の結晶体のことを言う。
対して魔核というのは長生きした魔物や、強力な魔物の、その体の重要な部分が、魔石化したもので、これはめったに手に入らないものだったりする。
そして魔物は動物型のものばかりではない。植物型や昆虫型、果ては不定形までいろいろで、魔物によって魔核も、もしも取れればだがいろいろな形がある。
性能的にも一定の魔力を流し続けるのに向いているものや、断続的に使うことで回復力が高まるものなどいろいろある。
この心臓型は低出力や高出力への対応に優れた魔核で、こういった出力の切り替えが必要な魔動機械に向いたものと言われているのだ。
「実を言うとね、この千年龍王号は長らく退役していた船なんだよ。
随分昔に魔物との戦闘に駆り出されてね。
その時もともとの魔核が酷使され、力を使い果たし崩れてしまったのだよ。
今回、君たちがこの竜核をもたらしてくれたことで復活できた。
当時私はまだ若くて、下っ端の船員でしかなかったが、この船とともに魔獣と戦った日のことは今も忘れることができない。
この船が復活し、そして私が船長として就任することができたというのはまるで夢のような話なのだよ」
船長はアルビスの手を取り、ありがとうと口にする。
双子もトコトコ寄ってきてあくしゅあくしゅ。
王国はこの船のほかにも一隻の魔導天翔船を持っていて、ハーン船長はそちらで副長を長く勤めていた人だ。ちなみにこちらはもっと小型でデザインも違って高速型だったりする。つまり王様の特殊な移動手段というのはこっちのことなのだ。
なのでハーン船長にとってこれは夢のような返り咲きだった。
彼は振り向いて竜核を見つめる。
その瞬間、竜核の拍動が、早くなった。
ドクンドクンと心臓のように。
「わっ、動いたの~」
「どくどくいってる」
「はははっ、これこそが心臓型の魔核が大型の魔動機械に最適と言われるゆえんだね」
そう、生き物と同じように、多くのエネルギーが必要な時は、その拍動が速くなり、それに比例して出力が上がるのだ。
人間の脈拍が運動量によって変わるように。
「船長、出発の準備が整いました。艦橋にお戻りください」
「うむ、さあ皆さん、今度はこの船の艦橋にご案内しましょう」
◇・◇・◇・◇
魔動天翔船の操舵室は船体の中央、前よりについている。
マストとマストの間に箱型の構造物があり、それが艦橋として機能するようにできているのだが、この艦橋、中に入ると半天球状の視界を確保していた。
つまり透明のガラスのような素材で壁と天井が作られているわけだ。まあ、大きさの関係か、仕切りは入っているのだけどその視界は広い。
アルビスは興味を惹かれて触ってみるが、ガラスのような冷たい感触ではなかった。お城の窓などに使われている透明板とも感触が違う。
「これなんで出来てるの?」
「あはは、やはり気になるよね、これは甲殻獣の殻を磨いて作るんだよ。
少し暗い色のやつと、透明な奴では種類が違うんだよ。
それはね…」
ブリッジ要員の一人が語り好きの人の様でうんちくを垂れ始めたが…
「気持ちは分かるが後にしなさい、今は出航の時間だ」
船長にたしなめられて止まった。
そしてその場にいる数人がてきぱきと仕事を始める。
まず黒い船体全体にスキャンするように光が走り、ついで船体に施された金、銀のラインが仄かに光り始める。
同時にマストにかけられた帆が、まるで風を受けたように膨らみ、その瞬間、ふわりと足元が揺れた。
外の景色から船が滑り始めたのが分かった。最初は普通に水の上を進むらしい。
だが最初横に動いていた景色が斜め下に動いていく。
あっという間に浮上が始まったのだ。
あとはまるで水上を走り出すように空中を走る帆船があるだけだった。
船長は当然全体の管理をするので、操舵は操舵士がやる。
操舵というだけあって、操縦席には舵輪がくっついているのだ。
操舵室の前方、少し右側に立った状態で操る舵輪があって、そこから弧を描くように台のようなものが、主に右側に長く伸びていて、そこに計器類や、いろいろなスイッチ、レバーなどが付いている。
船長は少し高くなった場所に座り、全体を見回しながら指揮を執っている。
アルビス達は離水の瞬間は安全のために、観客用のシートにシートベルトで固定されていたりするのだが、それでも周りが見やすいように作られた観覧シートなので、見える光景は浪漫の一言。
飛行機よりもはるかに周りがよく見える。
ある程度高度が上がり、天翔船が安定飛行に入ると移動の許可が下りるので、まあ、壁のところまで言ってあっちへチョロチョロ、こっちへチョロチョロと。
これにはベアトリスなども思わず参加してしまったりするわけだ。
初めての空の旅だから仕方ないよね。
ただ空の旅というのは高度が上がると見えるところがない。空と雲だけ。
なのであとは飽きるだけ。少なくともこの艦橋では。
「さて、では皆さん、あとはお茶でも飲みながらお話をしましょうか」
船長がレムニアに目配せをする。
レムニアはそれに頷いて。
「さあ、アルくん、ちょっと大事な話があるのよ~」
アルビスをひょいと抱き上げた。
「な…何かな?」
レムニアの笑顔はちょっと怖かったりする。




