04-04 天翔船
第4話 天翔船
「ふぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
「「ふえぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」」
お迎えが来たのだ。
いや、別にあの世に引っ越そうとか言う話ではない。
王都からのお迎えが来たのだ。
そのお迎えを見てアルビス達は感嘆の声を上げた。
そこにあったのは船。
ただし空飛ぶ船。空飛ぶ帆船。大事なので二回言いました。
「まさか現実にこんなものがあるとは!」
という感じ。
「「わっ!!」」
デザインとしてガレオン船が近いだろう。
ただかなりファンタジーだ。
黒い船体に金と銀の装飾。帆も真っ黒で金の紋様が染め抜かれている。
船体には船尾楼もあってかなり細かい装飾が施されていて絢爛としている。
そこに小さい翼とか、魚の鰭のようなとんがりとかがくっついていて、他にもプロペラが内蔵されているらしい筒状のパーツが船体にいくつか取り付けられている。
この機械の名を『魔動天翔船』という。そのまんまだな。
「ウフフフっ、すごいでしょう?
結構早いのよ」
レムニアの言葉にアルビスははっとした。
「ひょっとして王様がひょこひょこやってきてたのって?」
これを使ったんだろうか? と思ったのだが、レムニアの返事は否。
「あいつが使っていたのは別のタイプよ。
このタイプよりずっと早いやつなの。
これは王国で2機目の天翔船ね~」
「へー」
そういうものもあるのか、ならちょくちょく来れるはずだ。と思うアルビス。
場所はアイゼンの町の外、町を流れた水が最終的に行きつく人造湖の一画。
霊峰からあふれる水は町の中に引き込まれて生活に供されていて、排水はたくさんのスライムたちによって常に浄化されているのだけど、その水が最終的な浄化を受けるために作られたちょっと大きめの湖だ。
沢山のスライムやたくさんの魚が住んでいて、かなりきれいな水がたたえられている。
しかも、化学物質が全くない世界だから、魚釣りや、夏場の水遊びの場所としても安心なのである。
その一角に桟橋が作られ、アルビス達はその桟橋で天翔船を見上げていた。
たいそう見ごたえのある光景だ。
双子もはしゃいでいるし、アルビスもはしゃいでいる。
ただアルビスの場合ちょっと方向性が違う。
「うーん、あの帆って普通の布じゃないよね…魔道具かな? それに船体自体も奇妙な魔力を感じるんだけど…」
好奇心旺盛。
「はははっ、よくわかったね少年」
チョロチョロしまくるアルビスに声をかけたのは黒くて金の装飾を施されたかっこいい詰襟の軍服に身を包んだ初老のおっちゃんだった。
髪は日に焼けて灰色で、しわが目立つようになった顔も日焼けしている。海の男と言った風情の恰幅のいいおっちゃんだった。
空の男だけど。
「お初にお目にかかるよ、私がこの『千年龍王号』の船長を務める『ソロン・ハーン』だ。この船の恩人にあえて光栄だよ」
ハーン船長はレムニアに敬礼で挨拶をした後アルビスに笑いかけ、握手を求めた。
「あの船は昔倒された巨大な竜の骨を文字通り竜骨として使っているんだよ。ああ、竜骨というのは船の一番大事な背骨のようなものだね。
これは魔力を流すと強い浮力を発生させる性質があってね…」
いろいろと船の構造物をくっつけてもふわふわと漂うぐらいには浮くらしい。巨大なドラゴンが見合わない羽で自由に空を飛べるその理由だったりする。
浮いているのだから帆やプロペラで推力を作れば、海の帆船と同じように航行できるわけで、船体に刻まれた金と銀の装飾や、帆に描かれた文様は特定の魔法を発生させる魔法陣だったりするのだ。
そしてこの巨大な魔道具を稼働させる心臓部になるのは高レベルの魔核だ。
魔核というのは魔角と違って放置しておくと魔力を回復する性質があり、使用量次第では『永久機関』たりうるものだ。
そしてこの船に使われている魔核は浮力や推力、そしてハッチの開閉、荷物の積み下ろしのためのクレーン。そして攻撃システムなどの魔力を賄って、おつりがくるほどのものだった。
つまり『タダで←ここ大事』で、しかも『永久に←ここも大事』使えるジェネレーターなのだ。
素晴らしい。
そしてハーン船長はアルビスをみて意味ありげに笑った。
「?」
「さあ、乗りたまえ、中もなかなか居心地がよいよ、先日改修が終わったばかりなんだ」
「はい」
「きゃー、すごいのー」
「かっこいいーーーっ」
一番最初に突撃したのは双子である。
「二人ともお待ちなさい」
「まって下さい」
そして後を追いかけていくのがケイト・セスタ男爵令嬢。
先日の一件で取り立てられて、その後、人となりや能力を買われて現在はレムニアの秘書官の見習いになった少女だ。
直接の上司はマイア侍女長なんだが、マイアが侍女から参謀まで含めた何でも屋なので、その下で便利使いされるのが宿命の人である。
期待通りに仕事のできる女の子だったが、どうにも無類の子供好きで、孤児院の方にも顔をだし、双子が騒いでいればかまいたがる。自分で仕事を増やしちゃっている人だ。
でもそういう性格が好まれてスクード最強の漢女にも可愛がられている。
将来有望な苦労人であった。
今回の旅にも下っ端侍女として同行することになっている。秘書官なのに。秘書官なのに。
そしてもう一人がモニカちゃん。
彼女はマニアックなオークに襲われていた女の子だ。保護された後、エレウテリア家で試用期間を過ごしていたが、何とか正式採用にこぎつけた。彼女自身は真面な人だったのだ。
今はどこも人手不足なので『真面目』でさえあれば採用される可能性は高い。しかも高給取り。うらやましい限りである。
そんなこんなで乗り込んだ船内。
今回の旅のメンバーはレムニアと侍女、秘書、護衛。
エレウテリア一家と侍女、護衛。
でもモップは留守番。
アーマデウスとかマイアとか、有名どころも留守番である。
そこら辺のメンバーがいなくなると領地が回らなくなるから仕方ないのだ。
スクード領はまだ人手不足から全く抜け出せていないのだった。
なので旅の面々が『王都でよさげな人がいたらぜひスカウトしよう』と思っていることは公然の秘密。
さて、船内の様子だが、これもなかなか良かった。
構造が船なので、通路は狭い。みんなが通されたのはお客様用のキャビンで、この辺りは少し通路が狭いぐらいなのだが、他の場所は狭いうえにパイプみたいな構造材がむき出しの所もあって、十全な活動には慣れが必要だったりする。
慣れない人は走っちゃダメな空間だ。
まあ、でもキャビンのある船尾楼内部はゆったりしているし、手の込んだ趣のある作りになっている。
「ふえー、ぜいたくー」
「「ぜいたくー」」
船室の中には絨毯が引かれ、ソファーがあり、テーブルがあり、ミニキッチンもあるし、お茶を飲むためのお湯なども魔道具で沸かせるようになっている。
寝室は続き部屋で、ベッドがちょっと小さいことを除けば物はいい。
従者用の寝室もちゃんとあって、こちらは三段の両脇ベッドの部屋で、アルビスは『こっちの方が楽しそうだ』とか思ったりしている。
なのでカナリアがちょっとうらやましい。
ちなみにこの世界の高級布団というのは魔物の毛とか皮とか毛皮とか使った結構寝心地のいいものだ。
貴族でも上位にならないとなかなか使えないもので、下級貴族なんかは干し草ベッド(ある意味それはそれで贅沢)だったりするのだが、この部屋には当然のように最上級品が使われていて、子供たちも喜んでいる。
従者用の部屋の寝具もそう悪くはないのだ。
ただアルビスのウォーターベッドの方が寝心地は少しいいかも。とか思う。
なので。
「うーん、部屋の真ん中にでっかいベットを出して寝るのもありか?」
ウォーターベッドも周りの人の協力で〝ボン〟と置けば使える物が開発されていたりするし、アルビスの空間収納には当然入っているのでやってやれないことはない。
「やめなさい」
でもママンの拳固で止められた。
そんな部屋を堪能(?)していたアルビス達だったが。
コンコンコンとノックの音が響く。
「みんなー、機関室が見学できるって、どうする?」
はい、レムニア様登場。
『ふっとわーくかるいなー』
たるんでいる時はポンコツで貴族らしくない偉い人なのだった。




