04-03 神器
第3話 神器
「神器って最近よく聞くけどなんなの?」
帰る道すがら、アルビスはクロノにそんな話を振った。
帰り道とは言え、やろうと思えばこれもまた修行になる。アルビスたちは重力制御での移動を訓練しつつ、話をしている。
重力制御で動きをサポートするのは意外と難しく、慣れないと急な加速や、逆加速で転げたりしてしまうのだ。普段から慣れておくというのはいい訓練である。
アルビスやカナリアはこのところ、この技の上達に余念がないのだ。
双子に関しては、まだちょっと制御があやしいので、精霊たちがリミッター役を務めていて、危なくない範囲で使っている。
そんな中で話をする余裕があるのだから、これはなかなかの上達ぶりだと言っていいだろう。
そしてクロノはアルビスの質問に答えた。
曰く、神器とは完成された精霊武器である。と。
「完成された精霊武器?」
《そうであります。高位の魔法使いが、何十年も精霊武器を使い込むことで、その精霊武器が確固たる存在に確立し、定義をする術者や、精霊の関与なしで存在できるようになることがあるであります。
これが現在神器と呼ばれる存在の正体であります》
クロノによると、昔はレベルの高い精霊を連れた高位の魔法使いというのもかなりいたらしい。
その高位の魔法使いが、精霊と共に何十年もの時間をかけ、自らの精霊武器を鍛え上げ、磨き上げ、その定義を確固たるものとして世界に刻み込んだ場合、その精霊武器は、それのみでこの世界に存在することが可能になる。
そして、それが何百年と受け継がれることで『神器』という、ある種の信仰の対象にまで昇華する。それが神器なのだ。
もちろん確率はかなり低い。
この世界の始まりからアルビスたちが生きる現在までの時間をかけておそらく100に届くかどうか。という数だろう。
しかもどこに何があるのかなどはほとんどが分かっていない。
人間が所有するものにしても、国家機密、あるいは秘伝の家宝。そういうものなのだ。
《というわけでなかなかすごいものなのであります》
「ほほう、あれがね…」
アルビスはカナリアが習熟のために振り回す【神器・ミョルニル】を微妙な顔で見た。
ミョルニルなどというと、いかにもすごそうなのだが、アルビス的にはデザインが『いいのか、これで?』と思わずにいられないデザインなのだ。
一言で言うと『名状しがたいバールのような何か』なのである。
バールという道具は日本語では金梃子と表現される。
梃子の原理を応用して釘を抜いたり、重たい石を動かしたり、隙間を抉じ開けたりする道具だ。
なのでなじみの深いL字型ではないまっすぐなごついものも存在する。
だがカナリアが渡されたミョルニルは、間違いなく一般的なくぎ抜きの形をしていた。
L字型に曲がっていて、短い方の先端は平たく鋭くそして二股に分かれている。反対側はまるで鏨のように鈍くとがり、長さは80cmほど、太さは普通のくぎ抜きのように細くなく、まるで握りやすい鉄パイプのように太い。
L字型に曲がった外側にいかにも物をぶん殴るのに向いたような補強パーツがあり、全体のデザインはSFロボットアニメに出てきそうなちょっとメカっぽいデザインになっている。
つるはしのように穿つことも、ハンマーのように殴ることも、楔のように貫くこともできる構造だ。
凶悪なのにカッコいい。
これを見るとアルビスは羨ましいような、それでいて残念なモノを観るようなそんな気分にさせられるのだ。
ただこのミョルニル。性能はピカイチで、振るように投げればぎゅるぎゅると回転しながら飛んで行き、目標を勝手に粉砕したりするし、呼べばまるで忠犬のようにカナリアの元に戻ってくる。
おまけに。
「あっ」
まだ慣れないせいで受け止め損ねたカナリアの手からミョルニルが落っこちて、地面に。
ドスン。ドゴン。バキバキ!
堕ちたところがたまたまむき出しの岩盤で、ミョルニルはその岩盤に落ちてすさまじく重い音をたて、巨大な岩を揺るがし、衝撃で砕き割ってしまったのだ。
「うん、ものすごい重さだよね。
その神器は装備していないときは必ず空間収納にしまってね。
部屋の床なんかに置いたら絶対床が抜けるから」
それどころか建物自体が崩れるかも。
アルビスはおそらく、重さ的には今日持ち上げさせられたあの扉ほどもあるのではないか?
と考えている。
単位がtで、最低二桁はあるだろう。
アルビスでも持ち上げるのに魔法その他、全力が必要なのだ。
ただアファナトスの話では持ち主の行使する重力制御には従順に従うように作られているようで、カナリアだけは自由に振り回せる。
まあ、制御に失敗するとこのざまなのだが。
アルビスは拾ったミョルニルを、うんとこしょとカナリアに渡し、砕けた地面に関しては見なかったことにした。
「どうせこの辺りまで来るやつはいないよ」
いつの間にかクロノの背中で眠ってしまった双子は当然何も知らないのであった。
◇・◇・◇・◇
「しんきー。えい」
「しんきー、やー」
双子に神器ブームが来てしまいました。いずれ彼らの武器も神器になるのかもしれないけど、いまは関係なし。ブームだからね。木の棒をもって振り回して遊んでいる。
「あらあら、神器の話なんてどこから聞いたのかしら」
それをほほえましく見ている大人たち。主にベアトリスとレムニア様だ。
レムニアはすっかりカレー好きになってしまった、週に一回は自分の所でカレーを作らせている。
それはエレウテリア家も同じで、レムニアはエレウテリア家でカレーが出るときはどこからともなく現れる人になってしまった。
つまり週に二回カレーの日。
というわけで、レムニアがエレウテリア家にいる確率は結構高いのだ。
「そう言えば、勇者は神器によってえらばれるということでしたけど?
今そんなに忙しいんですか?」
これは王様の話だ。
実は王様もこちらで作られる料理目当てで頻繁にやってくる疑惑がもたれていたりする。
現在はこちらの料理を王都でも導入できないか、いろいろ試行錯誤の真っ最中だったりするのだ。
その王様が全く来なくなった。
まあ、王様なんてまじめにやればこれほど割に合わない仕事はないと言われるほどの立場なので、忙しいこともあるだろう。とは思うのだが。
「うーん、それが今回はちょっと事情が違うのよー」
食後のお茶を飲みながらレムニアが語る。
くつろぎモードなのでダルンダルンである。
「実は、勇者選定の儀っていうのは、一年に一回、必ずやってるのよね」
「そうなの?」
とアルビス。
まだ夜は冷えるので、部屋ではペチカが機能している。
広い部屋に高価な絨毯が敷かれ、人々はソファーに座ったり、絨毯の上で寛いだり思い思いに過ごしている。
調度品が基本的にアンティーク――アルビスから見た場合でほかの人にとっては実用品――なので、絵画のシーンの様でアルビスにはお気に入りの時間だ。
そんな中でレムニアの解説は続くのだ。
それによると、王都では春と秋に大きなお祭りが執り行われる。
春が『祈願祭』秋が『感謝祭』と定義づけられている。
春に一年の平穏と豊作を願い、秋に収穫に感謝する。という形だ。
秋の収穫祭は、ひたすら飲んで食って楽しむお祭りだが、春の祈願祭は、宗教的、政治的な行事が多く、そのうちの一つに『勇者選定の儀』が存在する。
王城の一画に封印された神器。
台座に突き刺さった剣だったりするのだが、この日は町の人は誰でも、と言っても一生に一回とされているのだが、この剣を引き抜くことができるかどうか、チャレンジすることが許されるのだ。
行われるのは四月の末の三日間が決まりだ。
「あれ? いま、四月が始まったばかりだよね」
そう、現在は季節は三月が終わり、四月が始まったばかり。つまりこの時期に勇者が出るというのはおかしいのだ。
「そうなのよ、身内の恥を晒すようだけど、ちょっと前に『勇者を見つけた』といって大騒ぎした馬鹿がいてね。
それがどうも無理やり神龍剣の安置所に乗り込んで、勇者の証明を得てしまったみたいなのよねえ…
昔っから自制心の欠片もない子だったけど、まさかこんなにあほだったなんて…だから家に修業にこさせろっていったのに…」
なんかいろいろあるらしい。
そして神器は神龍剣というらしい。
「勇者が決まったとしても、今年の選定の儀は既に予定されているから中止はできないし、というか中止はとんでもないということで、選定の儀をやり直して、
まあ、勇者は勇者なんだけど、実はあの神器を使えるのは別に一人って決まってないのよね。
他にも見つかるかも知れないし…
そうすれば保険にはなるし、前例もあったし、まあ、アホに好き勝手やらせるわけにもいかないからね…」
本当にいろいろあるらしい。
レムニアは自分の世界に入ってしまったまま、お帰りになってしまったので、この話はここで立ち消え。になった。
『つまり王様が忙しいのは政治闘争のせいというわけか…』
というわけなのである。
ヤッパ王様って大変だよな…
としきりに納得するアルビス。
国という巨大企業を運営し、周りにいるのは基本ライバル会社。それらと丁々発止で渡り合わないといけないのだ、大変でないはずがない。
どっかの政治家みたいにぼけていてはやってられないのである。
そんなものにかかわらずに済んでラッキーとか思っているアルビスだったりするのだった。




