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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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04-01 冬の日

第四章 第1話 冬の日



「はい、いいわよ~。数える数をよく聞いてね~。ゆっくり呼吸をするのよ~。息を吸うときに思いっきり胸とお腹を膨らませるの。そして吐くときは思いっきりお腹をへっこませるの~。

 リズムに合わせて~。

 いいわよー」


 スクード領最高の漢女おとめであるエカテリーナの声に、大部屋に集まった子供達は神妙な面持ちで指示に従っている。

 総勢で20人ほど。


 エカテリーナの脇ではエドワードとディアーネが、なぜか木魚をぽく…ぽく…とゆっくり正しいリズムで叩いている。


 子供たちの呼吸にリズムを与えるためだ。


「いいわー、とってもいいわー、吸ってーーーーっ、吐いてーーーーーーーっ

 そして魔力の温かさを感じるのよ。

 今、みんなの後ろを回るアルくんが、背中に魔力で優しく、やーさーしーくタッチしてくれるのよ。

 それを感じて、そして自分の中にもそれがあることを感じるの。

 そしてそれが体をめぐっているのをイメージして。

 ああん焦っちゃダメ。今は分からなくてもちゃんと魔力はめぐっているわ。

 イメージをちゃんと持って、そしてリズムを守るの、今はそれでいいのよ~」


 最初筋骨隆々の偉丈夫が、麗しい化粧で女言葉を話す光景にビビっていた子供たちだったが、かわいがってくれる人には懐くのが子供。エカテリーナはすっかり子供たちの人気者になっていた。

 子供好きのエカテリーナもここはお気に入りだったりする。


 そのエカテリーナの説明通り、アルビスは並んで座禅を組んだ、というか組まされた子供たちをめぐり、背中に手を当てて、魔力で子供を包み。その魔力を回転させて感じ取れるように気を配っている。

 ユマやキュールもいて、真剣に頑張っていて、アルビスは『やはりここを作ってよかった』とご満悦である。


 さあ、もうわかったね。

 ここは孤児院、じゃなかった、エレウテリア幼年養護学園だ。


 すでに30名ほどの孤児や、行き場のない子供が収容されていて暮らしていたりする。


 いま、エレウテリアは金銭的な余裕があるので、先生役の冒険者たちに給料を払い、子供たちの生活費をまかなってもまだ余裕があるのだ。


 実のところ子供たちの数に対して雇われている冒険者の割合はかなり余裕があり、無駄ではないかというような声もちらほら出ていたりするのだが、それに関してアルビスは『いずれ役に立つから』と言って取り合わないでいる。


 現在のところ冒険者一人に対して子供が二人ぐらいの割合。

 これから子供が増えることを考えれば今はそれでいいと思っている。


 それにここでノウハウを身に着けた冒険者が増え、信頼できる人間が見つかれば、この手の私設をもっと増やすこともできるだろう。とも。

 頑張れアルビス、スクードの明るい未来は君の双肩にかかっている…かもしれない。


 というわけでアルビスも協力に否やはない。いや、それどころか、毎日のように学院に入り浸り、先生役をやったりしている。


 現在は三月、春? と思いたくなる時期だが、雪深いこの地方ではまだしっかり冬である。

 雪が減って雨が増えてくる、そういう時期。


 こういう土地では冬の間仕事が減り、家の中でおとなしくしていることが多くなる。

 本来は。

 ただ去年は忙しかった。誰もかれも。それはこの領がまともに動いていなかったから。だが、今年はアルビスにも暇があった。

 それをいいことに学園に入り浸って子供たちの教育にかかずらわっていたりするのだ。


 なんといっても将来的に家臣になるやつを育てられればという目論見もあるので結構マジである。ものすごい青田刈りだ。


 だが貴族の子女であれば幼いころから側近となる人間の育成にリソースを割くのは割と普通のことで、もしアルヴィスたちがあのまま村で暮らしていたなら、村の子供たちがそういう感じで扱われただろう。


 だからここは無駄ではないし、エレウテリア家も大きくなってしまったのでそちらの人材確保も、とても重要なお仕事なのだ。


 全員に読み書き計算を教え、その上で本人の希望も勘案し、職業訓練を施す。

 薬草の扱いや薬の作り方。つまり薬師としてのスキル。

 冒険者としての仕事のノウハウと実地訓練。

 建築ギルドでの見習いとアルバイト。

 あと体育が必修になっていて、この世界の体育は戦闘技能の習得でもあるので、将来的に騎士として、家臣として就職してくれる人間に期待である。


 アルビス的には鍛冶師やお針子デザイナーなども視野に入れたかったのだが、あんまり多岐にわたるとうまくいかない。と反対されてこのぐらいで落ち着いた。


 こんな世界なのでどんな職業についても戦闘技能は役に立つのだ。


 そんなわけで学園での活動に力を入れるアルビスだが、最初にはでかい問題があったのだ。


 つまりアルビスが先生だと、認めてもらえなかったこと。


 教えるアルビスより、教わる子供たちの方が年齢が上だったりするんだよね。

 小さい子はいいにせよ、大きい子供たちは当然アルビスの言うことなど聞かない。


 ましてスラム育ちの子供たちだ。


「オマエドコチュウダゴラア」


 みたいなのがあって、アルビスのプレッシャーでいろいろ垂れ流すという事態になったのさ。

 だけど全員にそれをかますわけには行かない。

 アルビスだとやりすぎになってしまうのだ。強すぎて。


 そこでアルビスが考えたのがマリオネット作戦である。


 つまり先生役を用意して、自分は影からその先生を操ろうという作戦だ。


 なので魔力修業にあたってはエカテリーナが先生役をやって、アルビスの指示通りに子供たちを教えていき、アルビスは助手のフリをしつつ、しっかりサポートをするわけだ。


『うん、悪くない。みんな確実に魔力量が増えているし、魔力循環で身体機能もバランスが取れてきている気がする』


 というのがアルビスの評価だったりする。

 魔法が使えるかどうかは、精霊との相性などがあり、訓練すればできるというものではないが、ここに居る子供たちの中でも何人かは魔法使いになれるのではないかとアルビスは考えていた。


『もしここに引き取られなければ、たぶんおそらく、そういう子供達も誰一人魔法使いになったりはしなかっただろうから、やはり人材育成は環境だよね』


 とアルヴィスは思う。


 ちなみに雇った冒険者達に読み書きを教えているのもアルビスだったりする。ただしこちらは遠慮せずに実力行使。ビシバシやって、子供たちに教育と教育的始動をするのは冒険者のお仕事。

 なかなかにご愁傷様である。


 ◇・◇・◇・◇


 子供たちの授業が終わると、アルビスは執務室においてその他の事業の報告を受けたりする。

 双子はエカテリーナと楽しく遊んでいる。


 あの偉大な漢女は本当に子供好きで、それが分かるのか、子供たちはエカテリーナに対してよく信頼を寄せるのだ。


 アルビスがエカテリーナを教師役に任命したのもそこら辺が理由なのだろう。


「じゃあ、アル。あまり無理はしないのよ」


「うん、大丈夫だよ。母様も頑張ってね」


 アルビスはベアトリスから報告書を受け取り、授業に向かう母に手を振って見送った。


 ベアトリスは現在ここで薬草学と初歩の創薬の授業を受け持ってくれているのだ。他にも水神流の人が参加してくれている。


 武術に関してはアーマデウスが剣術を教えたりしている。

 これもスクードの近衛の人たちが交代でうけもってくれている。


 教師陣を考えると、この子供たちはかなり恵まれていると言えるだろう。


「さて」


 アルビスは封筒に入った報告書を机の上に広げる。


 アルビスも最初はここまで仕事をするようなつもりはなかったのだが、入り浸ってやっているうちにいろいろ相談を持ちかけられるようになり。

 それに対応しているうちにいつの間にかアルビス用の執務室ができてしまったのだ。


 ちなみにアルヴィスの執務室は個室で、普通の先生は職員室という大部屋を使っている。休憩スペース付きで和気あいあいとやっているようだ。

 一人ぼっちでうらやましいアルビスだったりする。


 閑話休題。


「ふむ、こちらも順調だね…」


 今日の報告書に記載されていたのは『寄せ場』と呼ばれる強制収容所の資料だった。

 もちろん江戸時代にあったあれを参考にしている。まあ、表面的な着想だけだが。


 どういうものかというとスラムで暮らしていた大人たちを踏ん捕まえて強制的に寄せ場に送り込み、最低限の衣食住と衛生環境を与え、代わりに行政が指定する仕事に強制的につかせるというものだ。

 強制的というのがみそである。

 ぶっちゃけ『聖約』の魔法を使った奴隷契約である。


 この手の仕事は冒険者ギルドに発注されるものなのだが、仕事によっては嫌がられて遂行されないようなものもある。

 当然それを補うために高額の報酬が必要になったりするわけで、そういったことも含めて手の回らないところに手が届く画期的なシステムだったりするのだ。


 彼らには職業選択の自由も、住所移転の自由も存在しない。

 その代わりに必要充分な食事と、凍えることのない居場所、安心して眠れる寝床が与えられる。


 秩序の維持のためにプライバシーさえ、ある程度は制限されている。


 だが彼らは死ぬ心配をしなくていいし、生きるためではなく最低限死なないために犯罪に手を染める必要もない。のだ。

 これは『救われた』と言っていいのではないだろうか。


「人道主義って邪魔じゃね?」


 このギリギリのセーフティネットを運営してみてアルビスはそんなことを思うようになった。

 人権とか、人道主義とか、そういったものは最低限、安心して生きている環境があって初めて意味を持つのだとおもった。


 本人の嫌がることをしないとか、強制的に何かをやらせたりしない。

 そんな寝ぼけたことを言っていると、彼らは犯罪者とその予備軍と、現在、将来の被害者でしかない。

 基本的人権を尊重するためには基本的人権を踏みにじる必要があるとか、すごい皮肉である。


 もちろん運営する側にハイレベルの倫理感があるからまともに動くのであり、それなしでは何のためのシステムだか分からなくなってしまうのだが、幸いスクードは綱紀粛正の嵐が吹き荒れる状況だ。

 おかげで自制はうまくいっていたりする。


「今は建物が別になっているだけだけど、人数が増えてきたら男の寄せ場と女の寄せ場は別に作るべきかもしれないな。

 あともう少し職業訓練に力を入れるといいんだけど…」


 お金があってもマンパワーが足りなくて動きが制限される状況だったりする。


 そんなことをやっているうちにベアトリスが戻ってくる。

 足元には当然双子がジャレついていた。


「兄さま、時間だよ」

「兄さま、約束」


「え? もうそんな時間?」


 双子の言葉にアルビスは顔を上げて壁を見てしまった。

 これは前世で染み付いた習性だろう。つい時計を探してしまうのだ。


 この世界には機械式であるが前世と変わらない性能の時計が存在する。

 だが生産数が限られていて、まあ、一つは確保したのだけど、すべての部屋に常備できるほどの余裕はなかった。

 当然アルビスの部屋もあとまわしである。


 なのでこういう場合クロノがフォローしてくれる。


《まだ少し余裕があるであります。今からなら城に帰ってお茶を一杯飲むぐらいの余裕があるであります》


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」


 アルビスはベアトリスたちと、ここの子供たちの、誰それが頑張っているとか、誰それが何に向いているかもとかそんな話をしながらスクード城に向かう。


 今日はこれから王様と会う予定になっているのだ。


 道はまだ雪がいっぱい。

 でももこもこに着ぶくれた双子が可愛い。

 ここのところいつでも楽しいアルビスなのだった。


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