03-28 アルビスという存在
第28話 アルビスという存在
「やあ、アルくん。なにを見てるんだい?」
「あっ、おじさんこんにちは。空を見てるんだけど、今日は天気悪いね」
「ああ、本当だ、今にも降りそうだね…」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あー、アルくん実は折り入って話があるんだ」
少しの沈黙の後、王様はちょっと言いにくそうに口を開いた。
「アルくん、王都に来る気はないかい?」
「観光なら行ってみたいけど?」
「あー、そうではなくてね…」
「うーん、でも僕がどこにいるかは、どこにいても、大して変わりなくないですか?
羽虫は寄ってくるし、王様だからって羽虫を追い払えるわけではないでしょ?」
イロスはちょっとびっくりしたように目を見開いて、そしてさもありなんと納得した。
「気が付いてた?」
しかしアルビスの返事は予想したのとは違うものだった。
「うん、ぼくってば鑑定が使えるから、精霊が教えてもいいと思ったことは筒抜けなんだよね」
イロスは今度こそ目を見張った。そして、肩を落とす。
「そうか…鑑定まで使えるのか…あれって伝説の能力のはずなんだけどね…」
「うんうん、今条件を満たしているのはたぶん僕だけ?」
「条件があるのかい? 聞いてもいい?」
「まだ内緒。そのうち教えてあげる。というかばれる?」
イロスは仕方ないかと頭を掻いた。
「アルくん、正直な話をしよう。君の能力は驚異的だ。
あのドラゴンを瞬殺できたことでもその能力の高さは明白なんだよ、あれは本来、私たちソードマスターでも命がけの敵なんだ。
それを瞬殺できて、しかも他に類を見ない回復魔法の使い手、空間収納まで持っていて、さらには鑑定だ…きっと君のことを知った貴族たちはこぞって君に接触してくるだろう。
いや、子供の君だ、何とか取り込もうとろくでもない考えを巡らせるだろう。
君も貴族だが、君は子供だ。伯爵家の公子でしかない。
上位貴族が押し寄せればなかなか面倒だと思うんだよ」
「なして?」
アルビスは笑いながら小首をかしげた。
「なんでって…」
「貴族だろうが何だろうが、敵ならば灰にしてしまえばいいんだよ。
僕はわざわざ羽虫の巣に突撃して羽虫を滅ぼそうなんて考えるほどもの好きじゃないけど、集ってくるは虫を叩き潰すのを厭うほどものぐさでもないよ?」
アルビスに言われてイロスは大きな違和感を感じた。
それは一言で言ってしまえば価値観の相違というやつだった。
イロスは王族で、しかも王たるべしと育てられ、人に傅かれ、人に命令することを当然として生きてきた。
イロスの周りの人間も上位者からの命令には諾として従うことを当たり前としてきた。
貴族社会というのは、この世界というのはそれで回るのだ。
だがアルビスは現代日本人の系譜。
王たる存在に敬意は払っても無条件で従うような感性はもっていない。
誰を部下とし誰を上司とするかは選んで当然なのだ。まあ、ある程度の制約はあるけど。
なので貴族だからと言ってそれだけで敬うような感性はもっていなかったりする。
そこに持ってきてこの世界の真理、弱肉強食、敵は滅ぼさないと生き残れないという感覚がインプットされたからさあ大変。
見も知らぬ貴族など、敵対するなら消し飛ばせばいいと自然と考えている。
アルビスがレムニアやイロスを自然と敬っているのは〝年長者を敬うことは美徳〟という日本人的な感性によるものだったりするのだ。つまり敬老精神ね。
だから普段はアルビスから自然な敬意を向けられていて、それが自然だったのに。こうして話を詰めればアルビスの敬意が血筋や身分によるものでは全くないという事実に気づく。気づかされる。
なんとなくだが、アルビスは自分が王様だからとか、貴族だからとか、そういう、イロスたちにとっては絶対的な概念に欠片ほどの敬意も払っていないことが伝わってくる。
それが強い違和感になる。
そしてアルビスは物を知っている。
地球で得た知識で貴族というのがどういう感性を持っているのか、少しは想像が付く。だから理解できる。
「王様王様、権威なんてものは、特定の秩序を維持するための、特定範囲内でしか存在しないまやかしだよ?
この間のドラゴンだって、王様だからって遠慮なんかしてくれなかったでしょ?
それに比べて強いものが勝つというのは、たぶんもっと普遍的な秩序だよ。
権力も力、財力も力、知力も力、武力も力、結局は力。誰が一番強い力を持っているか。そこが問題になるんだ。
お互いにそこそこならすり合わせをしなければいけない。
でも、王国の貴族の人とか、あのドラゴンより強いのかな?
あれより10倍ぐらい強かったら、ぼくとやり合えるかもよ?」
イロスは息をのんだ。
アルビスの強さでなく、そのありように。
そして自分が『王として尊い存在である』というのがただの思い込みでしかないことにきづいて。
「尊いかどうかは生まれじゃなくて行動で決まるんだよ。
良い王様がいて、その人が元気でいてくれた方がみんなが幸せであるというのなら、きっとみんなその王様のために祈ってくれるでしょ?
そう言うのが本当の権威というやつだよね」
貴族は貴族として生まれただけでは価値がない。
貴族として行動できることで高貴な存在として認められるのだ。
長い時の中で、それが常識のように思われたりもするけれど、それは実の伴わない砂上の楼閣でしかない。
誰かがつつけば壊れるのだ。
そしてイロスは法とか秩序のことを考える。
いらぬ手出しをしたものが反撃を受ける。それは、こうなると確定路線だ。
だが意味もなく貴族がぶちのめされましたでは法秩序が保てない。
偉そうに見えるなら、本当は偉くなくてもへりくだってしまうのが人間。そして本当は偉い人でも、そうでないと思い込んでしまえばないがしろにするのも人間だから。
「それに関しては任せて、『闘争』の宣誓をもらうから」
「?」
これがアルビスの切り札だったりする。
何の根拠もなく他人を攻撃すれば犯罪だ。
だが攻撃に対して反撃するなら正当防衛だ。
この世界には神様がいて、相手が攻撃してくるなら反撃は罪にはならない。
盗賊は殲滅してよいのだ。
敵ならば戦っていいのだ。
闘争宣言というのは敵対的な存在がいるから受けて立ちます。と宣言して、それを神様に認めてもらう方法だったりする。
お互いの主張がかみ合わない、そのうえ相手が攻撃的な活動をする。ならば戦争だ。
故に殺し合うのは道理にかなうのだと。
この戦いと殺戮に正当性があるのだと。
そう承認してもらうのだ。
そうすれば有形無形の攻撃に対して堂々と反撃できるし、その結果出た被害はお互いの合意の上ということになる。貴族の死であっても、それは神の定めた摂理なのだ。
襲ってくる盗賊を返り討ちにして問題ないのはこの世界に神様がいて、その正当性を担保しているからだ。
そして神が『罪なし』とした存在を処罰することはできないのだ。
この世界では神が現実に存在するのだから。
イロスは深く深くため息をついた。
苦笑してアルビスの頭をくしゃくしゃとなでて城の中に戻っていく。
彼の頭の中は、どうするのが国と自分にとって最善の方法なのか、その方法を考えることでいっぱいだった。
誰もいないその場所でアルビスは空を見上げた。
空には厚い雲が垂れ込め、今にも雨が降りそうだ。
「ケラウノス」
アルビスは雷霆を召喚し、そしてそれを投げる。
雲に向かって。
それは一瞬。瞬きの間。
投じられたケラウノスは雲に穴をうがち、そこを中心に分厚い雲を蒸発させてしまった。
黒い雲が一瞬で薙ぎ払われて星空が広がる。
さっきまでの曇天はもうどこにもない。
「うん、まあ、どうとでもなるかな」
そしてアルビスは誰にも気づかれないまま室内に戻っていくのだった。
まあ、雲が一瞬で消滅したので町では大騒ぎだったけど。
◇・◇・◇・◇ side 王様
「あっ、いけない、結局ドラゴンをどうするかぜんぜんきまってないぞ」
王様、しっかりしろ。
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御挨拶。
これにてアルビス君第三章は終了となります。
現在第四章のプロット作業中。
プロットができて、2、3話、話が書けたら連載を再開します。
少々お待ちください。
次回はお出かけ先で大騒ぎの章です。
この章を連載中にとてもたくさんの人に応援を頂きました。心より感謝いたします。♡も★もいっぱいで、毎日ドキドキして過ごしています。
たくさんの人がアルくんの物語を愛してくれて、本当に感謝です。
これからもアルくんを応援してあげてください。
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3章まで終わりました。ここまで見ていただきありがとうございます。
4章は2月1日からスタートします。よろしくお願いします。




