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第九話 これは過去のお話しです 三

 離れに幽閉されていた私は冷静に、地道に、助かる方法を探っていたが突破口になりそうなものは到底見つけられなかった。

 諦めの文字が脳内で占める割合が多くなってきたので、気分転換に部屋を抜け出し、中庭に出た。

(誰かに見つかったら大変。できるだけ早く部屋に戻らなくちゃ)

 中庭は、夢のような場所だった。

(きれい……)

 その時は秋の盛りを迎えていて、庭は鮮やかな紅葉と、季節の花でいっぱいだった。

(やっぱり、そとの空気を吸って、きれいなものを見ると心が癒されるわね)

 私は少しはしゃいで、いきいきとした植物のいぶきを感じようとした。

(あれ、この花……)

 すると、庭に見覚えのあるバラが咲いていることに気が付いた。

 私は感激した。

 その花の名はリンザ。

 父レオニードが私の母リンザと結婚した際、お祝いに庭師に特別に作らせた新種のバラだ。

 白い花びらにオレンジのふちどりが施されているこの美しい花を、娘の私が間違えるはずがなかった。

(まさかこんなところでこのバラに会えるなんて……!嬉しい驚きだわ)

 私は顔をうずめるように花の香りをかいだ。

 懐かしい、かぐわしい香り。

 まだ私たちが幸せだったあの頃の記憶がよみがえってくるようで、うっかり泣いてしまいそうになる。

「フリージアお嬢様!そのような場所で一体何をなさっておいでですか」

 感激のあまり警戒心を忘れ、私はあっさり使用人に見つかった。

 ここの使用人たちは義母がやとった者たちだから、当然私に対してつらくあたるのだ。

「屋敷の中をうろうろされては困ります。わたくしどもは忙しいのですから。さ、お部屋に戻りますよ」

 もっとこのバラと一緒にいたかったのに、私は使用人に追い立てられ、北棟のじめじめした自室に戻るしかなかった。

(でも、あのバラに会えたのだし、今日は嬉しいことがあったわ)

 一粒の小さな光が、胸にともったような気持ちになって、私はひとり微笑んだ。

(部屋に閉じこもっていては、いいことなんてなんにもないわ。使用人はうるさいけど……次はもっとうまくやりましょう。見つからないように、慎重にするのよ)

 ふと思い立って、私は部屋の窓を開けた。広い庭だったから、ここからでも見えるかも知れない。

(少しだけど、庭が見える。でもさすがに、バラは見分けられないわね)

 たとえ小さくて見えなくても、あの庭に、バラは植えられているのだ。

(生きのびる理由が増えたわ。今は自分を大事にして、明日、またあのバラを見に行きましょう)

 私は心に決めて、神様に感謝の祈りをささげた。

 そして胸の中にある、両親との暖かな思い出を抱いて、その日も眠った。

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