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第八話 これは過去のお話しです 二

 生き延びるために、誰に助けを求めればいいのか考えた。その時の私はほぼ幽閉の身であるし、貴族の娘の知り合いなど、もともと少なく、たかがしれているのだ。

 まず私の頭に浮かんだのは、ジーニアス王子だった。王子は優しく、正義感がある人だ。状況を知らせれば、王太子という立場を活用して、大人を動かして助けてくれる気がした。

(でも……なんだか殿下には、今の私を知られたくない気がする)

 私たち間には、王太子と元妃候補という間柄を超えた、かすかな友情のようなものがあると、あの頃の私は勝手に考えていた。

 というのも、私とジーニアス殿下には共通の習い事があったのだ。妃候補としてお茶会でジーニアス王子と長く話ができたのも、その習い事が功をなしていたからだ。

 その習い事とは、弓道だった。

 もともとフェリス王国には、建国の英雄王ティバースが弓の名手であったことから、剣や槍よりも弓を尊ぶ文化があるのだ。

 故にジーニアス殿下は幼いころから弓道を修めてこられたし、ただの習い事を超えて、弓道の難しさ、奥深さに魅力を感じられていたのだそうだ。

 フェリス王国には家を継ぐものには男女かかわらず基本を修める習わしがあり(フェリス王国は周辺諸国に比べて女性の社会進出が進んでおり、女性が家を継ぐことが許されていた)、家を継ぐ予定だった私も弓道については話ができた。

 私とジーニアス殿下は、いつも王太子と妃候補という立場で話をしていたが、弓道者としては対等だった。

 だからこそ、たとえ私は何人もいる妃候補のひとりでも、時々王子が「本当の」笑顔を向けてくれている瞬間があるような気がして、それがとても嬉しかった。

 弓を本格的に習っている落ち着きのない令嬢など妃候補としては落第だから、いつかは候補から外されるかもしれなかったが、たとえそうなっても、友情なら築いていけるかもしれないと、私は本気でそう感じていたのだ。

 それがまさか、父が亡くなり、すべてが泡となるなんて、思いもしなかった。

 そしてそれ以上に、王子が向けてくれていたあの笑顔が、まさか「友情」の笑顔ではなく「愛情」からくるものだったなんて、考えたこともなかったのだ。

 もし私が家を出る前に王子の気持ちに気づいていれば、助けを求めるのは王子で正解だったかもしれない。

 だけど、私は恐れ多くも王子と友達でいることを望んでいたから、痩せてみすぼらしい姿を見せたくないと思ったし、余計な心配をさせたくなかった。

 だから頭の中で「助けを求める候補」のリストから王子を早々に消し去り、ほかの候補を検討した。

 そして、自分には助けを求められる人がこの世に誰もいない気がして、途方に暮れた。

 カビの生えたパンを出された時も、お風呂の水が冷水でも、私は泣かなかったけど、この時だけは涙が出てきた。

 離れは使用人も少なくて人気がなく、夜になればどこまでも暗く、静かだった。

 その闇に飲み込まれそうで、まるで世界に私だけが取り残されたようで、怖かった。その涙は父と母が亡くなった時以来のものだった。

(私は誇り高いランドバルク家の娘。こんなことで、泣いてはいけないわ)

 焦ってはだめ。取り乱しているから、助かる方法がない気がしているだけ。落ち着いて機を見れば、きっとなにか見つかるはず。

 私は、深呼吸した。そしてやることもないので、ベッドに潜って寝てしまうことにした。夜のとばりはゆっくりと落ちて私を苦しめたが、負けなかった。

 明日になればもしかしたら、なにか変わるかもしれないのだから。目をつぶり、私は強引に眠ったのだった。

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