第七話 これは過去のお話しです 一
ヒース団長に、ジーニアス王子のことを説明するために、どこから、なにから話せばいいかだいぶ考えた私は考え抜いた末、一からすべてを話そうと思った。 なので、団長は私が生まれたところから、長々と話を聞くハメになるのだろう。大変かもしれないが、ぜひ頑張ってほしい。
なにせ、あんまり話したくないことをわざわざ話すのだ。聞くほうも、覚悟を持って聞いてほしい。
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私は、フェリス王国侯爵家のひとつ、ランドバルク家の一人娘として生を受けた、いわゆる貴族のお嬢様だった。
病弱だが優しい母、有能で威厳がある父の間に生まれて、私は愛情にと物質的な豊かさの両方に恵まれた、幸せな日々を送っていたのだ。
母が十歳の頃に母が亡くなり、その四年後に父が後妻を迎えるまでは。
やがて屋敷には知らない高飛車な女性と、意地悪な年上の娘がふたりやってきた。
彼女たちは父が仕事で忙しく、なかなか家に戻らないことを悪用し、家で好き勝手に振る舞った。お金を湯水のゆように使い、ずっと私たちの世話をしてくれていた馴染みの使用人を入れ変えたり、いいがかりをつけて私をいびったりした。
それでも、この頃の義理母や義理姉の態度はまだマシだった。半年後、父が急死して、私は本当の意味で屋敷の中で孤立することになるからだ。
ジーニアス王子とは、記憶が正しければ、五歳頃からお会いする機会に恵まれた。
王子は友人が多かったし、妃候補の女の子たちは私以外にもたくさんいた。
私は王子にとって大勢の中のひとりにすぎない存在であったが、それでも、私なりに少しずつ、王子と仲良くなっていこうと努力していた。
しかし、当時の私にとって僅かになった心温まる交流は、またしても義母たちに奪われた。妃候補は多い方が良いと、義姉ふたりも登殿するようになっていたのだ。
父が生きていた頃はそれでもまだ会いに行くことができていたのだが、父が亡くなってからは、義母は私は「病にかかった」と周囲にふれまわり、義姉ふたりだけを宮殿に送るようになった。
「病気」になった私は、愛する家族の思い出がある本殿を終われ、暗くジメジメした離れに閉じ込められるようになった。
使用人も義母の息がかかっていたから、毎日の食事すら、満足にとれない状況だったのだ。
朝ごはんはカビの生えたパンと腐りかけたミルクのみ、とか。
栄養を十分に取れないからか、足元がふらついたり、急に意識が遠のいて、倒れることが増えた。
助けてほしくても、義母たちや使用人の監視が強く、ましてや子どもの身では、誰に助けを求めれば良いのかも分からなかった。
死にたいと明確に思うまで、そう時間はかからなかった。しかし、私はこんなに粗末に扱われる存在ではない、とその度に思い直し、なんとか実行を我慢した。
その代わり、私は母と父がいた、幸せな思い出を振り返って冷えた心を温めた。
ここを出れば、きっとまた、優しい、愛を分かち合える人に出会えるはず。
だから私に必要なのは、死ぬために窓から身を投げることではなく、ここを抜け出すための具体的な策なのだ。
その実現のために、私は義母に悟られないように、慎重に行動を開始した。




