第六話 手紙の送り主
フェリス王国ジーニアス王太子殿下から手紙を受けるという、一介の傭兵の身では起こりえないはずのこの事態について、ヒース団長に説明を求められた私は、押し黙った。
私宛になぜジーニアス殿下から手紙が来るかって?それは、私はフェリス王国侯爵家の出であり、ジーニアス殿下とは友人といえる間柄だったからだ。
なにせジーニアス様は友人が多かったから、私個人に構われるのは特別なことではなく、誰にでも同じようにしているのだろうと、少し前に告白を受けるまで、私はそう呑気に考えていた。
まさか、私個人に特別な好意を持っておられたなんて。
びっくりするような展開に、頭の整理が追いつかない。
そうか、ジーニアス様は私が気持ちに応えられないと断っても、再度手紙を送ってくるくらいに私のことを想ってくださっているんだ。
そう考えてみると、ジーニアス様に対して情がわいてくる。
だって私も、初めてお会いした時から好きだったから。
(もし、家を出る前に殿下の気持ちが分かっていたら……もっと違った未来があったのかもしれないわ)
「おい、フリッグ」
ぼうっと考え事をしてしまったらしい。
ヒース団長に呼ばれて、はっと我に返った。
「すみません。えっと、ジーニアス王子からの手紙の件ですよね、ええっと……」
慌てて、ジーニアス様との関係をどう説明するか考える。
なるべく嘘は言いたくないけど、ヒース団長には実家の話を全くしていないのだ。
私が貴族の家の生まれだということも知らないヒース団長に、いまさら本当のことを話すのも気が引けた。
困って、早く答えなきゃと焦りながらも黙ったままの私を見ていたヒース団長は、やがて我慢ならないというように噴き出して笑った。
「え、ちょ、なんで笑うんですか」
「いや悪い。お前があんまり真剣に悩むから、笑っちまった」
訳が分からなくて混乱している私に、ヒース団長は衝撃的な言葉を放った。
「どうせフリッグは、貴族の生まれなんだろう。隠してるつもりだから困ってたんだよな」
「え、知ってたんですか……!?」
「ああ、全部知ってた。お前だけ気づいてなかっただけ
しれっと真実を当ててくるヒース団長に、なんでだ、と私はうろたえた。
ヒース団長はやれやれ、と今度は優しい感じで笑みを見せた。
「お前、自分が貴族じゃないふりを結構真剣にしていたが、俺やノアも含めて、周囲にはハナからばれてるからな。買い物の仕方もしらなかったお嬢様が、そう簡単に市井の人間のようにふるまえるわけないだろう。」
「え、それじゃあ、みんな私の秘密、知ってたんですか……!?」
「あんまり真剣に演技をするから、指摘するのはかわいそうだって合わせてやっていたんだよ。そもそもおまえを雇ったのだって、ほぼ慈善事業のつもりだったんだ。知り合いに頼まれたからってのもあるが、何もしらないままふらふらされちゃあ、どんなトラブルに巻き込まれるかわからないからな。おまえの場合まずは市井の常識を身に着けることからスタートだから、あえて街に詳しいノアに指導をつけたんだぞ」
「うそ……え、全部ばれてたのに……私だけ気づかずに演技してって……めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですか!!早く言ってくださいよ!!」
「ははは」
笑い事じゃないよ恥ずかしい。
私は顔に覆っていた手を放して、ため息をついた。
仕方ない。全部話すか。
私は観念して、ヒース団長に改めて向き合った。




