第五話 ひとまずは休暇です 三
ニーナが私たちのために用意してくれた食事はご馳走だった。
羊をスパイスで焼いて薄く切りパンと一緒に食べるケバブ、野菜と豆がたっぷり入ったカレー、トマトの煮込み、豆を崩して一緒に焼いたクスクス、最後には歯が解けそうなくらいに甘い、ナッツが入ったレモンケーキ。
団員に喜ばれるお酒もそろえてあった。
団長が乾杯の音頭を取り、生きて仕事を無事に終えてきた戦士たちとこれだけの料理を用意してくれたニーナたちをねぎらうと、その日の夕食が始まった。
久しぶりのおいしい食事にみんな夢中で手を動かして食べている。
メニューも食事の味付けも、食べ方のマナーも、雰囲気も、どれもフェリス王国の実家にいた頃とは違っている。
銀の食器を使ってうやうやしく食べるのではなく、この環境での食事は騒々しくて、手づかみで食べる料理もあって、俗っぽいといえるだろう。
でも、私はこんなカルデラの風土を愛している。
食卓というものは、愛があるなら、何倍もおいしくなるものだと、この場所で私は学んでいた。
私の隣に座って、静かに匙を動かしているのは、友達の剣士マリンだ。
マリンはフェリス王国に雇われている間、別部隊で動いていたから、今日が1年ぶりの再会になる。
会えなくて寂しかった、と素直に告げると、マリンは月の光のように淡くきれいに微笑んで、私も、と言ってくれたのだ。
マリンは無口だから、見える形で分かりやすく友情を示すタイプではない。
その彼女が私に微笑みかけてくれたのだから、喜びもひとしおで、つい甘えて、ねえねえと話しかけてしまう。
マリンが困ったり、嫌そうにしないで聞いてくれて、私はとても嬉しい。おしゃべりが楽しくて、つい会話が弾んでしまう。
マリンも離れていた1年で起きたことを、かいつまんで教えてくれた。
傭兵稼業は命がけ。再会できるのは当たり前じゃないのだ。
お互いなにかと大変だったけど、生きてまた会えて、何よりだって話をした。
「フリッグ。ちょっといいか」
食事を終えて同室のマリンと自室に戻ろうとした私を、ヒース団長が呼び止めた。
話があるから客間に来るように言われて、そのままふたりで移動する。
なんの話をされるのか、わからないからちょっと怖い。みんながいるところで話さないこと。それはこれまでの経験上、だいたいお叱りを受ける時なのだ。
(私、またなにかやらかしたのかな。最近はだいぶ傭兵稼業も板についてきたと思うくらい、怒られることが減ってきていたのに)
客間に移動して、お客用のちょっといい椅子をすすめられたところで、私の不安はピークに達した。
団長は、白い封筒を取り出した。
「手紙を預かっている」
「手紙?覚えがないです。いったい誰からですか?」
ヒース団長から手紙を受け取って、差出人を確認した。
「……あ」
差出人を見て、硬直した。
見覚えのある筆跡、名前、シーリングスタンプ。
ヒュ、と私の喉がなった。
「察したようだが、差出人はフェリス王国第一王子ジーニアス殿下だ。そんな高貴な身分の人物が、いったいなぜううちの傭兵に手紙を渡すように頼んできたのか、説明してくれるか?」
あくまでも穏やかに問いかけるヒース団長の言葉を受けて、逃れたい過去が、追いついてきたような気がした。
私は気を確かにするために、ぎゅっとこぶしを握った。




