第三十話 義母の話です
ジーニアス殿下は、私が「療養」に出た頃から、すでに手を打っていたらしい。
私が外出しなくなった理由が、義母による虐待であることを、身辺調査で突き止めていたのだという。
「本当はすぐにでもフリージアを助けたかった。しかし、それができない事情があったのだ」
どうやら継母は、侯爵夫人になる前から禁止されている違法賭博に手を出しており、侯爵夫人の立場を得てからは本格的に主催するようになったらしい。
本来ならすぐに摘発して私を救い出せたはずのジーニアス殿下だが、国の中枢に関わる重要人物も顧客に名を連ねていたため、捜査は思うように進まず、下手に私に手を出せば警戒される可能性もあったのだという。
「どうしようかと手をもんでいるうちに、ランドバルク家の使用人が秘密裏に君を脱出させてしまった。君の家の者は、絶対に行方を洩らさなかったからこそ、我々はフリージアがどこにいるのか、把握できなかった」
ジーニアス殿下は、そこで自嘲ぎみに微笑まれた。
「それがまさか、傭兵となっていたとはな。まったく、ランドバルク家の使用人は有能だ」
「そうだったのですね……」
義母が違法賭博を運営していたことも、ジーニアス殿下が私を助けようと動いていたことも、私は何も知らなかった。
もしかしたら、使用人たちは気づいていたのかもしれない。そう思うと、自分が情けなく感じた。
私はジーニアス殿下のお顔を見つめる。
(殿下、私のことを助けようとしてくださっていたのね)
塔に閉じ込められ、独りぼっちだと泣いていたあの頃を思い出す。
でも、あの暗く静かな時間に、私を救おうとしてくれた人たちが確かにいたのだ。それを思うと、胸にジワリと温かさが広がる。
(……国に帰るのも、いいのかもしれない)
「ありがとうございます、殿下」
私は感謝を込めて、握られた手を握り返した。
「君がいなくなった後も、違法賭博の捜査は進んでいた。何年もかけ、根回しも証拠も揃えた。あとは公表するだけだ。王となる今、俺の手にすべての権限がある。国に帰ったらすぐに着手する。だから、安心してほしい」
「安心、ですか」
私はジーニアス殿下の言葉を繰り返す。
「そうだ。そして、君にとって安全になった我がフェリスに帰ってきてほしい。そして……できれば、俺の妃になってくれ」
「…………」
私は不安を打ち明けた。
「私は、妃教育では落第生でした。私のように傭兵として働いた妃は他にいないでしょう。殿下のお気持ちは真実だと分かります。でも……私のような出来損ないで、後ろ盾のない令嬢が妃となることで、殿下に不利益があってはいけません。それを、義母の存在と同じくらい恐れてきたのです」
ジーニアス殿下は、もっともな懸念だと頷かれた。




