第二十九話 打ち明けます
紫のサテンドレスとたっぷりのパールに包まれた私は、ミール様の案内で殿下が待つテラスに向かった。
慣れないヒールに時々足を取られながら、久しぶりにお会いする殿下の元へ歩いていく。
殿下はこの姿の私を見て、どんなふうに思われるのだろう。
そう考えると、胸がどきどきと高鳴った。
「フリージア!!来てくれたのだな」
「殿下……ご足労いただきまして、ありがとう存じます」
「今日はドレスなのだな。どんな君も素敵だが、その格好だと、昔を思い出すな」
殿下はそうおっしゃると、私の髪に触れ、するすると撫でた。
これが知らない男性ならばエルボーものだけれど、殿下だから嫌じゃない。
少しだけ、胸がちくりと痛んで、そこに手を置いた。
私は、こんなふうに殿下に触れていただけるような人間なのだろうか。
(卑屈になってはダメ。ちゃんと話すのよ)
私は息を吸い、言葉を綴った。
「実は、手紙にも書きましたが、お話したいことがあります。……お聞きくださいますでしょうか」
殿下は頷き、テラスにある茶席の椅子を私に勧めた。
素直に応じて腰かけると、すぐに侍女がやってきて、紅茶と果物のタルトを運んでくる。
(そうそう。殿下はいつも紅茶はノンシュガーで、ミルクを入れるのよね)
殿下につられて、私も昔を懐かしむ気持ちになる。
もし、殿下に私の気持ちを伝えたら、私はどうなるのだろう。
私はフェリス王国に戻るのだろうか。
それとも、カルデラに戻って傭兵を続けるのだろうか。
私はティーカップを置いて、口火を切った。
「先日は、身に余るお話をいただきまして、ありがとうございました。……まさか殿下の気持ちが私にあるなんて、考えもしなくて、驚いてしまったことをお詫びします」
「構わない。一国の王太子から求婚されれば、どのような人物でも、戸惑うのは当然だ」
殿下は、テーブルの上で身を乗り出した。
「君は、どう思った?君の気持ちが知りたい」
「私……私は……」
とたんフラッシュバックする、義母たちの声。
『あんたなんかが王太子殿下のご寵愛を受けてるなんて生意気よ』
『自分が王太子妃になれるって本気で思っているわけ?恥ずかしい』
平手打ちの音、カビ臭いパンの匂い。
私は頭を振って、余計な恐怖を追い出した。
おそるおそる顔を上げると、殿下が、真っ直ぐに私を見ていた。
私は声を絞り出す。
「私、殿下をお慕いしております。初めてお会いした時から、ずっと」
(言えたわ……!)
言い切って、大きく息を吐いた。
そんな私の手を、殿下が取る。
「……フリージア。やっと君の気持ちが聞けた。ありがとう」
殿下の瞳は潤んでいた。
「でも……でも、私は怖いのです。私、義母たちにひどい扱いを受けて……使用人たちの手を借りて、家を出たのです。もしも殿下のお話を受けたら、私はまた、ランドバルク家の娘に戻らなくてはならないでしょう。またあの人たちとかかわると思うと、恐怖で、足がすくんでしまうのです」
素直に弱さをみせた私に、殿下は微笑む。
「ランドバルク夫人の件は、報告が上がっている。安心してほしい。何があっても、私は、君を助けるよ」
「え?」
意外なお言葉で戸惑う私に、殿下は安心させるように優しく続けるのだった。




