第二十八話 王太子に会いに行きます
お茶会を終えた私は、中庭に出て、夜空の星を見上げた。
(そう、私は殿下が好き。……本当は、ずっと好きだったの)
ニーナやノアのおかげで、私はようやく、自分の本当の気持ちを認めることができた気がする。
気づいたからには、もうこれまでのように、なかったことにはできない。これからどうしよう。考えて、私は観念した。
(今の気持ちを、素直に殿下に話してみよう)
これまではジーニアス殿下に話したら、無理やりフェリス王国に連れ戻されると怖かった。
でも、もしかしたら、懐中時計の時みたいに、私を尊重してくださるのかも。
(幼い時から、殿下は素直だった。話せば、分かってくれる可能性もあるわ)
これまでの自分を顧みて、勇気を出して事情を話してみても、今更って思われるかもしれない。
でも、私はまだ、何も伝えていないのだ。
このままハラル砂漠へ行って、お別れすれば、後悔する気がした。
後悔なら、たくさんしてきた。
父も母も早くに死んだ。
伝えたいことを伝えられる時間は、想っているよりもずっと短いものなのだ。
決意を固めた私は、部屋に戻って手紙を書いた。途中からお茶会に参加してくれたマリンも、今は眠っている。
ろうそくの揺れる明かりを頼りに、私はジーニアス殿下へ手紙を書いた。
***
それからしばらくすると、ミール様が訪ねてきた。
「お久しぶりです」
「お、お久しぶりです……」
ミール様が来たということはーー返事だ。
緊張する私に向けて、ミール様は衝撃の一言を放った。
「殿下が国境までお越しです。ご同行を」
「えっ、国境!? フェリス王国の国王となられる殿下が、私なんかのために国境までいらしているのですか?!」
ミール様はため息をついた。
「そうです。……あなた様は昔からそうです。もし、プロポーズの折に、あの手紙のように素直にお話しされていれば、こんな苦労はなさらなかったのに。わが主の気持ちを、甘く見すぎていたのですね」
「お、お手数をおかけして申し訳ございません……。あの、出かけるのなら、団長に外出の許可をもらいたいのですが」
「ヒース殿からはすでに許可を得ています」
「もう!?」
「当然です。必要な荷物もこちらで準備しております。このまま参りますよ」
「え、ちょ、ミール様!!」
そうして着の身着のまま、私はジーニアス殿下の所まで連行されることになった。
フェリス王国を奪還してから、半年も時間が経過していた。
国境にあるモリス城で、殿下はお待ちになっているという。
「まったく。ジーニアス様をここまでお待たせされるなんて。そのような大物はあなた様くらいですよ」
出発した馬車の中で、ミール様はクールにそう言い放った。
モリス城に到着すると、私は用意されていた侍女、宝石、ドレスに囲まれた。
「私はこのままで構いません」
高価なドレスも宝石も、傭兵の私は過ぎた代物だ。そう考えてミール様にお断りすると、ミール様は首を振った。
「あなた様が構わなくても、私どもは構います。さ、支度をお願いします」
「かしこまりました」
そうして、私はお風呂に入れられ、肌も髪も丁寧に磨き上げ、豪華なドレスと宝石をまとい、完璧にお化粧を施されてしまうのだった。




