第二十六話 プロポーズの背景です
懐中時計を拾ってもらったあの日から、私とジーニアス殿下は、「傭兵と王太子」という立場で、少しずつ話をするようになった。
それはまるで王太子妃候補として登城していた頃のように、穏やかで懐かしい時間だ。
(でも、こんな幸せな時間は長くは続かないわ)
だって、幸せほど脆いものはない。
だからせめて、これ以上壊れないで済むように、欲張らず、期待しすぎず、守るべきものを守れるように、必死に生きていくしかないのだ。
脳裏から、優しい顔をして微笑む殿下の顔が離れない。
これは叶わない恋なのだと、私は必死に自分に言い聞かせていた。
***
戦争が進み、フェリス王国の王都マレードの奪還が始まった。
ここを取り戻せれば、一気に優勢に持ち込める。
各地を制圧している帝国兵も、自国へ戻って行くだろう。
そうして七日間戦い、私たちの軍勢は、とうとう籠城するアルスタイン帝国を打ち破った。
ほどなくして戦が終わり、私たち傭兵はもう必要なくなる時期に差し掛かっていた。
戦場となった王都の復興のため、街のがれきの撤去や怪我人の治療を手伝っている合間を縫って、私は生家であるランドバルク家の屋敷をこっそり見に行った。
(義母様たちは生きているかしら。使用人たちは?トムは、みんなは無事なの?)
門の近くまで行くと、偶然、見覚えのある馬車が屋敷に入っていくところに出くわした。
(あれは……義母様と義姉様)
馬車の窓から覗く顔を見て、胸がぎゅ、と苦しくなる。
あの人たちから言われた鋭い言葉、ひどい扱い、暴力が勝手によみがえってくる。
まるで、時が戻ったみたいにリアルだった。
(顔を見ただけでこんなになるなんて……)
私は弱い。
使用人のおかげで外に出て、傭兵になったからもう大丈夫、自分は強くなったって思っていたのに。
私の心はこんなにもまだ、義母たちに支配されているのだ。
(こんなんじゃあ……とても殿下のおそばにいられないわ)
苦い気持ちで拠点にもどった私の所に、ジーニアス殿下の側近ミール様がやってきた。
「ジーニアス殿下がお呼びです」
今気持ちがつらくって。
素直にお断りを言えないまま、私は連れられるままジーニアス殿下の元へ向かう。
そうして私は、夢にまで見た素敵なプロポーズを受けるのだった。




