第二十四話 王太子との再会です
ジーニアス殿下から手紙の返信がきた。
(これだけ拒んでいるのに。……諦めて下さらないのね)
頑固で、誠実で、まっすぐなジーニアス殿下らしい。
思わず、くすっと笑ってしまう。
弓道大会のこと、お茶会のこと、手紙に丁寧に綴られた思い出を追いながら、懐かしさに胸の奥が静かに疼いた。
(やっぱり、私はこの方が好きだ。ーーどれほど遠ざかろうとしていても)
それでも、国に帰ることはできない。
想うことだけなら、許されるだろうか。
(手紙だけなら……)
私はそっと机に向かった。
***
アルスタイン帝国がフェリス王国に侵略した知らせを受けたときは、あまりに突然で、呆然としてしまった。
転移魔法と竜騎士隊を用いて、首都を奇襲されたのだ。
その際に国王王妃両殿下は命を落としたらしい。
失意の中で宗主国エーデル聖国に落ち延びたジーニアス殿下は、聖王の庇護を受けながら仲間を集め、王都を奪還するために蜂起したことが、私たちが再会するきっかけだった。
聖王に従ったカルデラ議長から依頼を受けたヒース団長は傭兵団の部隊を二つに分けた。
一つはジーニアス殿下と合流し、もう一つは国内に残って反乱を起こしている諸侯への応援へ向かうのだ。
私が配属されたのは、ジーニアス殿下と合流する部隊だった。
(殿下のために働けるのは嬉しいけれど……私のこと、覚えているのかな)
国に帰りたくない私は正体をばれたくなくて、マリンが配属された別部隊を希望したけれど、団長は聞き届けなかった。
仕事なら仕方ない。
腹をくくるしかなかった私は、誰にも気づかれませんようにと祈りながら、こそこそと戦場に立った。
ジーニアス殿下は弓を扱うので、早い段階で同じ部隊で戦うことになった。
殿下は目も勘もいい。
すぐに私のことに気が付く。
初めてジーニアス殿下と目が合った夜、私たちの天幕に、客人が訪れた。
ジーニアス殿下の側近ミール様だった。
彼は私の正体には触れず、あくまで一客人として私をジーニアス殿下のところへ連れて行った。
(もうばれている……うそでしょ)
そうして連れられた先では、ジーニアス殿下が待っていた。
「フリージア!」
彼はほほを上気させて、こちらに駆け寄ってこられた。
「生きていたんだな!よかった!」
ジーニアス殿下が、私を心配してくださっていたと分かって、そういえば何も連絡できなかったことに気がついた。
(ずっと気にかけてくださっていたのね)
そして、こうして無事なお姿を拝見できて、私のほうこそ安心したと感じた。
(ばれたくなかったのに……また会えて、嬉しい自分がいる)
思いがけない心の変化を自覚して、心臓がいやな音を立てた。
(流されちゃダメだ。私は、国には帰らない。もう傭兵になったんだから)
だから、私はあえて冷たい声で応える。
「すみませんが、人違いです。私はフリッグ。あなたのことは、知りません」
「なんだと」
ジーニアス殿下は、私の反応に驚き、私の肩をつかんだ。
「俺が君を間違えるものか。その顔、その声、鮮やかな弓さばき。どれをとっても俺がよく知るフリージアそのものだ」
「……しりませんってば!」
やめて。これ以上、私に嘘をつかせないで。
罪悪感にかられた私は、不敬にもジーニアス殿下の手を荒く振り払った。
「もう、私にかかわらないでください。失礼します」
「待ってくれ、フリージア!」
私は国に帰りたくない恐怖と、大切なジーニアス殿下にきつく当たることに耐えられず、後ろから聞こえる声から思い切り逃げたのだった。




