第二十二話 交流会です
フリージアと定期的にお茶を飲む時間を楽しむようになってしばらく経ったころ、俺は一緒に弓の訓練を受けてみようと提案した。
話によると、フリージアはランドバルク家所属の騎士から弓を学んでいたらしい。
しかし、こちらの教師は王太子付きの元騎士団長だ。
フリージアに新しい発見を提供できる可能性を考えた一方、単純にともに学ぶことができれば、きっと楽しいだろうと考えたのだ。
「なるほど。実戦ではそう動けばよいのですね!」
王宮の訓練場で俺の指導者に教えを受けたフリージアは、目をキラキラさせて講義を受けていた。
曰く、「令嬢」の自分は実際に戦場に出る想定がされていないため、ランドバルク家では「習い事」としての弓道になってしまうらしく、物足りないと思っていたそうだ。
的当ても、容赦なく中央に当てていく。
弓道大会では見られなかった生き生きとした姿がそこにあって、思わず頬が綻んだ。
気がつけば、もともと好きだった弓道が、フリージアのおかげで更に好きになっていた。
「楽しいですね、殿下!」
俺への呼び方も、「ジーニアス王太子殿下」から、親しげに「殿下」と変わってきたことも、「友人」らしくてくすぐったい。
そんな風に、数年をかけて良い関係を築いてきた俺とフリージアだったが、ある日、共にいるからこそ知らないところで苦労していたのだと気がついた。
それは、ある公爵家が設けた交流会に、俺とフリージアは招かれた時に判明した。
俺はすぐにフリージアと話したかったのだが、どちらもあいさつ回りで忙しく、上手いタイミングがつかめずにいた。
(どこだ?)
彼女を探しているうちに、裏庭のほうへ出てしまった。
こんな場所にまで来るわけがないかと思い、戻ろうとしたところで、主催者の娘である公爵令嬢たちに取り囲まれている場面に出くわした。
「あなた、ジーニアス王太子殿下と弓を習っているそうね」
「メイドに聞きましたけれど、先ほど、王太子殿下が直々にあなたを探していたそうよ」
「ちょっと弓ができるからって、調子に乗らないでくださる?あなたのような身の程を知らない野蛮な令嬢が、王太子妃に選ばれると本気でお思いなのかしら。能天気でうらやましいわ」
クスクスと嗤う令嬢たちに対して、フリージアは暗い顔で俯いていた。その辛そうな表情を見ると、考えるより先に足が前に出た。
「お前たち!なにをしている!」
声を上げて出ていくと、令嬢たちは蜘蛛の子のように散っていく。
「大丈夫か、フリージア」
急いで駆け寄った俺に、フリージアは意外な言葉を口にした。
「殿下……なぜ、私などをかばわれたのです」
「なんだと?」
てっきり感謝されるのだと思っていた俺は、驚いて聞き返した。
「大切なお前が悪意にさらされていたのだ。助けるのは当然だろう」
「あのご令嬢たちは、私が殿下と友人でいることが気に食わないのです。ですのに殿下ご自身が私を助けてしまえば、もっと反感を買ってしまいます。私の立場は、あくまで王太子妃候補の一人なのですから」
フリージアの言い分は理解できる。
しかし、もしもまたフリージアがまた意地の悪い目に合っていれば、俺は同じ行動をとるだろうと思った。
(……ならば、本当にフリージアと婚約すれば良いのではないか?)
そうすれば、今回のようなことが起こっても、堂々と彼女をかばえる。そう考えたところで、ふと気が付いた。
(……フリージアは、友人のはずなのに……妃とすることが嫌じゃない。いや、むしろ……俺はそれを望んでいる?)
予想外な自分の気持ちに気が付いた俺の頬は、そのとき赤く染まっていたのだろう。
(もしかして、俺は……フリージアを、愛しているのか……?!)
「殿下、どうされました?」
フリージアが無邪気に俺の顔を覗き込む。美しい瞳が真っ直ぐにこちらにむけられている。
「な、なんでもない」
恋心に気が付けば、世界はどこまでも煌めいて見えた。
突き抜けるように青い空、爽やかによそぐ風、漏れ聞こえる音楽。
いつも近くにいたはずのフリージアも、普段よりも輝いている。
(これが恋というものか)
政略結婚をすると思っていた俺に、お前はまたしても、恋愛をする機会を与えてくれるのか。
そう思えば、なおのことフリージアが愛おしく感じられた。
「殿下、そろそろ戻りましょう」
「ああ、そうだな」
自分の気持ちに気がついた俺と何も知らないフリージアは、ふたりで賑わいのほうへと戻って行った。




