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第二十一話 王太子とのお茶会です 二

「報告いたします。殿下が気になさっておられた弓道大会の件ですが、ランドバルク家のご令嬢には、どうやらご事情がおありだったようなのです」

「事情だと?」

 ミールは静かに頷いた。

「はい。殿下がご令嬢をお気に留めておられたのならば、お伝えする価値があると存じます。恐れながら……殿下は誤解をなさっておいでです」

「誤解?」

「実は、あのご令嬢は、弓道大会にて殿下に忖度などしておられませんでした」

「……なんだと。では、三本目に目を閉じて撃ったのはなぜだ」

「ご本人は言い訳になると言いよどんでおられましたが……。三本目を射る直前、殿下に勝ってしまうのではないか、という不安は、確かにあったそうです」

 俺は、息をつめた。

「ご自身の中で、正々堂々と勝負をするか、それともわざと成績を下げるか、迷われたそうです。あの場では、女性であり、年下であり、侯爵家の身で殿下を上まわることの懸念があがっておりました。その空気の中で、殿下より上位に立つ可能性は……ご令嬢にとっては恐ろしいものであったと。恐怖のあまり目を閉じてしまわれた。動揺し、手元が狂い、結果としてあの矢になったそうです」

「……ということは」

 俺は動揺のあまり、無意識に胸に手を当てていた。

「フリージア・ランドバルクは、弓が上手く……それでも進んで俺に忖度をしようとしなかった。俺が望んでいた通りの、令嬢だったということか」

「そのようです。殿下。……実は、フリージア嬢を城内にてお引き留めしております。よろしければ、ご案内いたします」

 俺はミールに頷き返した。

(王族相手ならば、大の男でさえ身構える。幼い姫君であれば、恐ろしく思うことは当然だ)

 彼女は自分と俺との関係性を正しく理解していた。だからこそ、迷いが生まれたとも言える。

 武勇に優れているだけではない。

 状況を読み、身を処するある種の政治的な聡明さもあるのだ。

「フリージア・ランドバルク!」

 応接間の一室で、フリージアは青ざめた顔をして座っていた。

「ジーニアス王太子殿下?!なぜあなた様が?」

 俺の姿に驚いたところから、彼女は理由を知らされず、ただ侍従を待っていたのだと分かった。

「侍従から話を聞いた。……どうやら俺は、思い違いをしていたらしい。先ほどの非礼を詫びさせてくれ。その上で、どうか引き続き婚約者候補として、定期的に会ってほしい。すまなかった」

 フリージアは目を白黒させるばかりだった。俺は包み隠さず、ことの顛末を説明した。

 弓道大会のこと。

 今日の態度。

 侍従の計らい。

 彼女ははまじめにひとつひとつ頷きながら聞いていた。

「……なんと申し上げればよいのか。殿下は、お寂しかったのですね」

「なに?」

 思わず漏れた低い声に、フリージアは身をすくめた。

「不敬であったなら、申し訳ございません」

「いや……。案外、そうなのかもしれないな」

 王太子という身分で『対等な』関係性を望むこと。それがどんなに難しいことか。生まれてからこの方、身に染みてわかっていたはずだった。同世代で同じく弓を引く者。自分に近い存在だからこそ、期待しすぎていたのだ。

(俺は、彼女と友人になりたかったのか)

 腑に落ちた俺は、フリージアに自然に微笑みを向けた。

「君は、すごいな」

 彼女はほっとしたように肩の力を抜く。

「素晴らしいのは殿下です。私が目をつぶったところをご覧になっていたなんて……殿下は目がよろしいのですね」

 同じ弓をたしなむ者としての言葉が素直に嬉しかった。

 俺は笑みを深める。

「フリージア・ランドバルク。君とはよい友人になれそうだ」

「このような私でよろしければ、また弓のお話をいたしましょう」

(……年下の令嬢に、随分ひどい態度をとってしまったものだ)

 反省を胸に、俺は馬車へ向かうフリージアを見送った。

 思いがけず、憧れの『友人』を得た俺は、足取り軽く自室へと戻った。

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